トヨタの問題解決、対策の前に正しい「要因解析」を

トヨタ財団は4月20日、トヨタ自動車の問題解決手法をNPO向けに伝える連続講座「第6期トヨタNPOカレッジ『カイケツ』」第4回を実施した。同講座は、社会課題解決の担い手である非営利組織のマネジメントを改善し、より大きな成果を出してもらうことが目的だ。第4回は、グループワークで「要因解析」の結果を共有しながら、次の「対策立案」のステップに向けて議論を進めた。(オルタナ副編集長=吉田広子)

トヨタ財団は、助成金を拠出するだけでなく、NPOに問題解決力を身に付けてもらうことを目的に、2016年から「トヨタNPOカレッジ『カイケツ』」を開催。NPOが抱える組織上の問題点を改善し、社会的課題の解決を後押しする。第6期は全国から8団体がオンライン参加している。

トヨタの問題解決は、「テーマ選定」「現状把握」「目標設定」「要因解析」「対策立案」「対策実行」「効果の確認」「標準化と管理の定着」の8ステップからなり、参加団体は約7カ月間かけて問題解決のプロセスをA3用紙1枚にまとめていく。

今回のテーマ「要因解析」は、問題を発生させている要因を探っていくステップ。なぜその問題が起きるのか、「なぜ」を5回繰り返しながら、要因を特定していく。ブレインストーミング形式で、さまざまな視点から考えられる要因を洗い出す。より影響の大きい要因に対する「対策」を立てるのが次のステップだ。

トヨタ自動車で長年品質管理に携わってきた古谷健夫講師(クオリティ・クリエイション代表取締役)は、「つい『正解』を求めがちになるが、マネジメントの世界に正解はない。自分たちの頭で考えたことが、一番の正しい道。そのためにも問題解決のストーリーを意識することが重要だ。一連のプロセスを大事にしてほしい」と語る。

顔の見える関係築き、災害に強いまちづくりを

カイケツに参加している認定特定非営利活動法人愛知ネット(愛知県安城市)の増田貴子さんは、安城市民活動センターのセンター長として、まちづくりに取り組んでいる。

愛知ネットは、防災・災害支援のNPOとして設立され、災害時に活動する市民団体と顔の見える関係を築くことを目的に、指定管理者として愛知県内で4つの市民活動センターの運営を行っている。

増田さんは「いざ被災したときに、地域力が欠かせない。災害に強い地域づくりをしていくうえで、行政や市民活動団体との信頼関係が重要だ。市民活動センターはその拠点となる施設で、災害時に助け合えるネットワークを構築していきたい」と話す。

安城市民活動センターでは、市民活動団体の相談や交流会も行っている
安城市民活動センターでは、市民活動団体の相談や交流会も行っている

カイケツでは、問題解決のテーマとして「信頼関係を構築するための相談業務のフォローとサポートの仕組みをつくり、相談者の満足度を上げる」ことを掲げる。

市民活動を推進する安城市民活動センターには、市民活動団体などから年間約400件の相談が寄せられる。その内容は「ボランティアや社会貢献をしたい」「オーガニックに関する上映会を始めたい」「集客に困っている」などさまざまだ。

増田さんは、「中間支援組織として、協働を進めることがミッションの一つ。これまではほかの市民活動団体や行政、企業などにつなぐことに集中していて、相談者の満足度にはあまり目を向けてこなかった」という。そこで、相談者に対して満足度のアンケートを実施することになった。

古谷講師は「満足度は、品質そのもの。相談者の満足度が上がれば、スタッフの満足度も上がってくるはず。アンケートの結果をありのまま受け入れることが重要で、不都合な事実にふたをしてはいけない」と話す。

続けて、「『相談者に満足度を聞く』だけでは、問題は解決しない。これまでなぜ聞けていなかったのか。そもそもの発想がなかったのか、仕組みがなかったのか、何らかの阻害要因があるはず。要因解析の作業として、スタッフから考えられる要因を上げてもらい、いろんな視点で見直すことが重要だ」とアドバイスした。

増田さんは「相談者とのやり取りがラリーのようにつながることで、活動が活発化していく。そういったものをイメージしながら、市民団体の皆さんの活動の発展にどう貢献できるのか、考えていきたい。カイケツを受講して本当に良かった。これからの活動が違ったものになりそうだ」と語った。

あらゆるアイデアから対策案をしぼり込む

「不具合が発生する」という事象に対する対策立案の考え方

講座の後半では、中野昭男講師(のぞみ経営研究所代表)が、「対策立案」の進め方とA3資料のまとめ方を解説した。

要因解析の次のステップとなる「対策立案」は、要因解析で突き止めた「真因」に対応させながら対策案を洗い出す作業だ。

中野講師は「『対策ありき』ではなく、あらゆるアイデアを出して、そのなかから最適な対策案を導く。『あれはできない、これはできない』といったことは考えず、量を優先してとにかくアイデアを出し、その後、最適な対策案をしぼるのがポイントだ」と説明する。

対策立案の進め方は次のとおりだ。

1)方向性整理:真因が解消された状態を整理する
2)対策案検討:具体的な対策案(アイデア)を多く抽出する
3)対策案評価:対策案を評価して最適な対策案を決める

例えば、「不具合が発生する」という事象に対して、真因が「知識不足」「処理手順が不統一」ということであれば、「知識向上」「手続きの統一」が、真因が解消された状態になる。そのために、「手続き手順を自動化する」「勉強会を実施する」ことなどが対策案となる。

たくさん出された対策案から絞り込む際は、「効果(その対策を実行したならば、どれほど効果が見込めるか)」「実現性」「コスト」の観点で評価するのがポイントだ。

これら一連の問題解決のステップは、最終的に「A3資料」にまとめていく。中野講師は、「問題解決は、自分でストーリーを作っていくチャレンジでもある。初めての人にも分かりやすい表現や発表を心掛けてほしい」と話した。

yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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キーワード: #NPO

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