「外来種は駆除」、そう簡単には言えない理由

私たちに身近な生物多様性 38 

2022年1月、「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(外来生物法)の施行状況等を踏まえた今後講ずべき必要な措置について」との答申が、中央環境審議会自然環境部会野生生物小委員会から、環境大臣および農林水産大臣に対してなされた。

ハクビシン。首都圏だけでも年間1万頭以上が駆除されることもあるという

日本各地での具体的課題と対応、および現状などがコンパクトにまとめられている。日本各地のアライグマ、タイワンザル、キョンなどの哺乳類のみならず爬虫類や植物など、外来生物に関心をお持ちの方には興味深い情報がつまっている。

様々な課題がある中で、ここでは1点、既に国内に定着している外来生物の「殺処分」を取り上げて、生命の選別という多くの外来生物対策に現状ほぼ必然的に付随する問題をとりあげたい。

ちなみ外来生物とは、外来種とほぼ同じ意味だが、外来生物法では国外から導入された外来種を外来生物と規定している。

かつて伊豆諸島にネズミ駆除などのために導入されたホンドイタチは、伊豆諸島では外来種(国内外来種)だが外来生物法にいう外来生物ではない。

ミシシッピアカミミガメ

外来生物の駆除と聞いて、すぐ思い浮かぶ事例はミシシッピアカミミガメだ。

かつてお菓子の懸賞景品に使われ「アマゾンのミドリガメ」として日本中にばらまかれたこともある。今や全国で繁殖した彼らは、特定外来生物に指定はされていないものの(特定外来生物に指定することで大量に遺棄され、野外で一層増加することなどが危惧されている)、年間何十万匹駆除されているだろうか。

中にはかつて子供たちや、その家族の笑顔に囲まれて暮らしていたカメもいたかもしれない。

アカミミガメについては、その駆除・処分や遺骸の肥料化などの活用方法、担当者のメンタル対応に至る細やかな「防除マニュアル」等がある。殺処分にあたっては、苦痛を与えない方法として、冷凍死させる方法などがとられている。

しかし、カメは体温が下がると動けなくなることから、もがくことができず苦痛がないように見えるだけで、細胞が凍結する際には相当な痛みがあるはず。動物福祉の観点から、凍結死させるにしても麻酔をすべきだという声もある。

子供のころ私もカメを飼っていた。クサガメとイシガメだった。お菓子を買って「アマゾンのミドリガメ」があたるという懸賞にも、外れ続きだったが応募した。

中学に進学する頃、カメへの感謝と「そうすれば浦島太郎のように良いことがある」という大人たちの言葉に従って、近所の川に放した。懸賞に当たっていればミドリガメ(ミシシッピアカミミガメ)についてもそうしたことだろう。

ちなみに、実質的に在来種扱いのクサガメも、かつて大陸から持ち込まれたカメで、広い意味では外来生物だといわれる。だがクサガメとアカミミガメの扱いには大きな違いがある。

また同じイシガメでも千葉県の印旛沼流域では、10年以上前から沖縄八重山地方のイシガメなどが定着しつつある。もとよりこれも外来種(国内)ではあるが、やはりアカミミガメとは扱いが違う。

ハクビシン

東京で日常的に駆除捕殺されている野生哺乳類にハクビシンがいる。東京23区でもほぼ全域に生息する。私自身、板橋区内、豊島区内で何度も見かけている。交通事故にあって横たわっている姿を目の当たりにしたこともある。

ハクビシンは、外来種か在来種か議論があったこともあり、外来生物と推測はされているが、特定外来生物(原則誰もが駆除できる)には指定されていない。しかし、首都圏で年間に駆除される頭数は、1万頭を超えることもあるという。この駆除捕殺は有害鳥獣駆除等、害獣扱いなどでなされている。

