松山ケンイチ、「捨てられるシカ革に付加価値を」

俳優の松山ケンイチさん(37)が獣皮を活用したライフスタイルブランド「momiji」を立ち上げた。松山さんは6年前から第1種銃猟免許を取得し、地方と東京で二拠点生活を送る。なぜブランドを立ち上げたのか話を聞いた。(聞き手・オルタナS編集長=池田 真隆、写真=高橋 慎一)

ブランドに込めた思いを話す松山ケンイチさん ブラウンシングルライダース 獣革(鹿)シングルライダース 参考商品 /モミジ(momiji) Tシャツ 75,900円、パンツ 126,500円/ブルネロ クチネリ(ブルネロ クチネリ ジャパン)、他私物 ※全て税込み価格 Styling:五十嵐 堂寿 Takahisa Igarashi Hair&Make:五十嵐 将寿 Masakazu Igarashi

――廃棄するシカ、イノシシ、ヒツジ、クマなどの獣皮のアップサイクルを目的としたライフスタイルブランド「momiji」を奥さんの小雪さんと立ち上げました。ブランドを立ち上げた経緯を教えてください。

ぼくは青森で生まれて、16歳で仕事をするため東京に上京して、26歳で結婚しました。翌年には子どもが生まれ、今は3人の子どもがいます。

30代半ばに入り、子どもと日々を過ごしているとき、ぼくは何をこの子たちに伝えられるのだろうかと思ったのです。家だと一緒に映画やアニメを観て過ごしています。勉強のためでもあるのですが、子どもたちは『パパは遊んでいるだけではないか』と思っていたかもしれません(笑)。

俳優として人の心を動かす仕事をしてきたつもりですが、一個人として何ができるのか、核となるものを見つけられずにいたのです。役者として表現をするための土壌が枯渇していたとも言えます。

2018年頃から移住を考え始めましたが、東京で働くことには変わりないので、それでは東京に依存した生活になってしまい、現状から大きく変わりません。

そこで、移住先では畑づくりをして、自給自足に近い生活を遊びながらするのと同時に、この地でしかできない仕事があれば、東京依存の生活ではなく、地方と東京の二拠点生活が成り立つと考えたのです。

普段食べているこの肉はどこから来たのかという疑問は感じていましたが、田舎でどんな事ができるのか探っていくなかで、シカやイノシシなどの獣の皮を廃棄していることにも問題意識を持ったのです。

自分自身も6年前からハンターの免許を持っており、害獣駆除をしていたのですが、害獣の皮は捨てていました。駆除したシカの肉は食べるのに、何で皮は捨てるのか疑問に思いハンターの師匠に聞きました。

すると、「おれに無理だ」と言われました。皮を利活用するには、なめし業者に依頼して「革」にしてもらわなければいけないこと、そのためにはコストも、一定のロット数も必要なことが分かりました。一人のハンターが駆除できる鹿の数は1日1~2頭です。駆除したシカは保存も効かないので、時間との勝負もあります。

これらの理由から皮は利活用できないと師匠に言われたのですが、東京にある「一般社団法人やさしい革」という団体を知りました。そこは、1枚からでも皮を受け付けて、なめし作業を行っています。初めてなめし作業を依頼して、出来上がった革を触ると、すごく柔らかくて今までに触ったことのない感触でした。

質感も良いし、背景には社会課題もある。みんなでこの問題を考える商品をつくろうと思い、momijiを立ち上げました。

ブラックシングルライダース 獣革(鹿)シングルライダース 参考商品 /モミジ(momiji)

――商品を通して、どのようなことを考えてほしいですか。

まず、害獣の皮を説明するには、肉から考えていく必要があります。ジビエ料理として肉の利活用は進んでいますが、当然、食肉になるまでにはいくつかの工程があります。スーパーでは、「バラ」や「ロース」など小分けされた形で並んでいますが、森の中でその形で歩いている訳ではありません。

普段食べているものがどんな工程をたどっているのか、想像してほしいのです。ぼくは自分の目で確かめたかったので、ハンターの免許を取りました。きっと、その体験をすることで、「いただきます」の意味が変わり、人生を豊かにすることにつながると思ったのです。

