「新しい資本主義」、市場から選ばれる企業とは

【連載】サステナビリティ経営戦略(24)

5月5日、岸田首相は英国の金融街シティーでの講演で、自らの経済政策「新しい資本主義」について「一言で言えば資本主義のバージョンアップである」と述べ、「グローバル資本主義の負の側面である外部不経済の是正が求められている」と訴えました。(サステナビリティ経営研究家=遠藤 直見)

■ 新しい資本主義は二兎を追う

岸田首相は、資本主義のバージョンアップが必要な理由として、「格差の拡大、地球温暖化問題、都市問題などの外部不経済の問題を解決する必要があるからだ」と明言されました。

そのためには、「or」(市場か国家か、官か民か、という二者択一)ではなく、「and」(市場も国家も、官も民も、という両立)の考え方が重要であるとし、以下のように述べられています。

・官はこれまで以上に民の力を最大限引き出すべく行動し、これまで官の領域とされてきた社会課題の解決に民の力を大いに発揮してもらう。

・社会課題を成長のエンジンへ転換していく。官が呼び水となり課題とされる分野に新たなマーケットをつくる。民間の投資を集め官民連携で社会課題を解決し力強く成長する。「二兎(にと)を追う」ことで持続可能な経済をつくる。

社会課題解決(社会価値創出)と経済成長(経済価値創出)の二兎を追うことを目的とする新たな資本主義。その中核的な民間の担い手は長期的な視点を持つ企業と投資家(金融機関など含む)でしょう。

企業が様々な社会課題の解決を成長のエンジンへ転換するビジネスモデルを構築・実行し、それを投資家が的確に評価・判断し、投資を行う。このようなサイクルを回すことで外部不経済が是正され、環境・社会・経済のサステナビリティに繋がることが期待されます。

サステナビリティ経営とインパクト投資

そのために企業と投資家は自らの取り組みのバージョンアップが必要です。その鍵となるのがサステナビリティ経営とインパクト投資です。

インパクト投資とは、近年広がりを見せているESG投資(企業の環境・社会・企業統治への取り組みを考慮した投資)の発展形の一つです。

投資家が、財務的リターンに加えて、ポジティブな社会・環境面のインパクト(事業活動がもたらした変化や効果)を創出する「意図」を持ち、企業と協働でインパクトを測定・開示する点に特徴があります。

2020年の世界市場全体でのインパクト投資残高は7,150億ドル*とされ、35.3兆ドル**とされる同年のESG投資額に占める割合は僅かですが、インパクト投資は急速に伸びており、今後も拡大が見込まれています。

一方、サステナビリティ経営は以下のような特徴を持ちます。

・環境・社会のサステナビリティを踏まえた自社の価値観(パーパスや存在意義等)及び目指すべき方向性(長期ビジョン等)の明確化
・持続的な価値創造の基盤となる設計図としてのビジネスモデルとそれを実現するための戦略の構築(事業ポートフォリオの最適化、人的資本や知的資本等の経営資源の確保・強化、イノベーション創出のための組織・プロセスの確立など)
・ステークホルダー(政府、他社、投資家、NGO、地域社会等)との協働を通した戦略の実行及びそのプロセス・成果(インパクト含む)の測定と開示(KPI等の設定含む)
・持続的な価値創造に資する経営の規律付け及び推進のためのガバナンスの整備

新しい資本主義を推進する車の両輪となり得るサステナビリティ経営とインパクト投資は親和性があり、相乗効果が期待されます。

企業と投資家が切磋琢磨(対話・エンゲージメント含む)し、様々なステークホルダーとも連携しながら、サステナビリティ経営とインパクト投資を練り上げていくことが、外部不経済の是正と持続的な価値創造を目指す新しい資本主義の実現に繋がっていくと思います。


*世界のESG投資額の統計を集計している国際団体GSIA(Global Sustainable Investment Alliance)の調べ
**インパクト投資に関する世界的なネットワークGIIN(the Global Impact Investing Network)の調べ

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

東北大学理学部数学科卒。NECでソフトウェア開発、品質企画・推進部門を経て、CSR/サステナビリティ推進業務全般を担当。国際社会経済研究所(NECのシンクタンク系グループ企業)の主幹研究員としてサステナビリティ経営の調査・研究に従事。現在はフリーランスのサステナビリティ経営研究家として「日本企業の持続可能な経営のあるべき姿」についての調査・研究に従事。オルタナ編集委員

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