長期ビジョンを基軸とするオムロンの経営(前)

【連載】サステナビリティ経営戦略(22)

先行き不透明で不確実性の高いVUCAの時代、企業は自社の価値観(企業理念、存在意義)を起点に、自社として実現したい未来の社会像や会社の姿を描き、その実現に向けて主体的にトランスフォームしていくことが求められています。そのような経営の羅針盤として長期ビジョンの重要性が高まっています。(サステナビリティ経営研究家=遠藤 直見)

■ 長期ビジョンとは

現在経産省で検討中の「価値共創ガイダンス2.0」によると、長期ビジョンとは「特定の長期の期間においてどのように社会に価値を提供し、長期的かつ持続的に企業価値を向上していくかという目指す姿」です。

企業は、自社の価値観及び重要課題(リスクと同時に成長機会にもなり得る重要な社会課題)も踏まえながら、長期的かつ持続的な価値創造に向けてのビジネスモデルの構築・変革の方針や、そのようなビジネスモデルを実現するための事業ポー トフォリオ方針などを示すことが望まれています。

■ オムロンの長期ビジョン経営

3月1日、オムロン株式会社(以下オムロン)は、2030年度に向けた長期ビジョン「Shaping the Future 2030(SF2030)」及び2022年度から3年間の中期経営計画「SF 1st Stage」を公表し、投資家向け説明会を3月9日にオンラインで開催しました。

オムロンは、1933年の創業以来、企業理念を原動力に事業を通じて社会課題を解決し、よりよい社会づくりに貢献してきました。社会課題をいち早く捉え、ソーシャルニーズを創造することで事業を構築し、成長してきました。

オムロンは、1991年に1回目の長期ビジョンを策定以降、10年毎に策定を行ってきました。2011年度には3回目となる長期ビジョン「Value Generation 2020(VG2020)」 を策定し、財務価値と非財務価値の向上に継続的に取り組んできました。

その結果、2011年度から2021年度にかけて時価総額が約4倍(0.4兆円→1.6兆円)に伸長すると共に、温室効果ガス排出量削減、バリューチェーンにおける人権尊重、健康経営の推進など様々なサステナビリティへの取り組みをとおして世界の代表的なESG投資指標であるDJSI(Dow Jones Sustainability Index)のWorld Indexの構成銘柄に5年連続で選定されるなど、社外からグローバルトップクラスの高い評価を得ています。

■ 長期ビジョン「SF2030」の策定

4回目となる今回の長期ビジョン「SF2030」のステートメントは「人が活きるオートメーションで、ソーシャルニーズを創造し続ける」です。

「SF2030」の策定にあたり、オムロンは過去の歴史を振り返りつつ、自社の存在意義を改めて問い直しました。その上で、2030年に向けた社会・経済システムの潮流の変化(メガトレンド)を捉えつつ、同社が取り組むべき重要課題を「カーボンニュートラルの実現」「デジタル化社会の実現」「健康寿命の延伸」の3つに設定しました。

これらは社会インパクトが大きく、自社の強み(オートメーション及び顧客・事業資産など)を活かす観点から定めたものです。(後編に続く)

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

東北大学理学部数学科卒。NECでソフトウェア開発、品質企画・推進部門を経て、CSR/サステナビリティ推進業務全般を担当。国際社会経済研究所(NECのシンクタンク系グループ企業)の主幹研究員としてサステナビリティ経営の調査・研究に従事。現在はフリーランスのサステナビリティ経営研究家として「日本企業の持続可能な経営のあるべき姿」についての調査・研究に従事。オルタナ編集委員

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キーワード: #CSR#ESG経営#SDGs

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