ORANGE RANGE、日本初の脱炭素ツアー(後編)

「上海ハニー」「花」などが大ヒットした男性5人組ロックバンドORANGE RANGE(オレンジ・レンジ)が20周年を迎え、20周年記念ライブツアーを行った。「顔の見える電力」を推進するUPDATER(東京・世田谷)の協力のもと、全国5都市10会場をまわったツアー公演すべてでカーボンオフセットを実現した。なぜORANGE RANGEは脱炭素を目指すのか。(「TADORi」から転載)

前編はこちら

なかなか終わりの見えないコロナ禍に対応し、開場前、ライブ中、楽屋などにおける空気質の分析・改善を実施する「みんなエアー」はアーティスト、そしてファンが「音楽を純粋に楽しむ」ことを取り戻すべく、安心をもたらす取り組みだ。

そんなみんなエアーに加え、ORANGE RANGEの「20th Anniversary ORANGE RANGE LIVE TOUR 021〜奇想天外摩訶不思議〜」にはもう一つ、日本で初となる画期的要素があった。

それは、全国でまわった5都市10会場のライブをカーボンオフセットで実現、つまり気候危機の抑止に向け、CO2を出さないかたちで開催したのだった。これは海外でColdplayの事例や、地球環境に想いを寄せるビリー・アイリッシュやレディ・ガガ、最近対策に17億円もの寄付を発表したリアーナなど普通になりつつあるが、ここ日本では正真正銘初の事例だった。

日本初の脱炭素LIVEツアーを行ったORANGE RANGEとUPDATERの大石英司社長(右)

エアーと脱炭素、その他にも土壌や障害者アート、山の保全など、電力事業と同じブロックチェーン・システムを駆使した「顔の見える」関係で各種社会問題の解決を目指すUPDATER(旧・みんな電力)の三軒茶屋オフィスに、ORANGE RANGE全員が集結した。貴重な皆さんとの対話、ぜひ、より多くの方々に届きますよう。

――皆さん肌で感じることがあるということで、しかもそれは海外なら普通だけど日本だとなぜか社会的とか言われがちという側面もあります。実際のところファンの方々とか、一般社会に伝えられるような手応えはありますか?

HIROKI YOHが言っていたように、震災以降の電気にまつわる感じもわかるし、バンドのカラー的にも「言葉でみんなに伝えていく」というよりは、実際にツアーで一緒にやることによって、それが少しずつでも、行動で広げていくのは可能なのかなって。

RYO 洋楽のアーティストとかは、「行動力があるな」という風に思っていて。でも日本人って、メディアが大きく動いてくれないとみんなが動かない。真面目で、自分一人の行動力は「世界と比べると弱いのかな」とは思ったり。だからこういうことも、まずは「自分が動くこと」しかできないのかなって。それを一人一人がやれば、ようやく流れになるのかなと思います。

どうしても国民性というか、そういうことで、いきなりヨーイドンではできないんだろうなって。

――沖縄の問題だってたくさんあるのに、それもずっと東京の人間含め、自分ごとにできないできています。

YOH 僕のきっかけはやはり震災でした。それまではどちらかと言うと、パーソナルな気持ちをORANGE RANGEで埋め尽くされている日常に落とし込んでいくのって「立場的に難しいのかな」と思っていました。

でも、殻に閉じこもっているよりも外へ出て、周りと情報をシェアしていった方が何もかもが圧倒的に早かったんです。もちろん考える時間も必要。そのうえで、共鳴し合える人とは繋がっていくというアクションを定期的に織り交ぜていくことで見える景色も少しずつ変わっていきました。

ネット社会でたくさんの情報に触れるけど、その情報ひとつにしたって海を越えるだけで時にフィルターがかかっちゃったりするじゃないですか?だから確かめるというか、自分で動くという選択肢を用意しておくのもいいんじゃないかなって。

今回の気候危機に対しての取り組みも事前に見させてもらいましたし、「ウチらもなにかできないかな?」って感じで自然に広がっていくと僕らも嬉しいですね。

YAMATO どちらかと言うと僕たちは、熱いメッセージというか、ダイレクトな表現で伝えることが苦手と言いますか。なので、まず行動で表現していく方が僕たちらしい。そういうことをやってきた20年なので、このままのORANGE RANGEスタイルで続けられたらいいなと思っています。

――皆さん、大きくは同じ「行動で示そう」ということを、仰ってくださっているように受け取れます。

NAOTO でもホント、海外の人からは逆に「何でおまえら、社会的なことをミュージシャンが言わないんだ」みたいなことを言ってくる人も多くて、それが当たり前で。そこが日本人のミュージシャンとの違いで、向こうの人はもともと我が強い人も多いし、自分たちのアイデンティティも強く持ってるから、その違いもあると思うんですけど。

とはいえ、僕は性格的にもやっぱり日本の考え方だから、さっきYAMATOが言ったみたいに、喋るのも説明するのも苦手だし、だけどこういうことにはとても賛成だし、自分たち自身が自然の中で育ってきているので。

だからライブをやるんだけど、こういう機会とかでその中身も伝えていける、そのバランスはいいんじゃないかと思います。

――皆さん、事前の打ち合わせをしていたと聞いてもおかしくないくらい、足並みが揃われている気がします。

NAOTO まあ、キャラクターは一緒というか(笑)。

大石 そこはすごく大事だと思ってて、海外の場合はどちらかと言うと攻撃的というか、敵をつくってこういうことを普及させていこうとするんですよね。

だから、グレタさんがトランプ大統領をすごい非難することで話題を世界に広げたり、どうしても平和的なチェンジじゃないんです。「対立を生む変革」みたいなところがあって、もっと自然に「やっぱりこうだよね」ということがジワーッと広がっていくようなかたちというのは、日本的なこととして向いているような気もします。

あとは有名な、「3%理論」ということがあるんです。要は全体の3%の人が変わりはじめると、一気にマスが変わりだすという話で。それって、ある会場に100人いたらたった3人が「私、替えました」という風に言い出せばいいだけなんです。

それは、そこにいる全員をどうにかしようと思うと大変ですけど、ほんの数人だけでも理解者というか、シンパシーを感じてもらう人がいるだけでも広がっていくと思うと、それで気分が少し楽になる側面はありますよね。無理がない。

――無理があると、それこそサステナブルに絶対ならない。

大石 あと、「あいつはなんでやらないんだ」みたいなイラ立ちを持っちゃうと、対立を生んじゃうというか、持続性を失ってしまう。でもそこで、さっきYOHさんが言ってくれたように、空気感で「楽しそうだな」「それならオレでもできそう」みたいな、本当はそういう流れで広がっていくのがいいんですよね。

――YOHさんは宇都宮まで、ソーラーシェアリングの現場視察に来てくださいました。

YOH すごく前向きな生き方、そして取り組みだなと思いました。しかも収入が増えた分を、自分たちが農作物をつくる過程に還元して、より良い環境でいいものを生み出そうとしている、それはみんながみんなできていることではないので。

自分自身もそれをはじめて見て、すごく「未来を考えてくだされた決断だったんだろうな」と感じました。なので、「もう少し見てみたい」というか、自分自身「もっと勉強したい」と思っています。

LIVE撮影:平野タカシ
オフィス撮影:井手康郎(GRACABI inc,)

editor

オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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