デザインを侮るなかれ、作り込むべき役割がある

■小林光のエコめがね(15)■
本欄では、ビジネスは生態系の良き知恵をもっと学ぶべき、と訴えている。今回は意匠、デザインについて考えてみたい。

私は蝶が子どもの頃から大好きで、文字通り図鑑を枕に寝ていたほどである。特に不思議なのは羽の模様である。

興味のない人にはそもそも大きいか小さいか、黒いか白いか程度しか識別できないだろうが、実は極めて多様で、一つとして同じ文様を持つ別種はいない。蝶の羽は多様だが、私などがびっくりするのは、例えばABC26文字と1から9の数字ですら羽の上に探すことができることである。

蝶はアルファベットを解すはずもないのに、羽には、人間から見れば文字に見える物が書いてある。

何とも奇妙だが、蝶の間では大事な、同じ仲間かどうかのサインであり、住んでいる環境への擬態の結果などであったりもする。きれいなだけではなく、見た目が大事な役割を果たしている。

ノルウェーの自然写真家Kjell Bloch Sandved氏の作品。同氏はアルファベットと数字に似た蝶の羽の写真で知られる(My Modern Metのサイトから)

人間の間のコミュニケーション、そして組織の間のコミュニケーションにも、意匠の作り込みが欠かせない。それによって新しい協力関係、取引関係を効率的に生まれさせられるからである。

拙コラムの第3回「ワイガヤで集まる『環境寄り合い所』、都が推進」(で紹介した、東京都の呼びかけに応えて始まった活動「Do!Nuts Tokyo」は、このほど、「グラフィック・デザイン・USA」のコンペティションで栄えある「ブランディング賞」を授与された。

このコンペは、60年近くの伝統を持ち、特にコロナ禍の今回は、クリエイターたちの力が入って1万点以上の応募があったと言う。その中で、700作品に何らかの賞が授けられたが狭き門である。まずはおめでとう、と申し上げたい。

東京都の呼びかけに応えて始まった活動「Do!Nuts Tokyo」(「Do!Nuts Tokyo」のサイトから)

何が評価されたのだろうか。一つには、多様な主体の参加で新しい社会づくりを進めること、その目指す社会が「ドーナッツ経済学」が推奨するバランスある世界であって、第二に、そこへの移行手段として、クレイジー(Do Nuts)なチャレンジを掲げていて、ワクワク感があり、ファッショナブルな若者を呼び込むクールさがある、という、その活動全体の作り込みが評価を受けたようだ。

環境にワクワクしてみたい方は、一度覗いてみていただけると、何か通い合うものがあるに違いない。

hikaru

小林 光(東大先端科学技術研究センター研究顧問)

1949年、東京生まれ。73年、慶應義塾大学経済学部を卒業し、環境庁入庁。環境管理局長、地球環境局長、事務次官を歴任し、2011年退官。以降、慶應SFCや東大駒場、米国ノースセントラル・カレッジなどで教鞭を執る。社会人として、東大都市工学科修了、工学博士。上場企業の社外取締役やエコ賃貸施主として経営にも携わる

執筆記事一覧
キーワード:

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..