サステナ情報開示、2022年に起こりうる4つの変化

【連載】サステナビリティ経営戦略(18)

2022年はサステナビリティ情報の開示を巡り、国内外で大きな進展がありそうです。近年、企業価値創造におけるサステナビリティ情報の重要性の認識が増すにつれて、国際的に比較可能で一貫した開示基準へのニーズが高まると共に、投資家を中心に開示義務化への期待が高まっています。国内では、金融庁において有価証券報告書でのサステナビリティ情報開示のあり方についての検討が進んでいます。(サステナビリティ経営研究家=遠藤 直見)

■ サステナビリティ情報開示の義務化を巡る国際的な動き

IFRS財団

国際会計基準(IFRS)の設定主体であるIFRS財団は、21年11月にサステナビリティ情報の開示基準の設定主体となる国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)を創設しました。ISSBの議長には仏ダノンの前CEOエマニュエル・ファベール氏が選任されています。

ISSBは、気候関連情報の開示基準から策定を始め、その後、他のサステナビリティ関連テーマについても議論を進めていくとしています。気候変動に関する開示基準の公開草案は22年6月までに公表、22年末までに基準の完成を目指す予定です。

ISSBは、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」という4つの柱を基本とする気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の枠組みをベースに基準策定を進めており、基本的にその開示媒体は法定開示書類であるアニュアルレポート(日本では有価証券報告書)になると考えられます。

EU委員会

21年4月、EU委員会が、上場企業及び一定の要件を満たす非上場企業に対してサステナビリティ情報開示を要求する企業サステナビリティ報告指令案(CSRD)を公表しました。

サステナビリティ情報開示をアニュアルレポート内で行うという義務を対象企業に課しています。EU加盟国は、23年初めの適用に向け、22年末までにCSRDに基づき国内法を整備することを求められています。

なお、ISSB基準がサステナビリティ課題が企業に与える財務的影響を重視するのに対し、CSRDの特徴は企業が環境や社会に与える影響も重視する点にあります。

その他、米国証券取引委員会(SEC)、英国財務省なども気候変動や人的資本の開示義務化に向けた取り組みを進めています。

■ 国内の義務化に向けた動き

コーポレートガバナンス・コードの改訂

22年4月に行われる東京証券取引所の新市場区分の見直しに併せて、21年6月にコーポレートガバナンス・コードが改訂されました。

本コードでは、上場企業に対し「経営戦略の開示に当たり自社のサステナビリティについての取組み(人的資本、知的財産への投資含む)の適切な開示」、プライム市場上場企業には「TCFDまたはそれと同等の枠組み(ISSB基準が想定)に基づく気候変動に関する開示の質と量の充実」を求めています。

本コードはソフトロー ですが、プライム市場上場企業(1800社程度になる予定)にとっては実質的な義務化と言えます。

金融庁の金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ

金融庁は、21年6月の金融審議会での諮問を受けてディスクロージャーワーキング・グループ(以下、DWG)を設置し、主に統合報告書やサステナビリティレポート等の任意の開示書類にて開示されているサステナビリティ情報について、有価証券報告書(発行企業は約4300社)での開示の必要性及びそのあり方等について検討を進めています。

DWGでの議論はISSBの動向を踏まえて行うこととされています。そのため、有価証券報告書でサステナビリティ情報の開示が求められるようになる場合、ISSB基準が適用されることが想定されます。

後編では、サステナビリティ情報開示義務化の意義と課題について深掘りします。

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

東北大学理学部数学科卒。NECでソフトウェア開発、品質企画・推進部門を経て、CSR/サステナビリティ推進業務全般を担当。国際社会経済研究所(NECのシンクタンク系グループ企業)の主幹研究員としてサステナビリティ経営の調査・研究に従事。現在はフリーランスのサステナビリティ経営研究家として「日本企業の持続可能な経営のあるべき姿」についての調査・研究に従事。オルタナ編集委員

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