PETの「資源循環」強化へ、キリンが3施策

キリンホールディングスはペットボトルの「資源循環」に向け3つの施策で取り組む。再生PET樹脂の使用割合やラベルの短尺化を進め容器の環境性を高めつつ、水平リサイクルを目指したペットボトルの回収事業や繰り返しリサイクルができるケミカルリサイクルの実用化を目指す。(オルタナS編集長=池田 真隆)

パッケージのラベルを短尺化した「生茶」の新しいパッケージ

PETボトル推進協議会が発刊する「PETボトルリサイクル年次報告書2021」の資料によると、国内のペットボトルのリサイクル率は88.5%(2020年)と2019年比で約3%上昇しており、欧米と比較するとかなり高い水準を誇る。

だが一方で、異物が混入したものや一般ごみとして回収されている量が10% 強あり、これらは主に熱回収に回され、資源の循環サイクルから外れている。

加えて、ペットボトルからペットボトルに再生する、いわゆる「ボトルtoボトル」の比率は15.7%にとどまる。2019年からは 2.3%増加しているが、まだその水準は高いとは言えない。

これらをまとめると日本国内のペットボトルリサイクルが抱える課題は、

①再資源化していないペットボトルやプラスチックをリサイクル資源として循環させる(回収量の拡大)
②「ボトルtoボトル」に適したきれいなペットボトルを回収する(リサイクル意識の向上)
③ペットボトルリサイクルをさらに進める技術を開発し、実用化していく(リサイクル技術の進化)――の3つに大別できる。

この3課題に取り組むため、キリンでは容器の環境性、水平リサイクルを目指した回収、ケミカルリサイクルの実用化の3本柱で挑む。

一つ目は容器についての取り組みだ。同社では2014年に「午後の紅茶 おいしい無糖」の一部商品に再生PET樹脂100%のペットボトル(R100ペットボトル)を使ったことを皮切りに、19年に基幹ブランド「キリン 生茶」の「デカフェ」にも採用した。

「生茶」ブランドを中心に容器の環境性を高めてきたが、22年4月からは「生茶」・「生茶 ほうじ煎茶」(525ml・600ml)で新容器を採用する。パッケージのラベルを短尺化し、従来と比較して約40%、年間約180tのプラスチック使用量を削減した。

5月24日からは「午後の紅茶 おいしい無糖 ラベルレス」と 「キリン ファイア ワンデイ ブラック ラベルレス」をECサイトで販売する。ラベルレスにすることで、年間で4.5tのプラスチック使用量を削減した。

二つ目の「回収」は、他社との共同事業だ。ペットボトルを再資源化し循環し続けるためには、ペットボトルのリサイクルに適したきれいなペットボトルを回収することが必要になる。

全国清涼飲料連合会の発表によると、自動販売機専用のリサイクルボックスでは69%が清涼飲料容器だが、31%がタバコや酒類容器などの異物が占める。「ボトルtoボトル」の比率15.7%を上げていくには、いかに資源として再利用できるきれいなペットボトルを回収するかが重要な課題なのだ。

そこでキリンは2021年7月、ローソンと回収の実証実験を始めた。第一弾としてローソン横浜新子安店で実施。店舖に、キリングループが独自開発した 「ペットボトル減容回収機」を設置し、ペットボトル容器の回収を促した。

店舗で収集したペットボトルはキリンビバレッジの子会社東京キリンビバレッジサービスの自動販売機オペレーションルートを使って収集することで運搬の効率化を図り、その後リサイクル工場へ搬入。

消費者がペットボトルをリサイクルする利便性の向上と、容器回収ルートの効率化によるCO2などの環境負荷低減の両立を目指した。今後実証実験を重ねながら、ペットボトル回収機は2022年内に横浜市内の数店舗に追加で設置する予定だ。

さらに、ドラッグストアのウエルシア薬局とも回収事業を行う。今年6月から埼玉エリアのウエルシア190店舗で順次行い、「ボトル to ボトル」の実証実験に取り組む。

ウエルシアが店頭に設置した回収ボックスで使用済みペットボトルの回収・分別をし、これをキリンビバレッジがリサイクラーに供給した上で再原料化・再生PETを使用した容器の飲料の製造まで一連のリサイクル工程を管理する。この事業でのペットボトルの想定回収量は、月に1店舗平均50kgを見込む。

最後の3つ目が、ペットボトルの資源循環のカギとなる「ケミカルリサイクル」の実用化だ。現在国内で主流となっているリサイクル技術は「メカニカルリサイクル」だ。コスト面などでメリットはあるが、繰り返し再生資源として利用することで樹脂の品質が低下するデメリットもある。

一方、「ケミカルリサイクル」は、繰り返し再資源化しても、良質な再生ペット素材を提供することができる。さらに、ボトル以外にフィルムやシートといった他形態の製品、着色などの工業加工が行われた製品など、幅広い製品を原料にできる。

キリンは、この「ケミカルリサイクル」の技術開発・実用化に向け複数のプロジェクトに取り組む。一つが20年12月から行う三菱ケミカルとの共同プロジェクトだ。2027年までにケミカルリサイクル技術を用いたプラントを稼働させることを視野に入れる。

静岡大学や自然科学研究機構と22年1月から酵素によるPETリサイクル技術の確立に向けた共同研究を、22年2月からはファンケルとPET材料の再利用促進を目的に、ケミカルサイクルに関する連携を始めた。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナS編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナS編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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