「障害」を感じない・感じさせない映画館をつくる

東京都北区東田端にある映画館「CINEMA Chupki TABATA(シネマ・チュプキ・タバタ)」は日本初のユニバーサルシアターだ。聴覚や視覚に障害がある人、車いすを使う人、小さな子どもがいる子育て中のママやパパでも、映画を十分に楽しめる配慮がされている映画館だ。この映画館の代表である平塚千穂子さんに、開館の経緯などを聞いた。

CINEMA Chupki TABATA代表 平塚千穂子さん

――日本初のユニバーサルシアターはどのようなきっかけではじまったのでしょうか?

2001年から、視覚障害者の映画鑑賞を音声ガイドでサポートして、一緒に映画を楽しむボランティア活動をはじめました。既存の映画館に行って鑑賞会を行ったり、上映会を開いたりという活動を続け、2008年から、「いつ、どの回にも音声ガイドがついているバリアフリー映画館をつくりたい!」という夢を掲げて、募金を集めながらイベントをするようになりました。

そして、2014年に上映スペースの運営をはじめ、そこを立ち退かなくてはならない事情が生じて、今のシネマ・チュプキ・タバタの物件を見つけて、本格的な映画館づくりに着手しました。映画館をつくるのには、想像以上にお金がかかりました。

こんなことは一生に一度になるだろうと思ったので、せっかく作るなら、長年一緒に活動をしてきた視覚障害者だけでなく、字幕がないと映画が楽しめない聴覚障害者や、バリアフリーでないと来館できない車いす利用者の方など、「通常の映画館に設備やツールがないことにより、映画鑑賞がままならなかった全ての方が、安心して映画を楽しめるユニバーサルシアターを作ろう!」という構想が広がり、クラウドファンディングを立ち上げて、多くの人にこんな映画館があったら素敵だと思う夢の実現の応援を呼びかけたのが、きっかけです。

▼クラウドファンディング:夢の映画館!ユニバーサルシアターを創ります。
https://motion-gallery.net/projects/cinema_chupki_tabata

CINEMA Chupki TABATA外観

――ユニバーサルシアターはどのようなコンセプトでどのような内容で行っていますか?

「障害者のいない映画館」がコンセプトです。「障害」というのは、本人にあるのではなく、その人を受け入れる環境や社会の方にあります。社会側にバリアがあったり、対応が不十分だったりするから、「障害者」という存在が生まれます。

もし、社会側の環境や設備、ツールが整っていて、誰も「障害」を感じないような場所だったら、「障害者」という概念や存在すらないはずで、そういう、だれもが「障害」を感じない、感じさせない映画館を目指しています。

CINEMA Chupki TABATAの中の様子

――社会側のバリアがあると気づいたのはなぜでしょうか?そして、それを変えようと思ったきっかけは何がありましたか?

当事者の方々との交流があったからだと思います。お友達になった視覚障害者の方と、映画の話をしたい、もっといい映画を紹介したい。共有したいのにできないというもどかしさを感じ、どうしたらできるだろうか?と考えて、こうしたらどうだろう?ということをやってみる。少しできて伝わった時の喜びを肌で味わうと、もっとできるはず、こんな風にしたら楽しめるのでは?と、できた時の喜びがどんどんアップデートしていった感じです。

当事者からも、ここが不便だということ、ここがこんな風になっていたらいいということを、いろいろ教えてもらいました。例えば、上映の入れ替えの時間を長めにとったり、駅までお迎えにいくサポートを行ったり、見えない人が触ってわかるようにポイントカードに切り込みをいれたりしました。また、映画の音声ガイドだけでなく、劇場までくるのに必要なプロセスの中にも、いろんなバリアがみつかり、できることは工夫し、変えていくということをしていったように思います。

――ユニバーサルシアターを始めるにあたって多大な資金が必要だったと思うのですが、クラウドファンディングをやってみようと思ったきっかけはなんでしょうか?