土管の中、線路の下、人家やビルの縁の下・天井裏など人家近くに住みつき、近隣で同じような食物にありついていたとしても、人間に発見捕獲されたとき、明らかに在来種であるキツネ、タヌキ、アナグマなどなら生命を長らえることが可能だが、ハクビシンに待っているのは生命の終わりだ。

市街地に住み着いたキツネ、タヌキ、アナグマなどは、時にはテレビ番組で取り上げられ、近隣の住民が暖かく見守っている姿とともに、人気アナウンサーのナレーションで紹介されたりもするが、駆除捕殺されたといった話はほとんど耳にしない。

ハクビシンの他にも、明らかに外来種で特定外来生物に指定されているアライグマの場合も、捕獲されることは殺処分とほぼセットだ。アライグマやハクビシンの殺処分は、コストと作業者の安全確保のため捕獲した檻や籠ごと水中に沈める溺死処分も少なくないと聞く。

ネコの場合

野生化した飼い猫(ノネコ)は、世界中で生態系に対して深刻な脅威を与えている侵略的外来種だが、日本では近年ノネコを捕獲しても殺処分することはめっきり減ったという。ペットとしての需要があるからだろうが、多くの個体は馴化施設に送られるなどして生き延びることができる。

背景には、空前のネコブームとも言われるほどのネコ人気もあるのだろう。私がしばしば出かけるバードサンクチュアリには、かつては野良猫とともに野犬がいた。野犬は姿を消したが野良猫は相変わらず行くたびに見かける。

数年前の時点だが、関係者に事情をお聞きした際、「今、炎上がこわくて、野犬はともかくネコの駆除を引き受けてくれる業者はほとんどない」と話していた。

外来種駆除は正義か

最近まで池のかいぼりがテーマのテレビ番組があった。番組では子供たちがとらえたカメや魚などを専門家に見せて在来種と外来種を選り分ける風景もあった。そういった場面以外にも、アカミミガメなど外来種の駆除に環境学習の一環として、子供たちが参加することもある。

貯水池やため池など池の機能維持のためにかいぼりは必要だ。結果として地域の生態系の保全につながることも多く、かいぼり自体には、もとより全く異論はない。また、子供たちが地域の本来の自然の姿、生きものの種類を知り保全することも大切なことだ。

とはいえ、外来種(日本に持ち込まれた時期や経緯などばらばらで、生態系の一部として定着しているものも多い)ならば、そこに「特定外来生物」という限定的定義をおいたにせよ、駆除捕殺して当然、それが生物多様性を保全するための「正義」だ、ということになってしまっては、生命の重さに対する感覚が麻痺してしまわないだろうか。

まして、人間の好みによって扱いに雲泥の差が出てきてしまうとしたら尚更だ。差別にもつながりかねない危うさを感じてしまう。

外来種は、本来の生息地から人間の都合や営為によって別の場所に連れて来られ(運ばれ)、そこで必死に生き延びてきた生きものやその子孫たちだ。

外来生物対策、なかんずくそれが環境学習など教育の一環として行われるときは、駆除するにせよ、生命の重さを再認識する機会ともなるように実施されることを願ってやまない。

駆除捕殺される個々の外来種は、人間の過ちを彼らの命をもってあがなっている存在でもある。

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坂本 優(生きものコラムニスト/環境NGO代表)

1953年生。東京大学卒業後、味の素株式会社入社。法務・総務業務を中心に担当。カルピス株式会社(現アサヒ飲料株式会社)出向、転籍を経て、同社のアサヒグループ入り以降、同グループ各社で、法務・コンプライアンス業務等を担当。2018年12月65歳をもって退職。大学時代「動物の科学研究会」に参加。味の素在籍時、現「味の素バードサンクチュアリ」を開設する等、生きものを通した環境問題にも通じる。(2011年以降、バルディーズ研究会議長。趣味ラグビー シニアラグビーチーム「不惑倶楽部」の黄色パンツ (数え歳70代チーム)にて現役続行中)

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キーワード: #生物多様性

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