消えたプラスチックの謎に挑む、海プラは氷山の一角

回収されず、環境中に漏れ出したプラスチックが海に行きつく正確な量は不明だ。しかし、観測などから推計された海面を漂うプラスチックの量は、海に流れ込んだはずのプラごみの1%に過ぎない。99%は行方がわからず、「ミッシング・プラスチックの謎」と呼ばれている。九州大学などの研究チームがこの消えたプラスチックの謎の解明に挑み、プラごみの約5%は海に流出するが、95%程度は陸上で行方不明になっていることを突き止めた。(オルタナ編集委員・栗岡理子)


大量のプラごみが漂着する海岸だが、海洋プラスチックは氷山の一角だ(千葉県九十九里海岸)

世界初、海のプラごみが重量ベースで明らかに

九州大学応用力学研究所の磯辺篤彦教授と、国立研究開発法人土木研究所・寒地土木研究所の岩﨑慎介研究員は、「海洋プラスチック」の行方を世界で初めて重量ベースで明らかにし、国際学術誌に発表した。

プラスチックがよく使われるようになった1960 年代から現在までの約60年間で、陸から海へ流出したプラごみの重量に、漁網など漁業関連の投棄量を合わせ、コンピューター・シミュレーションを行った。

その結果、海に漏れ出し漂流しているプラごみや、海岸に漂着したもの、微細化しマイクロプラスチックになったものなどの海洋プラスチックは、約2500万トン程度しかない。

このうち約67%(1680万トン)はマイクロプラスチックに破砕した後、海底に沈むなどして海面や海岸から姿を消した。残りの約26%(660万トン)は目で見えるサイズのプラごみとして、約7%(180万トン)はマイクロプラスチックとして、今も漂流と漂着を繰り返しているという。

「レガシー・プラスチック」が海に出続ける可能性

しかし、今回の発表によれば、この約2500万トンの海洋プラスチックは、陸上で環境中に漏れ出したと考えられるプラスチックの5%に満たない。つまり、私たちが気にしている海洋を汚染するプラごみは氷山の一角で、95%(約5億トン)は陸上で行方不明になり、陸地のどこかに閉じ込められている可能性があるのだ。

それならば、今後は陸地での監視を強め、本質的に分解不可能なプラごみがどこにどのように溜まるのかを調べる必要があるのではなかろうか。

今春、ケニアのナイロビで開催された国連環境総会(UNEA5.2)において、「プラスチック汚染を終わらせる:法的拘束力のある国際約束に向けて」と題する決議が採択された。プラスチック汚染を終わらせるためには、今後陸上で消えた5億トンのプラスチックの行方も明らかにしなければならないのではないか。

それについて磯辺教授はこのように指摘する。

「陸域でのプラスチックに対する認識は、その通りだと思います。今後は環境に漏れたプラスチックの行方を陸から海にかけて一体的に探すことが重要と思います。陸域に巨大な廃プラやマイクロプラスチックのストックがあるようでは、今プラスチック削減を図っても過去のレガシー・プラスチックが海に出続けるでしょう」

現在、磯辺教授はSNS アプリを使って、街中や海岸に散乱するプラスチックごみの現存量を求める市民調査に取り組むほか、タイでも調査中とのことだ。タイのダンピングサイト(自由に投棄されるごみ捨て場)でプラごみをサンプリングし、陸上から海に至るプラスチックの行方を調査している。

環境にやさしい暮らしを考える

栗岡 理子(編集委員)

1980年代からごみ問題に関心をもち、活動しています。子育て一段落後、持続可能な暮らしを研究するため、大学院修士課程に進学。2018年3月博士課程修了(経済学)。専門は環境経済学です。執筆記事一覧

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