プラ新法からみる日本のプラスチック問題の展望

2022年4月から「プラ新法」(プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律)が施行し、日本もようやく本格的な取り組みに舵を切ったように思えた。しかし、結論から述べると現行の法律では「プラスチック問題を本質的に解決することはできない」という見解が各方面から出ている。2050年には海中のプラスチックの量が魚より多くなるという予測が出されて久しいが、よりよい未来シフトするためにどうアプローチしていけばよいのか。本稿では現行のプラ新法の問題点と、本質的な解決のために必要な循環型モデルについて考察していく。(伊藤 恵・サステナビリティ・プランナー)

環境に配慮した素材なら使い捨てでも大丈夫?

プラ新法では、原料について、木や紙、バイオプラスチック、再生プラスチックへの切り替えが推奨され、フォーク・スプーン・テーブルナイフ・マドラー・ストロー・ヘアブラシ・くし・かみそり・シャワーキャップ・歯ブラシ・衣類用ハンガー・衣類用カバーの12種類が特定プラスチック使用製品に指定され、削減することを求めている。

そこで施行にあわせて、バイオプラスチックや生分解性プラスチックへ切り替えたり、カトラリーの柄の部分に穴を開けて使用量を削減したり、企業もさまざまな取り組みを開始した。

この取り組みはニュースなどでも多く取り上げられたが、プラスチック問題の解決に本当につながっているのだろうか。実は、このような対策を続けていてもプラスチックごみは減るどころか増えていく一方ということはすでにデータでも証明されている※。(※The Pew Charitable Trusts (2020). A Comprehensive Assessment of Pathways Towards Stopping Ocean Plastic Pollution.)

プラスチックごみ削減においても3Rの順番が重要で、リデュース・リユース・リサイクルのうちリデュースを一番優先させるべきなのだ。しかしプラ新法では、リサイクルや代替え素材への切替えが前面に押し出されているため、法律に沿った取り組みをしているにもかかわらず、根本的な解決につながらない小手先の取り組みが散見される。

このままだと企業も消費者も現状の取り組みをしていれば大丈夫と思ってしまい、大幅に使用量が削減できるような、使い捨てによる大量生産・大量消費という従来モデルを変えていくという抜本的な取り組みへの移行を遅らせてしまう危険すらあるといえる。

必要なのは循環型の社会経済モデルへのチェンジ

いまわたしたちの生活は利便性を追求し、使い捨てが前提の大量生産・大量消費・大量廃棄の経済で成り立っている。この「一方通行」のシステムから、新たな資源の投入や廃棄をできるだけゼロに近づけるような循環型システムへの変換の必要性がいま叫ばれている。

これが「サーキュラー・エコノミー」といわれる考え方だ。使ったあとにどうするかを考える、いまのリサイクル中心の対策ではなく、製品やサービスを設計する段階から、限りある資源を循環させ、持続可能なモデルをデザインしていく。そんな根本的なチェンジが必要なのだ。

日本では環境のための取り組みは経済的利益が両立できないという社会貢献的なイメージを持つ人がいまだに多いが、ヨーロッパではサーキュラー・エコノミーに早くから着目していた。

リーマン・ショック後の経済回復の方針として打ち出された「欧州成長戦略」では再利用資源の活用により資源に依存しない経済成長や廃棄物抑制が明示され、2015年には「サーキュラー・エコノミー・パッケージ」が制定された。

枯渇性資源の輸入依存からの脱却、高齢化社会、人口規模縮小を見据えた大量生産型経済からの移行。ヨーロッパがサーキュラー・エコノミーを推進するのは、単に環境問題の改善を目指すだけでなく、自国の持続可能な発展を今後も目指すうえでの野心的な取り組みといえるのだ。

サーキュラー・エコノミー先進国オランダでは

ヨーロッパのなかでも、特にサーキュラー・エコノミーの取り組みが活発に行われているオランダでの実例をみてみよう。オランダのスタートアップ企業、フェアフォン社が発売しているのは、サーキュラー・エコノミーなスマートフォン。長期使用を前提に製品の修理が容易にできるようにデザインされていることが大きな特徴だ。またスマートフォンには金やスズ、タンタル、タングステンという鉱物が原料として使われるが、その多くは紛争が起こっている地域の武装グループの資金源になっているとされている。

フェアフォン社は、この紛争鉱物の使用を回避し、倫理的に調達された原料を使用することで、紛争鉱物を使用しなくてもスマートフォンの製造が可能であることを実証したエシカルなスマートフォンとしても世界的に注目を集めた。修理や交換による長期利用を前提にしたビジネスモデルは消費者へのメリットも大きく、カメラやディスプレイなど自分が変えたい部分だけを最新モデルに変えることも可能になる。例えばディスプレイは一番高価なタイプでも約1万という価格設定だ。

このような優れた仕組みにより発売当初用意されたモデルは即完売という人気で、サーキュラー・エコノミーに根差した商品設計は、経済的利益と相反することなく、むしろプラスに働いていくということがわかるだろう。

企業を本気にさせるのは、消費者の目

大量生産・大量消費・大量廃棄の現在の経済モデルから、そもそも新しい資源をなるべく使わず、ゴミも出さないような循環型モデルに転換していく。言葉にするのは簡単だが、実現するためには、各企業やサプライチェーンが抜本的にビジネスモデルを見直していく必要がある。

当然そのためには商品を環境配慮型の設計へ変更するなど、様々な初期投資がかかってくる。長い目でみれば変えなくてはいけないということは判っていても、短期的な売り上げや利益を考えると、なかなか本腰を入れた取り組みを進められない。

そんな企業もまだまだ日本には多いだろう。そこで企業の背中を押すのは、消費者の目ではないだろうか。ヨーロッパでは、すでに環境などに配慮した商品でないと消費者からの支持が得られなくなっており、プラスチックに限らずさまざまな分野での認証が商品に表示されるようになっている。

WWFが公表したプラスチック汚染に対する意識調査をまとめた報告書によれば、プラスチック製の容器包装の削減に対する関心の高さがすべての項目で日本は、世界28か国の中で最下位という結果だった。

ゴミを出しても、きちんと分別しているからリサイクルされている、だから大丈夫という認識を改め、消費者ひとりひとりが、意識を高く持ち商品やサービスを選択していく。消費者のニーズがあれば、企業も本格的に取り組めるようになる。サーキュラー・エコノミーの促進には、そんなプラスのサイクルをつくりだしていくことがまずは必要なのではないだろうか。

itomegumi

伊藤 恵(サステナビリティ・プランナー)

東急エージェンシー SDGsプランニング・ユニットPOZI サステナビリティ・プランナー/コピーライター 広告会社で企業のブランディングや広告制作に携わるとともに、サステナビリティ・プランナーとしてSDGsのソリューションを企業に提案。TCC新人賞、ACC賞、日経SDGsアイデアコンペティション supported by Cannes Lionsブロンズ受賞。執筆記事一覧

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