トヨタの問題解決、「思い付き」では改善しない

トヨタ財団は5月25日、トヨタ自動車の問題解決手法をNPO向けに伝える連続講座「第6期トヨタNPOカレッジ『カイケツ』」第5回を実施した。同講座は、社会課題解決の担い手である非営利組織のマネジメントを改善し、より大きな成果を出してもらうことが目的だ。第5回では、受講者が問題解決のステップを「A3資料」にまとめ、各グループで中間発表を行った。

トヨタ財団は、助成金を拠出するだけでなく、NPOに問題解決力を身に付けてもらうことを目的に、2016年から「トヨタNPOカレッジ『カイケツ』」を開催。NPOが抱える組織上の問題点を改善し、社会課題の解決を後押しする。第6期は全国から8団体がオンライン参加している。

トヨタの問題解決は、「テーマ選定」「現状把握」「目標設定」「要因解析」「対策立案」「対策実行」「効果の確認」「標準化と管理の定着」の8ステップからなり、参加団体は約7カ月間かけて問題解決のプロセスをA3用紙1枚にまとめていく。

第5回では、対策立案までまとめた「A3資料」をグループごとに発表。設定したテーマに対して、数値で現状把握ができているか、要因解析で「真因」に行き着いたか、要因に対応する対策立案ができているか――など、各講師が丁寧に確認していった。

受講者はこれから2カ月かけて対策を実行し、7月に開かれる成果発表会で、その結果を発表する。

カイケツの古谷健夫講師(クオリティ・クリエイション代表取締役)は、企業以外にも、病院の医師や高校の校長向けなどにも問題解決の講座を実施しているという。

「問題解決は普遍的で、業種や組織の規模にかかわらず役立つもの。組織内のメンバーともよく話し合い、問題解決の一連のストーリーがつながっているか、検証しながら進めてほしい」とアドバイスした。

生きづらさを抱える若者に寄り添う

ゆどうふは、生きづらさを抱える若者が自己表現を通して自分らしく社会参加ができるようになることを目指す(提供:特定非営利活動法人ゆどうふ)
ゆどうふは、生きづらさを抱える若者が自己表現を通して自分らしく社会参加ができるようになることを目指す(提供:特定非営利活動法人ゆどうふ)

カイケツに参加する特定非営利活動法人ゆどうふ(東京都町田市)は2004年11月、音楽を通じて自己表現できる場づくりを行う任意団体として活動を開始した。2015年3月に法人化し、現在はひきこもりなど生きづらさを抱えた若者やその家族を支援するために、アウトリーチ(訪問支援)活動や、一軒家を借りて居場所づくりを行っている。

団体名の「ゆどうふ」には、「ぽかぽかあたたかい鍋の中で、みんなそれぞれの個性が発揮されるような場でありたい」との思いを込めた。

「孤立やひきこもりは、今やだれでも直面する可能性のある日常的な現象だ。若者、子ども、子育て世代、高齢者など、様々な世代で多くの人が孤立と隣り合わせの生活を送っている。にもかかわらず、この『社会的孤立』という大きな問題はあまり認知されていない」

ゆどうふの理事長で臨床心理士でもある同NPOの辻岡秀夫さんは、こう危機感を示す。

「最近では社会人になった後のひきこもりも増えている。例えば、仕事を辞めたり、職を失ったりした後、自信喪失や罪悪感からひきこもりがちになり、社会にも戻りにくい。ひきこもり状態にある人の数は200万人と推計され、日本社会に構造的な問題がある。自己責任だと突き放すことはできない」(辻岡さん)

だが、こうした問題が深刻化する一方で、支援が集まりにくい現状がある。

辻岡さんは、カイケツの講座のなかで、テーマとして「外部財源に依存しない収益源の確立」を掲げた。活動資金の大部分を「助成金」が占めることから、安定した組織運営を行うため、自主事業を強化し、収益力を向上させることを目指す。

自主事業としては、相手に配慮しつつ自分の思いをしっかり伝えていくコミュニケーション「アサーション」を学ぶ講座を展開する。2023年上半期内に団体向けアサーション講座を年33回実施するのが目標だ。

辻岡さんは、問題解決に取り組むなかで、「多岐にわたる業務が非効率に行われているため時間が割けない」「アサーション事業に対する目的意識の共有や知識が不足している」といった課題が見えてきたという。

「職場や学校に属している、いわゆる『ひきこもり状態』ではない人の中にも、『孤立』を感じている人や、自分を主張できない人は多い。だれもが『自分らしく自然な状態でいられる』社会が実現するように、今後も活動を続けていきたい」と語った。

「思い込み」「思い付き」では解決しない

問題解決の8ステップをA3シートに書き込んでいく
問題解決の8ステップをA3シートに書き込んでいく

カイケツの中野昭男講師(のぞみ経営研究所代表)は、「問題解決」の手法を学ぶ意義を次のように説明する。

「どんな組織や個人でも、何か問題があれば、改善に取り組むと思う。だが、『思い込み』や『思い付き』では、思った成果につながらないこともある。推測ではなく、しっかりと『現状把握』を行い、数値でレベルを把握する。なぜそうなるかを『要因解析』し、その原因を取り除く『対策』をすることが重要だ。そうすることで、問題を解決できる確率も高まり、効率的な解決につながる。講座で学んだ一連のプロセスをこれからも続けてほしい」

鈴木直人講師(元日野自動車TQM推進室室長)も、「問題を見つけるとすぐに『対策』を考えてしまうが、そもそもなぜその問題が起きているのか、丁寧に『なぜなぜ』を繰り返して考えることが大切だ」と強調した。

yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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