プラ新法施行で何が変わり、何が変わらなかったのか

大量生産・大量廃棄され、深刻化する一方のプラスチック汚染に対処するため、今年4月にプラスチック資源循環促進法(プラ新法)が施行された。これにより、コンビニやスーパー、飲食店などはどう変わったのか。施行から1ヶ月を経た今、新法が私たちの暮らしにもたらした影響を知るため、各社の取り組みを概観する。(編集委員・栗岡理子)

大量生産・大量消費からの根本的な脱却が求められる

プラ新法の3本柱

プラ新法には、1)環境配慮設計指針、2)使用の合理化、3)排出・回収・リサイクル、という3本柱がある。今のところ、私たちの暮らしに直接影響があるのは2)と3)だ。

しかし、3)についてはまだ佐賀・鹿島市などで開始されたプラスチック使用製品(ハンガーなどの「製品プラスチック」と菓子袋などの「容器包装プラスチック」)の一括回収・リサイクルのように、影響は一部地域にとどまる。

だが、2)については「特定プラスチック使用製品」の対象に選ばれた使い捨てのスプーンやフォークを含む12品目の使用量を減らす取り組みが、全国で進んでいる。

ファミマはフォーク終了へ、実証実験結果を検証中

とりわけ、コンビニのスプーンやフォークに注目が集まる。セブン‐イレブンは、植物由来(バイオマス)の素材を30%配合したスプーンやフォークの導入を開始した。ローソンは、持ち手部分に穴を開け長さも短くしたプラ製スプーンとフォークを順次導入。さらに、店舗によっては木製スプーンも選択できるようにした。

コンビニ大手の中で最も意欲的な取り組みを展開しているのはファミリーマートだ。ファミリーマートはいずれすべてのフォークと先割れスプーンの配布を止める方針を発表した。3月10日から都内10店舗で行った実証実験で、フォークの代わりに箸を提供。カレーなどのためにスプーンの提供は継続した。実験は既に終了し、現在結果を検証中だ。

実証実験では、「プラスチックの削減につながってよい」などの好意的な意見が多数寄せられ、「お客さまのSDGsに対する意識の高まりなどを感じています」とのことだ(ファミリーマート・広報部)。今後の展開については検証結果を踏まえて決める。

現在は、スプーンやフォークの持ち手部分を穴の開いたデザインにし、店舗によっては生分解性プラ製スプーンを提供している。

コンビニの取り組み次第では、私たちのライフスタイルを変えるほどの影響力がある。しかし、今のところ各社の試みは、形や素材を変えてはいるが無償で提供し続けているため、環境負荷の低減効果は限定的だ。

有料化したスーパーや大手外食チェーンも

スーパーでも、コンビニ同様カトラリーの素材を変更する取り組みが相次ぐ。イオンやヤオコー、ライフコーポレーションはプラスチックから木製や紙製への切り替えを開始した。

イオン傘下の食品スーパーであるマルエツやカスミ、マックスバリュ関東は昨年から、総菜用のプラスチックスプーンとフォークをバイオマス30%の素材に切り替えている。

また、外食チェーンではプラスチック汚染が問題になり始めた2019年時点で、持ち帰り用を紙製に切り替えた店も少なくないが、プラ新法を機に素材を変更した店も目立つ。

ガストなどを運営するすかいらーくホールディングスは、持ち帰り用のスプーン・フォーク・ナイフの素材をバイオマスプラから木に順次切り替える。木製スプーンなどは紙で包装する。日本マクドナルドも木製のスプーンやフォークを一部店舗で導入した。スターバックス コーヒー ジャパンのテイクアウト用カトラリーは生分解性プラ製だ。

しかし、素材を変更しても、大量消費が続く限り、自然環境に大きな負荷を与える可能性は高い。それを避けるには、やはり有料化の方が効果的だ。

有料化に踏み切ったスーパーがある。新潟県を中心に「原信」などを運営するアクシアルリテイリングは、プラ製スプーンを有料化した(小3円、大5円)。紙や木製への切り替えも検討したが、食感などの点から見合わせたという。フォークの取り扱いは中止した。また、オーガニックスーパー、ビオセボンは生分解性プラのスプーンとフォークを各5円で提供している。

大手外食チェーンでも、餃子の王将を展開する王将フードサービスが、日本国内直営・FC全店舗で有料化に踏み切った。バイオマスプラ製スプーンとプラ製レンゲが、持ち帰りでは1本につき5円、デリバリーでは1本につき10円だ。

使い捨てをなくすため、持ち帰り用カトラリーもリユースに

プラ新法が、削減の取り組みを強く求めている事業者は年間での提供量が5トン以上の「多量提供事業者」のみ。多量提供事業者は対策を講じなければ勧告・公表・命令・罰則の対象になり、命令に違反した場合は50万円以下の罰金が処せられる。

削減方法については、有料化を含むいくつかの選択肢が与えられているものの、どれを選択するかは事業者に委ねられている。国による一律の削減目標値は設定されず、国への報告義務もない。12品目を徹底的に減らそうというよりは、12品目の削減を糸口に、その波及効果に期待しているように見える。

実際、特定プラスチック使用製品以外でも新法の影響が散見される。たとえば、東京・千代田区の国立国会図書館では、館内に持ち込む手荷物を入れる透明の使い捨てプラ袋の提供を4月から取りやめた。代わりにしっかりした作りの半透明の手提げ袋を、入館時に使うロッカー前に用意した。

使用後に返却ボックスに戻された手提げ袋は、簡単にクリーニングしてからまた貸し出し用に回すそうだ。コピーした資料の持ち帰り用として、館内各所に配置されていたプラ袋も廃止した。

プラスチックは今や、食品や水、大気、植物、そして生きている人間の肺や血液、胎盤、痰などあらゆるところから見つかっている。品目や量の多寡に関わらず、プラスチック削減は喫緊の課題だ。しかし、使い捨てのライフスタイルに大きな変化がない限り、日本のプラスチック使用量が大幅に減ることはない。

ライフスタイルを変えるには、有料化や「リユースの仕組み」作りが重要だ。スターバックスやローソンが、持ち帰り用カップのリユースを目指し、丸の内・渋谷エリアの一部店舗でカップのリユース実験を行っている。それをカトラリーにまで拡大して全国に展開できれば、消費者のライフスタイルは大きく変わると思われる。

プラスチック汚染や気候変動問題に関する世界的意識の高まりの中、日本でも健康影響や未来社会への不安が根強く、大量消費社会からの脱却を求める消費者は多い。大量消費の象徴的存在である使い捨て製品を減らすため、単に「プラスチック使用量を少し減らしました」という以上のもっと抜本的な仕組みの転換が、事業者には求められている。

環境にやさしい暮らしを考える

栗岡 理子(編集委員)

1980年代からごみ問題に関心をもち、活動しています。子育て一段落後、持続可能な暮らしを研究するため、大学院修士課程に進学。2018年3月博士課程修了(経済学)。専門は環境経済学です。執筆記事一覧

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