ウクライナ戦争だけでない、世界の人道危機

2022年2月に勃発したウクライナ戦争で、人道危機が連日報道されている。しかし、世界ではウクライナ以外にもさまざまな人道危機が発生している。こうした報道されずに知られていない危機は「サイレントクライシス」と呼ばれる。エチオピア、ケニア、ソマリアでは深刻な干ばつに見舞われ、1300万人が飢餓に直面。中東のイエメンでは紛争が激化し、食料危機に陥っている。(オルタナ副編集長=吉田広子)

世界の人道状況と2022年に必要な人道支援をまとめた「2022年世界人道概況」
世界の人道状況と2022年に必要な人道支援をまとめた「2022年世界人道概況」

国連人道問題調整事務所(OCHA)は2021年12月、世界の人道状況と2022年に必要な人道支援をまとめた「2022年世界人道概況」を発表した。OCHA は、2022年は2億7400万人が人道支援を必要とし、そのためには約5兆円が必要だとしている。

支援が必要な人の数は、新型コロナウイルス感染症などの影響で過去最大だった2021年の2億3500万人から大幅に増加している。

OCHAや国連世界食糧計画 (WFP)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国際連合児童基金(ユニセフ)などの資料を参考に、世界で起きている深刻な人道危機をまとめた。

「アフリカの角」で1300万人以上が飢餓に直面

世界食糧計画(WFP)は2022年2月、アフリカ北東部に位置し、「アフリカの角」と呼ばれるエチオピア、ケニア、ソマリアで1300万人以上が深刻な飢餓に直面していると発表した。WFPは「3年連続雨季に雨が降らなかったことで、作物が壊滅的な打撃を受け、異常なほど家畜の死亡が増えている。水と牧草地が不足し、家族は家を追われ、コミュニティ間の対立が激化している」とする。ソマリアでは人口の約4割(600万人)が深刻な飢餓に陥っているという。ソマリアでは2011年、干ばつの影響で25万人が餓死した。

イエメンで紛争が激化、深刻な食料危機も

ユニセフ、国連食糧農業機関(FAO)、WFPは、2022年6月から12月の間にイエメンの人道状況はさらに悪化し、最低限の食料ニーズを満たすことができない人々の数は、過去最多の1900万人に達する恐れがあると警告した。イエメン全体で220万人の子どもが急性栄養不良に陥っており、そのうち、命を脅かす重度の急性栄養不良の子どもが50万人、約130万人の妊産婦が急性栄養不良に陥っているという。

イエメンでは2015年に内戦が勃発し、経済危機と通貨の下落が起こり、2021年の食料価格は2015年以降の最高水準に高騰した。ウクライナでの紛争がイエメンの食料輸入に多大な影響を与え、食料価格をさらに引き上げることも予想されている。

栄養不良の治療を受けている4歳のロワイダちゃん。紛争の影響でイエメンの子どもの栄養状態は悪化している(イエメン、2021年7月撮影) © UNICEF_UN0605553_Remp
栄養不良の治療を受けている4歳のロワイダちゃん。紛争の影響でイエメンの子どもの栄養状態は悪化している(イエメン、2021年7月撮影) © UNICEF_UN0605553_Remp

アフガニスタンで児童労働のリスク高まる

武装勢力タリバンがアフガニスタンを制圧した2021年8月以来、政変による混乱に加え、新型コロナウイルスの拡大や干ばつなどの影響で、アフガニスタンは前例のない人道危機に直面している。UNHCRは、情勢悪化により経済と医療は崩壊し、2400万人以上に人道支援が必要で、人口の半数以上が緊急の食料危機に直面すると警告している。児童労働や児童婚のリスクも高まっているという。

武装グループの暴力が続くコンゴで民間人も犠牲に

コンゴ民主共和国では1996年から20年にわたって紛争が続く。UNHCRによると、周辺国と武装勢力が複雑に関与し、第二次大戦後最多の500万人以上が死亡し、101万8000人以上が難民・庇護希望者となり、国境を越えて避難を強いられている(2022年3月現在)。

2020年末以降、民主同盟軍(ADF)の武装グループによるものとされる攻撃は残虐性が悪化し、2021年5月はじめに戒厳令が宣言されたにもかかわらず、民間人殺害の件数は減少していないという。一方で、国際社会の関心は薄く、UNHCRは深刻な資金不足(達成率11%)で、必要な支援の多くを断念せざるを得ない状況だとしている(2022年4月現在)。

ベネズエラで南米最大の難民危機

南米ベネズエラでは、政情不安から経済状況が悪化し、ハイパーインフレーションが起こっている。人々は食料や生活用品を調達することもできず、武装グループや盗賊からの搾取や虐待、性的暴行を恐れ、600万人以上が故郷を追われた。UNHCRによると、シリアに続き、世界で2番目に多くの人々が避難を強いられ、南米最大の難民危機に陥っている。さらに何十万ものベネズエラ人が、正式な書類や法的許可がなく、社会的セーフティネットを受けられていないという。

10年間続く紛争、1160万のシリア難民が人道支援を求める

「アラブの春」に端を発し、10年にわたりシリア内戦が続いている。UNHCRによると、シリアでは2011年の内戦勃発以来、約660万人以上が国外に避難し、約670万人が国内避難民となった。現在も約1160万人のシリア難民が人道支援を必要としている。これまでに約50万人の命が犠牲になった。

国際NGOのセーブ・ザ・チルドレンのシリア対応ディレクター、ソニア・クッシュ氏は「10年間の紛争により、何百万ものシリアの家族が貧困に陥り、子どもたちが生き残るためだけに働くことを余儀なくされ、何十万人もの人々が学校を卒業し、教育を受けることが夢になってしまった」とコメントしている。

国軍と武装勢力の戦闘が止まないミャンマー

2021年2月に軍事クーデターが発生し、人道危機に陥ったミャンマー。国軍と武装勢力の戦闘が止まず、不安定な情勢が続いている。OCHAは、同国で支援を必要とする人は、人口のおよそ4分の1にあたる1440万人に上ると推計。1200万人の子どもたちが学校に通えず十分な教育を受けられておらず、弱い立場にある子どもへの影響も懸念される。

ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャを巡る人道危機も依然として深刻。現在86万人以上のロヒンギャ難民が、バングラデシュの難民キャンプで生活している。

yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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キーワード: #SDGs#ビジネスと人権

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