微小プラが小腸から体内に侵入か、人体への影響は

近年、微小なプラスチック(マイクロプラスチック)が人の肺や胎盤、新生児の胎便などから見つかっている。オランダの研究チームは今年3月、人の血液中からも発見した。日本の研究チームは2020年、人の小腸培養組織を用いた実験で、マイクロプラスチックは血管とリンパ管に侵入したと報告している。マイクロプラスチックの侵入は、人体にどのような影響を及ぼすのだろうか。(編集委員・栗岡理子)

培養腸管にプラスチックのナノ粒子モデルを曝露している(写真提供:東京大学酒井康行教授)

世界初、人間の血液からマイクロプラを検出

オランダの研究者らが『Environment International』誌に発表した研究は、22人の健康な成人ボランティアの血液を採取して行われた。その結果、このうち17人の血液からマイクロプラスチックが検出されたという。

検出されたプラスチックの種類は、ペットボトルやポリエステル繊維に使われるポリエチレンテレフタレート(PET)が最も多く、次いでトレイなどの食品容器に使用されるポリスチレンが多かった。1人の血液から数種類のプラスチックが見つかったケースもあり、検査前の行動が関係した可能性も指摘されている。

小腸からリンパ管や血管に侵入か

日本でも、2020年に開かれた東京大学海洋アライアンス連携研究機構のシンポジウムで、小腸の培養組織をサイズの異なるポリスチレン粒子にさらした(曝露)実験結果が報告された。この実験は日本財団と東京大学の共同研究の一環として行われた。

それによると、0.5マイクロメートル(大)、0.1マイクロメートル(中)、0.05マイクロメートル(小)という3種類のサイズの粒子を実験に使ったところ、大がリンパ管に、小と中が血管に入っていったという。(注:1マイクロメートルは1000分の1ミリメートル)

免疫細胞が多く集まる小腸の壁を通り抜け、リンパ管や血管に入ってしまったマイクロプラスチックはどこへ行き、健康にどのような影響を及ぼすのだろうか。この実験を率いた東京大学工学系研究科の酒井康行教授に聞いた。

体内に入ったマイクロプラはどこへ

――世界保健機関(WHO)は2019年、150マイクロメートル以上のプラスチックは糞便から直接排せつされて、人体内部に残ることはないと発表しました。しかし、それより小さいプラスチックを私たちが食べ物や水と一緒に摂取した場合はどうなるのでしょう。

「最大数マイクロメートルまでのプラスチックは、小腸から人体に入り込む可能性があります。人体への影響を直接的に調べる方法として、人の組織を何種類か培養して実験を行いました。

少し高度な腸管モデルを使うことで、小さな粒子は腸管の上皮細胞をすり抜け、直接血液に入ります。一方、大き目の粒子はバクテリアの認識機構から入るらしいことがわかりました」(酒井教授、以下同)

「腸管内腔に面するリンパ系の末梢(パイエル板)からリンパに取り込まれ、それから血液に移行し、それが臓器に移行すると考えられます」

――臓器に移ったマイクロプラスチックはどこへ行くのでしょうか。

「臓器細胞や血液の細胞に分布すると思います。大き目の粒子を排泄する機構は人体にはないので、分解されない以上、どこかに溜まり続けると思います」

「培養した標準的な腸管上皮で数マイクロのものは普通は入らないのに、動物実験では数マイクロのものが臓器内に分布するのはどうしてだろうとずっと疑問に思っていました。高度な培養系での実験で、これを明らかにすることができました」

マイクロプラの健康への影響

――私たちの一番の関心は、マイクロプラスチックが人の健康に影響するかどうかです。

「小腸は大き目の(数マイクロメートルまでの)マイクロプラスチックを免疫系まで取り込んでいると考えられ、免疫反応に影響する可能性はあるでしょう。しかし現状の取り込み量では、人体に影響を及ぼすほどの量のプラスチックが蓄積されるとは考えにくいと思います」

――それならば、ひとまずは安心ですが、もし大量にマイクロプラスチックを体内に取り込んでしまった場合はどうなるのでしょうか。

「あくまで極めて大量に曝露をした際の実験室での知見ですが、多量に与えれば細胞は死にます。また死亡に至らずとも影響はでますし、免疫系の細胞の活性化はひき起こされるようです。ちょうど免疫細胞がバクテリアを処理するときのような反応が起こります。

ただ、プラスチックは分解されないので、抗原にはなりません。抗原になるためには、分子レベルまで分解される必要がありますから。よって、後天的な獲得免疫には結び付かず、免疫細胞による貪食という自然免疫までに留まると思います」

「バクテリアと同じ程度のサイズの粒子は、免疫細胞、特に微生物を貪食するような細胞に取り込まれ、それらを活性化します。ただ、マイクロプラスチックは分解されないので、微量でも長年に渡ると免疫細胞の活性化による組織障害と修復が持続します。

組織の修復では、普段静かにしていた線維芽細胞が活性化し、修復の土台を作ります。このサイクルが持続すると、臓器の炎症が持続し線維化に結び付くかもしれません」

つまり、コロナワクチンとは違い、マイクロプラスチックによって抗体や、特異的に認識するリンパ球ができることはない。そのため、一般的な異物として自然免疫系の処理を受けるので、大量に曝露しない限り、人間への影響はまだ少ないと考えて良さそうだ。

しかし、生活圏での現実的な曝露でも長期に渡り蓄積が進むことで、自然免疫系も関与する臓器の炎症反応は持続する可能性があるという。

対策は環境中へのプラスチック排出を減らすこと

――私たちがマイクロプラスチックを取り込まずに済むために、何か打つ手はあるのでしょうか。

「ナノスケールから最大数マイクロメートルの非常に小さいプラスチックを人体に入れないようにするのは、多分困難だろうと思います。現状の曝露量ですと人への対策は不要ですが、海洋生物への影響はより懸念されますので、環境中への排出を削減すべきです」(酒井教授、注:1ナノメートルは1000分の1マイクロメートル)

環境中に排出され、生物に取り込まれたマイクロプラスチックは、食物連鎖によっていつかは人体に取り込まれる。

今月からプラスチック新法が施行され、ストローやフォーク、スプーン、ホテルのアメニティなど12品目を減らすことが決まった。環境中への排出を減らすためには、できるだけプラスチックを使わないこと、マイクロプラスチック入りの製品を避けることなどが重要だ。これら12品目以外にも、プラスチック削減が進むことに期待したい。

環境にやさしい暮らしを考える

栗岡 理子(編集委員)

1980年代からごみ問題に関心をもち、活動しています。子育て一段落後、持続可能な暮らしを研究するため、大学院修士課程に進学。2018年3月博士課程修了(経済学)。専門は環境経済学です。執筆記事一覧

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