無形資産を活用したビジネスモデルの革新(前)

【連載】サステナビリティ経営戦略(16)

デジタル・トランスフォーメーション(DX)に代表される急速な技術革新、モノの生産・供給だけでなく個人のニーズに合致したコト(顧客体験)の提供、気候変動や人権など環境・社会課題への関心の高まりといった経営環境の急激な変化、更には経営におけるリスク要素として昨今重要性が高まっている国際的な経済安全保障(サイバーセキュリティ含む)の観点などが相まって、知財・無形資産は、中長期の企業価値向上のための競争力の源泉として益々その存在感を増しています。(サステナビリティ経営研究家=遠藤 直見)

知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン

【連載】サステナビリティ経営戦略(9)及び(10)で、知財・無形資産1の投資・活用の面から日本企業(中小・スタートアップなどを含む)の持続的なイノベーション創出を促す政府の取り組みについてご紹介しました。

昨年12月20日、その成果の一環として「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン(案)」が公表されました。パブリックコメントを経て1月末にも正式決定されます。

本ガイドラインは、企業が研究開発や知財など無形資産への投資・活用戦略を価値創造ストーリーとして開示し、それを投資家等が分析・評価して企業に資金を投じる流れをつくるための手引きとなるものです。

本ガイドラインでは、知財・無形資産の投資・活用のための5つの原則が示されています。とりわけ重要なのが、知財・無形資産の投資・活用を「価格決定力・ゲームチェンジに繋げる(原則1)」、「費用でなく資産の形成と捉える(原則2)」でしょう。

革新的なビジネスモデルを価値創造ストーリーとして説明

日本企業は、過去30年間韓国や中国企業との開発・価格競争で後塵を排し、GAFAMなど大手IT企業のような革新的ビジネスモデルも作れませんでした。今後は、知財・無形資産を活用した高付加価値を提供するビジネスモデルを構築し、価格決定力に繋げること、イノベーションによる競争環境の変革(ゲームチェンジ)に繋げ、そこで勝っていくことことが求められます。

また、革新的な市場創成期には、ある程度の赤字を覚悟してでも知財・無形資産に十分に投資する必要があります。そのためには、経営者は知財・無形資産への投資を会計上の費用としてではなく、資産の形成であると捉え直すと共に、投資家への説明なども工夫し、中長期的な投資への理解を得る必要があります。

本ガイドラインでは、日本企業が知財・無形資産を活用した革新的なビジネスモデルを構築し、それを中長期の価値創造ストーリーとしてロジカルに投資家等に説明することを促す7つのアクションが示されています。

<7つのアクション>
①現状の姿の把握、②重要課題の特定と戦略の位置づけの明確化、③価値創造ストーリーの構築、④投資や資源配分の戦略の構築、⑤戦略の構築・実行体制とガバナンス構築、⑥投資・活用戦略の開示・発信、⑦投資家等との対話を通じた戦略の錬磨

これらは、基本的に以下のように言い換えることができると思います。

”自社のサステナブルな価値創造に資する重要課題を踏まえたビジネスモデル(知財・無形資産の投資・配分含む)を構築・展開し、価値創造ストーリーとして発信し、投資家等との対話を通してビジネスモデル・戦略を練磨させる。”

後編では、知財・無形資産を活用したビジネスモデルの価値創造ストーリーの具体例について解説します。


1 そのスコープは、特許権、商標権、意匠権、著作権といった知財権に限られず、技術、ブランド、デザイン、コンテンツ、データ、ノウハウ、顧客ネットワーク、信頼・レピュテーション、バリューチェーン、サプライチェーン、これ らを生み出す組織能力・プロセスなど、幅広い知財・無形資産を含めている。これは、国際統合報告の資本の分類のうち、「知的資本」「社会・関係資本」等をカバーするものである。(出典:知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン(案))

後編はこちら

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

東北大学理学部数学科卒。NECでソフトウェア開発、品質企画・推進部門を経て、CSR/サステナビリティ推進業務全般を担当。国際社会経済研究所(NECのシンクタンク系グループ企業)の主幹研究員としてサステナビリティ経営の調査・研究に従事。現在はフリーランスのサステナビリティ経営研究家として「日本企業の持続可能な経営のあるべき姿」についての調査・研究に従事。オルタナ編集委員

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キーワード: #ESG#SDGs

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