英シンクタンク「アンモニア石炭混焼で脱炭素できず」

日本が「ゼロエミッション火力」の名のもとに進める石炭新技術は、脱炭素にほとんど貢献しないーー。英国の気候シンクタンクは2月14に発表したレポートで、こう指摘した。石炭火力のアンモニア混焼、IGCC(石炭ガス化複合発電)、 CCS(二酸化炭素回収貯留)の3つを検証し、これらの技術に固執すれば「電力会社の株主と日本社会が大きな代償を払う可能性がある」と警鐘を鳴らす。(オルタナ編集部・長濱慎)

英シンクタンクが日本語版レポートを発表(Transition Zero『石炭新技術と日本』表紙より)

■20%混焼には全世界のアンモニア市場に匹敵する量

レポートを出した気候シンクタンク「トランジション・ゼロ」は、ロンドンとシンガポールに拠点を置く。2021年10月には「パリ協定の1.5℃目標の達成には、約3000基の石炭火力を止めなければならない」と報告をした。

今回のレポート「石炭新技術と日本」では、政府が実証実験を進めている「アンモニア20%混焼」の経済性や環境性を検証。安価な「グレーアンモニア」(天然ガスから製造)を使用しても燃料コストは石炭の約2倍(約50米ドル/MWh)に、CO2排出量は最新の天然ガス火力の約2倍の600グラム/kWh以上になるという。

アンモニアは燃焼時にCOを出さないが、大気汚染物質のNOx(窒素酸化物)を出す。仮に混焼率を40%に増やすとアンモニアが燃えきらず、同じく大気汚染を引き起こすPM2.5が出るリスクも指摘する。

レポートは、20%混焼に必要なアンモニア量を毎年2000〜2500万トンと試算。これは2020年現在の全世界のアンモニア市場規模に匹敵し、現実性に疑問を投げかける。これらの原料として化石燃料を消費し続けることは、脱炭素をいたずらに遅らせるだけだ。

■「クリーン・コール」のCO2排出量は天然ガス火力の2倍

石炭をガス化して火力発電に使用するIGCCは、21年4月に福島・勿来(なこそ)で営業運転が始まった。「クリーン・コール・テクノロジー」として期待を集め、最新の石炭火力と比較してCO2排出量を15%削減できるという。しかしそれでも、アンモニア混焼と同じく排出量は最新の天然ガス火力の約2倍となる。

レポートは、世界では多くのIGCCが失敗に終わっていると指摘。1990年代よりアメリカ、中国、韓国など各地でIGCCプラントが稼働したものの、技術的な問題によって運用コストがかさみ、ほとんどが運転を取りやめたことを紹介している。

■CCS貯留地が10年で満杯に

CO2を回収し地中に貯留するCCSについては、最大の問題点として貯留キャパシティの不足を挙げる。CCSの研究を行なってきた「RITE」(地球環境産業技術研究機構)によると、日本の潜在的なCO2貯留能力は11.3ギガトン。石炭火力でCCSを使えば、国内貯留地は10年で一杯になってしまうと警鐘を鳴らす。

回収にかかるコストについては、1トンあたり4000円という経済産業省の試算に疑問を呈する。これは追加燃料費、ライセンス、その他プロジェクト開発にともなう追加費用などの「隠れたコスト」を一切考慮しておらず、これらを含めると2倍以上になる可能性もあるという。

レポートは石炭火力への技術投資を続けることは「多額の無駄遣いに終わり、電力会社の株主と日本社会が大きな代償を払う可能性がある」と、手厳しい。そして脱炭素への代替策として、価格競争力が高まりつつある再生可能エネルギーへのシフトを進めるべきと締めくくった。

ただし、レポートはアンモニアやCCS自体を否定しておらず、すぐの脱炭素が難しい重化学工業(セメント、鉄鋼など)や長距離輸送(道路貨物、海運、空輸など)では有望な技術と認めている。あくまでも問題としているのは、再エネという明白な選択肢のある電力部門で、わざわざ石炭に固執し続ける日本の姿勢だ。

トランジション・ゼロは2020年に設立。日本に関するレポートを出したのは初だが、作成に関わったアナリストは「IEA(国際エネルギー機関)」や英調査機関「HISマークイット」の出身者で、日本の動向にも詳しいという。オルタナ編集部の取材に対し、広報担当は以下のようにコメントした。

「私たちはゼロカーボン社会への移行に必要なデータと財務分析を、パリ協定の目標達成を目指す投資家や政策立案者、企業、市民に提供している。今回の調査結果は、日本の先進的な石炭技術が経済性、環境性、技術性の全てにおいて再エネに劣ることを示した」

S.Nagahama

長濱 慎(オルタナ副編集長)

都市ガス業界のPR誌で約10年、メイン記者として活動。2022年オルタナ編集部に。環境、エネルギー、人権、SDGsなど、取材ジャンルを広げてサステナブルな社会の実現に向けた情報発信を行う。プライベートでは日本の刑事司法に関心を持ち、冤罪事件の支援活動に取り組む。

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