旧優生保護法裁判、国に上告断念求め学生が署名活動

旧優生保護法下での強制不妊手術を巡り、これまで原告25人が全国9カ所の裁判所に提訴してきた。東京都の北三郎さん(78、活動名)が国に賠償を求めた訴訟で、東京高裁は3月11日、請求を棄却した1審を変更し、国に1500万円の賠償を命じた。原告弁護団は国に上告を断念するように求め、支援者の大学生は署名活動を行っている。弁護団の一人、藤木和子弁護士にこれまでの経緯について寄稿してもらった。

東京高裁は、原告側の逆転勝訴の判決を言い渡した
東京高裁は、原告側の逆転勝訴の判決を言い渡した

14歳で手術、64年目の逆転勝訴判決

「国は勝手に私の身体にメスを入れて、当時14歳だった私を子どもが作れない身体にして、知らぬ、存ぜぬ。責任さえもない。そんなことで許せるわけがありません。私は死ぬまで闘う。そのために、私は東京高等裁判所に控訴します」。

2020年6月30日、優生保護法裁判の原告北三郎さん(活動名、78歳)が、東京地裁で敗訴判決を受けた際のコメントです。

そして、東京高裁に控訴してから2回目の春。2022年3月11日の判決は「逆転勝訴」でした。

北さんは「こんなうれしいことは滅多にないです。64年間、苦しんできたことに、向き合ってくれた裁判官がいたのが嬉しかった。『正義と公平の裁判を!』という願いが叶えられました」と笑顔でした。

優生保護法とは?そして、北さんの人生

優生保護法(1948年~96年)を巡る国家賠償訴訟は、2018年1月の仙台地裁での提訴をきっかけに、原告25人が全国9カ所の裁判所に提訴してきました。

障害や疾患、素行不良などを理由に、国から子どもを作るべきでないとされて、生殖能力を奪う強制不妊手術や妊娠中絶を受けさせられた被害者です。

北さんは、複雑な家庭環境で育ち、反抗期による素行不良で児童施設に入所していた14歳の時、何も説明されないまま強制不妊手術を受けさせられました。就職後、見合いなども断っていましたが、知人のすすめで結婚。手術のことは妻が病気で亡くなる直前まで打ち明けられませんでした。

その後、手術から60年以上経った2018年1月。裁判のことを報道で知った北さんは、自分に行われた手術は優生保護法という法律に基づいた国策だったと知りました。

「父親が手術をさせたと恨んでいたが、国だったのか」と驚くとともに、「多くの被害者に声を上げてほしい」と決意。同年5月、提訴しました。

ちなみに、弁護団で活動している私自身も、障害のある弟と育ち、自分の結婚や出産などにも悩んできました。私自身も、原告の方々から立ち上がる勇気をいただいて活動しています。

6つの敗訴判決から、2つの「逆転勝訴」判決

裁判を機に、2019年4月には、議員連盟の尽力により「旧優生保護法に基づく優生手術を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」が成立。生存している強制不妊手術の被害者に320万円を支給するなど大きく進展しました。

しかし、これまでの6つの地裁判決は、原告敗訴。手術等の時から20年経過して裁判の請求権がなくなった、と「除斥期間(じょせききかん)」を画一的に適用して原告の請求を退けました。

国による重大な人権侵害行為の責任を単なる時間の経過によって消滅させてよいのか?あまりにも酷であり、正義・公平に反するのではないか?という「時の壁」が、裁判の最大の争点となりました。

原告25人が全国9カ所の裁判所に提訴してきた

それに応えたのが、2月22日の大阪高裁判決(7つ目)と東京高裁での原告の勝訴判決(8つ目)でした。正義と公平を実現する歴史的な判決でした。

東京高裁は国の賠償額を1500万円と認定しました。

また、裁判長は判決言い渡し後、北さんに向けて語りかけました。

「北さんは強制不妊手術によって、人としての価値が低くなったものでも幸福になる可能性を失ったものではない。差別されることなく今後も幸せに過ごしてほしい」

「差別のない社会を作るのは国や社会全体である」

「報道等により、被害者を含む子をもうけることができない人や、子をもうけない人を傷付けることはあってはならない」

司法の良心を感じるあたたかい言葉でした。

裁判は金額での解決となってしまいますが、原告の多くは「お金がほしいからではない。国が間違ったことをしたのだから、きちんと謝ってほしいだけ。誤った法律・施策で人生を狂わされる被害者を二度と出さないように、国を信じたい」と語っています。

総理大臣、厚生労働大臣には、原告の方々に直接、謝罪の意を伝えてほしいと思います。

高齢の原告の方々が残りの人生を穏やかに過ごせる国であってほしい――。今度こそ最高裁に上告されず、早期解決が実現することを心から願っています。

大学生が署名活動「国は最高裁に上告しないで」

国は最高裁に上告せず、この判決を確定させてほしい――。北さんの笑顔が3月25日の国の最高裁への上告期限後も続きますようにと、大学生が主体となって署名しています。

原告は全員が60代~80代の高齢です。25人中4人が裁判の道半ばで亡くなっています。一刻の猶予もありません。署名は22日に厚労省提出予定で、できれば厚労大臣にお渡しすべくお願いしています。

前回の大阪高裁の時の署名は4日間で14000以上の署名が集まったのですが、国は上告。今回は2度目のためか、苦戦中です。こちらの思いを人数という形で伝え続けていくことも大切ですので、よろしければ、ぜひご協力お願いいたします。

●オンライン署名

最後にもう一度、北さんのコメントです。北さんの笑顔が続きますように。

「涙がとまらなかったですよ。こんなうれしいことは滅多にないです。64年間ですよ。長年苦しんできたことに、向き合ってくれた裁判官がいたのが嬉しかったです。裁判官に本当にお礼を言いたいです。これもみなさんの力強い応援のお陰です。『正義と公平の裁判を!』という願いが叶えられたなと、言葉にならないです。感無量です。国は上告しないでと言いたいです。これ以上苦しみたくない、いつまで苦しめばいいのかと聞きたいです。残りの人生いくらでも幸せに暮らしたいです」

◆藤木和子(ふじき・かずこ)
弁護士、手話通訳士、優生保護法弁護団。聞こえないきょうだいをもつSODAソーダの会代表。全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会副会長。シブコト障害者のきょうだいのためのサイト共同運営。NHK、新聞各紙、AbemaTVなどに出演

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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キーワード: #ビジネスと人権

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