職場の生産性向上は、「信頼し合える企業文化」から


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増加する仕事量、厳しい納期、「成果を出す」プレッシャーと責任、これらすべてが従業員のストレスレベルを増大する一因です。経営陣のサポート不足も、組織の変化と同様にストレス要因の一つです。人間は元来、変化を好まず、仕事上における変化は非常に不安なものであり、ストレス反応を引き起こします。そして、新型コロナウイルスによるパンデミックは、誰にとっても大きな変化と混乱を引き起こしました。(BSIグループジャパン社長・漆原 将樹)

職場の生産性向上は、「信頼し合える企業文化」から

仕事上のストレスがもたらす弊害

もちろん、誰でもストレスを感じることはあります。ストレスは、私たちを危険から守るための自然なメカニズムであり、通常の状況下ではポジティブなものととらえることもできます。しかし、ストレスが長期化すると、健康への影響が深刻化します。

ストレス反応は、一定期間内に私たちの身体と精神の両方に影響を及ぼし始めます。肉体的には、心拍数の増加、胃の不調、睡眠不足などを引き起こし、記憶や意思決定といった認知能力にも影響を与え始めます。また、仕事上のメンタル不調は、企業にも悪影響を及ぼします。

メンタル不調で仕事を休むと、生産性の低下やサービス提供の問題につながり、企業の評判にも影響を及ぼします。また、その埋め合わせに派遣社員が必要になれば、コストにも影響します。さらに、他の従業員の仕事量も増えれば、当該従業員のストレスレベルも上がり、負の連鎖になりかねません。

本物の信頼文化を育む

企業が従業員の心身の健康を守るために、効果的に従業員の労働安全衛生を優先させなければなりません。適切で安全かつ健康的な職場環境の提供や、生産的でやる気のある従業員の育成などの要素を示す労働安全衛生マネジメントシステムなどのフレームワークが必要です。

こうしたフレームワークに基づいた結果、健全で調和のとれた職場環境には欠かせない、本物の信頼文化が生まれるのです。

もし、リーダーが直面する問題に真剣に向き合っていないと思えば、組織内に不信感が生まれ、その時点で従業員は他の職場を探し始めます。だからこそ、企業の長期的な健全性を保つには、「信頼」が不可欠です。

従業員のニーズと期待に焦点をあて、労働安全衛生マネジメントシステムを導入し、身体的安全衛生と精神的・認知的リスクを管理することで、企業内の持続的な文化的変化を促進することができます。

正しい方法でこれらの施策を導入すれば、従業員は幸せでやりがいがあり、心身ともに健康で就業することができます。企業にとっては、生産性や革新性が向上するというメリットがあります。つまり、従業員にとって最善のことを行えば、結果的にビジネスも最善なものになるのです。

従業員のウェルビーイングに関して、企業は真剣に取り組む必要がある

当たり前のことですが、企業が従業員のウェルビーイングを適切に保護するためには、まず“職場におけるウェルビーイング”が実際に何を意味するのかを理解する必要があります。

新しい国際規格であるISO 45003の「職場における心理的安全衛生」の最新の定義では、職場におけるウェルビーイングとは、「仕事に関連する労働者の身体的、精神的、社会的、認知的ニーズと期待が満たされていること」であるとしています。

では、そのニーズや期待とはいったい何なのでしょうか。そして、雇用主はどのようにそれを満たせばいいのでしょうか。従業員は、社会的に不利な行動、身体的・精神的・認知的な傷害、不健康といったことがない職場を必要とし、期待しています。

経済的な安定、ワークライフバランス、自律性、努力と報酬のバランス、協調性、職場での良好な人間関係(これが欠けると、心理的・身体的な不健康が生じかねない)などもニーズや期待に含まれています。

効果的なウェルビーイング戦略の展開

社会との関わりも重要で、私たち人間は社会的な動物であり、他の人間とのつながりを感じたいと願っています。まず、社会参加の機会を作るために、企業がどのようなことをしているかということがポイントです。

例えば、スポーツクラブなどの福利厚生、あるいは幅広い社会的つながり(オンラインまたは対面)を持っているでしょうか。地域社会との連携や地域社会への還元について、どのような取り組みを行っているでしょうか。また、ボランティア活動の機会を提供したり、学校や大学と連携して若者の指導にあたったりしているでしょうか。

社会的なつながりが社会的価値を生み出し、それがすべての人にプラスの波及効果をもたらします。ウェルビーイングを職場に取り入れるための効果的な戦略を立てることは、最初は面倒なように思えるかもしれません。

しかし、従業員の身体的・精神的な安全を守り、従業員の学習と成長を助け、包括的で公正・公平な職場を作るために、まずすでに行っていることをすべてリストアップすることが必要です(法律で定められていることは、すでに実行しているはずです)。リストを作成することで、どこにギャップがあるのか、まず何をすべきなのかを知ることができます。

包括的なアプローチによる恩恵

職場のウェルビーイングを向上させる方法を見つける最も効果的な方法は、従業員と話すこと、聞くことです。最終的に影響を受けるのは従業員なのです。何がうまくいっていて、何がうまくいっていないのか、そして何がもっと必要なのかを教えてくれるはずです。

難しいことではないですが、真剣に取り組まなければなりません。従業員のウェルビーイングに対して、該当する□内にレ点をつけるチェックリストのようなものと考えている企業は、職場に必要な文化的変化を起こすことはできないでしょう。

包括的なアプローチを取り、効果的な実施には時間がかかることを覚悟しておくことです。一度にすべてを実行する必要はありません。しかし、どこから始め、どこに到達したいかを考え、このプロセスが継続的なメンテナンスを必要とするものであることを認識する必要があります。

例えば、安全衛生チーム、人事チーム、開発チームなど、部門をまたいでチームをうまく機能させるには、大変な努力と労力が必要です。しかし、真の文化的変革を推進するためにリーダーが本気で取り組むことができれば、組織と従業員に大きな影響を与えることができるのです。

BSI グループジャパン株式会社
(British Standard Institution:英国規格協会)
代表取締役社長 漆原 将樹(うるしはら・まさき)
 一橋大学大学院国際企業戦略研究科(MBA)修了。
2000年よりパナソニック株式会社でグローバルアカウントマネジメント、OEM営業、開拓営業、マーケティングとして活動。2005年よりGE (General Electric Company) のExperienced Commercial Leadership Programでは、GE Water, GE Oil & Gas, GE Plasticsで活動し、国内では新規事業開拓を、米国では買収先企業の戦略立案、企業改革に従事。 GEセンシング&インスペクションテクノロジーズの非破壊検査事業本部では、電力業界、石油化学業界、自動車業界を中心としたアカウントマネジメントに従事した後、、センシング事業本部にて核計装製品のアジア大洋州地域における営業責任者を経て、非破壊検査事業本部長として日本の事業を統括。 その後、センシング事業本部で、ゼネラルマネージャーとしてアジア大洋州地域の事業を統括。 2020年よりシェフラージャパン株式会社 産業機器事業部 プレジデントに就任。国内における自動車事業以外の事業を統括。2021年7月26日よりBSIグループジャパン株式会社 代表取締役社長に就任

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