広がる「食のバリアフリー」 嚥下食カフェも計画中

食べ物を飲み込むのが難しい患者や高齢者でも食べやすい「嚥下(えんげ)食」が、一般の飲食店でも広まりつつある。従来は病院や介護施設で提供されてきたが、高級レストランで食材をすりつぶしたり、刻んだりして提供する例も。愛知県ではNPO法人が嚥下食専門の「嚥下食カフェ」を含む複合施設を、総工費約1億7000万円で計画中だ。食べやすさに加えて見た目やおいしさも工夫することで、医療や介護の垣根を超えて誰でも一緒に食事を楽しめる「食のバリアフリー」を追求する。(オルタナ編集委員=関口威人)

3Dプリンターを使ってヨーグルトとイチゴのムースを盛り付けた嚥下食の例

■高齢化で関心高まる一方、対応飲食店はまだ少数

嚥下食は医学的に「摂食嚥下障害」を持つ人向けの食事。高齢者、障害者のほか脳卒中や交通事故の後遺症で食べ物をうまく飲み込めなくなった患者に、病院や介護施設で提供される。「やわらか食」や「とろみ食」と呼ばれることもある。

東京医科歯科大学摂食嚥下リハビリテーション学分野の戸原玄教授によれば、高齢化の進展で嚥下食への関心やニーズが高まる一方、質の向上や施設以外で食べられる機会を増やすことが求められている。

戸原教授は厚労省の研究班として「摂食嚥下関連医療資源マップ」を2014年から作り、嚥下食や介護食に対応した飲食店をリスト化している。当初は大学内の1店舗の登録からスタートし、現在は全国70店舗ほどに増えたものの、まだ「マイノリティー」な状態だという。

■「最初から嚥下食がテーマ」の今までにない企画

そうした中、愛知県のNPO法人「全国福祉理美容師養成協会(ふくりび)」が嚥下食をテーマにした「嚥下食カフェ」の開設を計画している。

「ふくりび」は高齢者や障害者の身だしなみを整える訪問理美容や、がん患者向けの医療用ウィッグの製作などを手掛けてきた。活動をするうちに、嚥下食が普及していないために外食をあきらめたり、食事を楽しめなかったりする患者や家族の問題に気付き、新たにプロジェクトを立ち上げることにした。

嚥下食カフェのメニューは戸原教授がアドバイザーとなって開発する。「最初から嚥下食を食べる人を対象に飲食店を企画する例は今までなかった」と戸原教授。それだけに、嚥下食でもサクサクとした食感を残したり、「3Dプリンター」を使って盛り付けたりするなど、実験的なメニューもできそうだという。

愛知県長久手市で計画されている複合施設「TOTONOU」の外観イメージ

■プロデューサーにはがん経験者の元アイドルも

カフェのプロデューサーには、アイドルグループ「SKE48」の元メンバーで乳がんの闘病経験もある矢方美紀さんが就く。矢方さんは「自分も抗がん剤治療中は食欲低下や味覚の変化で、食事がおいしく食べられないことに悩んだ。そういう経験を生かして、いろんな人が同じ食事で『おいしいね』『楽しいね』と意思疎通できるような場所にしたい」と意気込む。

実際のメニューや料金はまだ決まっていないが、「企業のサポートなども受けてできるだけ手頃な値段で提供したい」と、ふくりび事務局長の岩岡ひとみさんは話す。

施設は「TOTONOU(ととのう)」の名称で、愛知県長久手市内に地上3階建てで新築する。嚥下食カフェのほか、美容室やコミュニティー図書館も併設。総工費は約1億7000万円の予定で、その一部を賄う2000万円の寄付を5月23日までクラウドファンディングで募集。今年11月のオープンを目指す。

クラウドファンディングのリンクは以下。

https://readyfor.jp/projects/TOTONOU

嚥下食カフェや図書館の入る「TOTONOU」の屋内のイメージ

sekiguchitaketo

関口 威人(オルタナ編集委員)

中日新聞記者を経て2008年からフリー。名古屋を拠点に防災、環境、経済、地方自治、科学技術などをテーマに走り回る。一般社団法人なごやメディア研究会(なメ研)代表理事、サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」編集委員、日本環境ジャーナリストの会(JFEJ)正会員、NPO法人「震災リゲイン」理事。

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キーワード: #SDGs

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