――実際にその体験をやってみてご自身やご家族はどう変わりましたか。

生きものを殺すことは残酷、一方で食べると美味しい。ぼくの中ではどちらも真実です。

命を奪うという行為は避けたいですが、それを抜きにして肉は食べられない。これは、ハンターに限ったことではなく、お金を払っている生活者も同じです。食べ物の代金を支払い、解体業者が作業を行うのです。

一つの側面を見て「これはエコ」「これは残酷」とは言えない問題がそこにあります。鹿は神の使いといわれることもあれば、害獣でもあります。命を頂くことと、命と向き合うことを大きな視野でとらえるようになりました。

――これからブランドオーナーとしてどのような課題の解決を目指しますか。

獣皮の認知度は低いので、この感触を多くの人に知ってもらうことから始めたいです。momiji はモノをつくる仕事です。モノを多くほしがらないぼくがモノをつくるので、自分の主義を貫き通すことができない場面も訪れると思います。

モノづくりをする上で大事にしているのが「循環」です。大量生産して大量消費する従来のビジネスモデルではなく、廃棄した素材を活用(アップサイクル)して新たな商品にする「サーキュラ―エコノミー」に挑戦したいです。

その過程に人が豊かに暮らせるヒントがあると思っています。

ブラックシングルライダース 獣革(鹿)シングルライダース 参考商品 /モミジ(momiji)

――松山さんは地方では畑仕事や狩猟などエシカルな暮らしを実践していますが、いつ頃からエシカルな暮らしに興味を持っていましたか。

東京で暮らすようになってから、多くの人からの勧めもあり、有機栽培や自然栽培をしている農家さんに会いに行きました。彼らに共通していたのは野菜づくり、土づくりを通して豊かな考え方、生き方を追求していく姿勢でした。そして、自分も彼らのようになりたい、そして、彼らを応援したいと思うようになりました。

もともと、消費するお金とは「投票権」だ、という意識があったので、高価なハイブランドよりも小さな手作りブランドに信念を感じます。エシカルファッションに関しては、メンズブランドはまだ少ないですが、実はずっと買い続けてきました。

ハンティングからも多くのことを学び、暴飲暴食は避けるようになりました。そして、出来るだけ自分の声を聴くこと。そうすれば、ほんとに自分が求めているものがわかるので「引き算」ができるようになります。

ブラウンシングルライダース 獣革(鹿)シングルライダース 参考商品 /モミジ(momiji) Tシャツ 75,900円、パンツ 126,500円/ブルネロ クチネリ(ブルネロ クチネリ ジャパン)、他私物 ※全て税込み価格 Styling:五十嵐 堂寿 Takahisa Igarashi Hair&Make:五十嵐 将寿 Masakazu Igarashi

――自分の声が聴こえなくなったことがあったということですか。

俳優をしていると、自分の心の動きを感じづらくなります。役になりきるので、自分の心を無視してしまうのです。役作りは自分自身への暴力ともいえますから。

――これまで出演した作品で特にそう感じたのはどの作品でしょうか。

将棋棋士・村山聖を演じた「聖の青春」はその一つです。役作りをしているときから、これは(終わった後に)自分自身に逆襲されるなと思っていました(笑)。

撮影を経て体質が変わったと感じることも多くあり、それ以降は今まで以上に自分を大事にしよう、自分の心を動かそうと思うようになりました。

momijiを立ち上げた理由には、課題を知ってしまったから向き合いたいという思いがありますが、もう一度自分を解放して、その上で俳優という仕事と向き合いたいという思いもあるのです。

――日本では俳優やタレントが社会課題について言及すると、一部の人たちからいわれのない批判を受けることがあります。

自分自身が正しいと思うことに向き合い続けるしかないと思っています。

★ブラックシングルライダース 獣革(鹿)シングルライダース 参考商品 /モミジ(momiji)
★ブラウンシングルライダース 獣革(鹿)シングルライダース 参考商品 /モミジ(momiji) Tシャツ 75,900円、パンツ 126,500円/ブルネロ クチネリ(ブルネロ クチネリ ジャパン)、他私物 ※全て税込み価格
◆問い合わせ先 ・ブルネロ クチネリ ジャパン TEL:03-5276-8300

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナS編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナS編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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