夢を共有してよびかけたかったというのがあります。映画ファンなら、映画の感動を味わえないことのつらさ、映画と出会う喜びを知らない悲しみがわかります。心から、夢を応援できると思いました。

そういう人たちに、ちょっとした工夫や、環境整備で、どんな人も素敵な映画と出会え、感動を分かち合えるんだということを知ってもらい、応援してほしかったからです。

――ユニバーサルシアターをやってみてよかったと思うことはなんでしょうか?

見えない人のため、聞こえない人ためと考えた配慮が、結果、みんなのためにも良いものになっている。むしろ、鑑賞環境や、作品へ向き合う濃度が、障害のある方の存在により、グレードアップしていくのが面白いと思います。

――ユニバーサルシアターの意義はどのようなところにあると考えていますか?

街中にユニバーサルシアターを作った意義は、街の人たちと障害者、障害者とその日に訪れたお客様が、図らずもふれあう機会が増えていることです。「図らずも」というのがポイントです。

長年、ボランティア活動などをやってきて思うのは、共存が当たり前になっている場所がほとんどないということです。意識がそこに向いている人よりも、意識が向いていない人に、知ってもらうことの方が、エキサイティングだと思っています。

カフェやシアターのような誰もが集まるコミュニティスペースには、いろいろな人がやってくる。そこで、「白杖ついてる人が、映画をみている!」という驚きを感じたり、「耳に何をつけているんだろう?」と興味を持ったり、どんな映画でも、おとなしく足元で伏せている盲導犬を目にしたり、そんな経験をするチャンスが、当たり前に日常の中に転がっているのがよいと思っています。

――ユニバーサルシアターをやってみて苦労したことはどんなことでしょうか?

やはり、全作品に音声ガイドと字幕を対応させるのは、とても大変です。映画会社が作っているものがあれば、それを使用しますが、まだ、わずかですから、対応していない作品は、一から当館のスタッフやボランティアの方々が、協力しています。

――映画館業界の課題はどんなところにあると考えていますか?今後どのようになって欲しいと考えていますか?

若い人が、スマホで安価に配信動画を見ることに慣れてしまい、映画館で映画を見る醍醐味を知らないというように、映画館で映画を見る文化が、しぼんでしまっているということです。

――今後の目標はどんなことを考えていますか?

実は、昨年、チュプキがドキュメンタリー映画をつくりました。「こころの通訳者たち」という作品です。演劇を聴覚障害者のお客様にも楽しんでもらうための新しい試みとして、演劇公演「凛然グッドバイ」に舞台手話通訳がつけられました。

▼映画『こころの通訳者たち』 予告編
https://www.youtube.com/watch?v=l9cz2sGvkOY

その舞台手話通訳に挑んだ、三人の女性のドキュメンタリーを、今度は、見えない人に届けるには、どうしたらよいか?という難題に立ち向かった私たちの記録です。この映画を通じて、全国で上映していただき、ユニバーサル上映の素晴らしさを、届けていきたいと思っています。

――皆さんに何かメッセージがあれば是非!

百聞は一見にしかず。

是非一度、ユニバーサルシアター、

CINEMA Chupki TABATAに遊びにきてください。

▼CINEMA Chupki TABATA
https://chupki.jpn.org/

itou

伊藤 芳浩 (NPO法人インフォメーションギャップバスター)

特定非営利活動法人インフォメーションギャップバスター理事長。コミュニケーション・情報バリアフリー分野のエバンジェリストとして活躍中。聞こえる人と聞こえにくい人・聞こえない人をつなぐ電話リレーサービスの公共インフラ化に尽力。長年にわたる先進的な取り組みを評価され、第6回糸賀一雄記念未来賞を受賞。講演は大学、企業、市民団体など、100件以上の実績あり。著書は『マイノリティ・マーケティング――少数者が社会を変える』(ちくま新書)など。執筆記事一覧

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