生コン企業、自社の脱炭素技術を同業他社に公開へ

バクテリアがひび割れを修復する「自己治癒コンクリート」の実用化を、世界で初めて成功させた會澤高圧コンクリート(北海道苫小牧市)が、温室効果ガスの排出量ゼロを目指す指標として「NET ZERO 2035」を1月、発表した。保有する脱炭素化技術を同業他社に包括的に技術移転することで、環境負荷の高いコンクリート業界の脱炭素化を推進するという。(寺町幸枝)


會澤高圧コンクリート代表取締役社長​の會澤祥弘氏

達成時期を明確化したアクションプラン

2021年の第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)で、平均気温を産業革命前の平均より1.5℃以下の上昇に抑えることが人類共通の政策目標となった。達成目標年度の2030年に向けて国、自治体、企業、市民それぞれのレベルの努力が求められる一方で、達成までの道筋を明確に描けているケースは少ない。

北海道の生コンクリート製造会社、會澤高圧コンクリートは今回、「NET ZERO 2035」を掲げ、開発中のテクノロジーを実装させて2035年までに脱炭素化を達成すると公表した。同社社長​の會澤祥弘氏は2035年という期限を設けた理由を「努力目標ではなく、冷徹なアクションプランであり、企業としての誓約だ」と話す。

「NET ZERO 2035」を公表して2週間の間に、すでに上場大手の成形済みのコンクリートを生産するプレキャストメーカーや、売上高100億円以上の地域トップのコンクリート関連企業を中心に、10数社と具体的な交渉が始まっているという。

「今回の活動の発表以来、地域の偏りもなく、ほぼ全国から問い合わせが寄せられている。ゼネコンからの照会も増え、スーパーゼネコンや地域の有力ゼネコンから低炭素系素材の導入を具体的に進めたいという相談も相次いでいる」と、話す會澤氏。想定を超える好反応と手ごたえを感じている。


NET ZERO 2035ロゴ

委託生産と製造物責任を追うことで技術移転を可能に

會澤高圧コンクリートが脱炭素化を実現するための方法として選んだ手法が「技術移転」だ。とはいえ、藪から棒に他社と技術を共有することは難しいだろう。これに対して、會澤氏は「上流と下流を含むスコープ3ベースのサプライチェーンを、同業並びに需要家(ゼネコン含むコンクリートを必要とする事業者)と一緒に構築することになる」と話す。

スコープ3とは、直接排出量にあたるスコープ1、間接排出量にあたるスコープ2に続く、「その他の間接排出量」を指す。企業活動の「調達関連」や「出荷以降」に該当する活動にあたり、會澤高圧コンクリートの動きは複雑になる。

まず施主や自治体をはじめ、コンクリートを必要とする需要家に対して、施設整備における低炭素化を実現できる「自己治癒コンクリート」や「低炭素コンクリート」の採用を、「NET ZERO 2035」の下、協力企業となった組織とともに働きかける。

契約後に、會澤高圧コンクリートの製造技術に基づく製造を協力企業に委託し、それをいったん會澤高圧コンクリートが買い取ることで、技術移転をスムーズに進めるという。プロセスそのものは非常にややこしい形になるが、「製造物責任」を會澤高圧コンクリートが担うことで、委託生産の過程で起こりやすい品質の問題をクリアし、その上で移転先企業の負担を減らすという。

一方、協力企業は脱炭素を切り口に営業強化が可能になり、會澤高圧コンクリートは供給網を全国に広げることができる。

環境省はコンクリート・セメント産業を重要視

環境省は昨年12月、「カーボンリサイクル」に関するリポートの中で、「コンクリート・セメント産業はカーンボンリサイクルの重要分野」と指摘している。

リポートによれば、二酸化炭素を排出する石灰石を使わずにセメントを生成する「カーボンリサイクルセメント」を技術開発で新たに生産することや、すでに含有されている二酸化炭素を吸収するコンクリートの技術をさらに最大化させることで、将来的には「コンクリート・セメント産業のみならず、広く建設業全体の一連のしくみとして、廃棄物などが循環するシステムの構築」を目指す必要があると述べている。

さらに、モノづくりのポータルサイト「MONOist」によると、スコープ3領域は製造業の二酸化炭素排出量に関してスコープ1、2と比べ割合が概して多く、全体の8〜9割を占めるケースがほとんどだという。そのため、製造業のサプライチェーン全体の脱炭素を目指す上で、スコープ3の排出量を徹底的に削除することは必須だ。

こうした中で、會澤高圧コンクリートは、情報配信を積極的に行いながら、横と縦の連携を強めていく構えだ。「『NET ZERO 2035』の公式サイトを、施設整備に関わる脱炭素の情報配信として最有力サイトに育てること」と話す會澤氏。「我々の活動が何日どれだけ炭素削減につながっているかを発信するだけでなく、需要家にもフォーカスし、脱炭素系マテリアルの具体的な利用方法を発信していくつもりだ」という會澤氏の言葉に、大きな期待がかかる。


自己治癒するコンクリートBasiliskの原料

Basiliskが自然治癒した状態

teramachi

寺町 幸枝(在外ジャーナリスト協会理事)

ファッション誌のライターとしてキャリアをスタートし、米国在住10年の間に、funtrap名義でファッションビジネスを展開。同時にビジネスやサステナブルブランドなどの取材を重ね、現在は東京を拠点に、ビジネスとカルチャー全般の取材執筆活動を行う。出稿先は、Yahoo!ニュース、オルタナ 、47ニュース、SUUMO Journal他。共同通信特約記者。在外ジャーナリスト協会(Global Press)理事。執筆記事一覧

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キーワード: #SDGs#脱炭素

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