オルタナ総研統合報告書レビュー(14):エーザイ

エーザイは2021年度から統合報告書を「価値創造レポート」に名称変更しました。中長期的に創造する社会的価値について、ステークホルダーにしっかりと伝えたいという思いから名称を変えたそうです。「価値創造レポート」もIIRC(国際統合報告評議会)が公表したフレームワークに則っています。レビューします。(オルタナ総研フェロー=室井 孝之) 

エーザイの「価値創造レポート2021」

同社は、「価値創造のプロセスとフロー」を次の様に説明しています。  

1.エーザイでは企業理念の実現を通じた、企業価値の向上を図るために、顧客、株主、地域の皆様など幅広いステークホルダーズとの信頼関係の構築に努め、「患者様価値」、「株主価値」、「社員価値」の最大化、ならびに企業の社会的責任の遂行を経営における重要課題と捉え、企業活動を展開しています。

2.企業活動により創出された価値は、「資本」として蓄積され、ビジネスモデルを通じて増減し、変換されます。

3.資本を投入して事業活動を行い、付加価値を創出し、インプットした以上に資本を増加させるプロセスを、「価値創造のプロセス」として捉えています。

4.一方、事業活動によりどのようにして価値が創出されるのかといった「価値創造のフロー」については、独自のバランスト・スコアカードの4つの視点(財務、顧客、内部ビジネス・プロセス、学習と成長)に基づき、最終的には財務の視点にフォーカスした形で把握しています。

5.これは、事業活動の唯一の目的は顧客満足度の増大という社会価値創造であり、その結果として売上や利益といった経済価値を創出するという、エーザイの企業理念に基づいた考え(目的と結果の連続順)とも合致しています。  

6.当社は30年前から、ヒューマン・ヘルスケア(hhc)を企業理念として掲げてきました。製薬企業のアウトプットは画期的な新薬を患者様にお届けすることですが、新薬のみならず、当事者様やそのご家族の人生を総合的に豊かにする社会価値こそが、 当社が使命としてもたらすべきアウトカムと捉えてます。

同社の考え方は、IIRCの提唱する「価値創造プロセス(オクトパスモデル)」、すなわち「時間軸を意識した長期にわたる価値創造(保全、毀損)のために、外部環境の変化を含めて、報告すべき内容要素をストーリー性をもって語る」に合致しています。

一方で2021年1月の「IIRCフレームワーク」改訂のひとつに「アウトプットとアウトカムの明確化」があります。

自動車製造企業の例示(アウトプット:自動車、アウトカム:利益、ブランドや顧客満足度の向上、大気汚染)が追加され、環境問題への懸念を伴う社会・関係資本の減少、大気汚染などによる自然資本の減少が、ネガティブなアウトカムとして示されています。

「価値創造レポート2022」ではIIRCフレームワーク改訂内容について検討されてはいかがでしょうか。

muroi

室井 孝之 (オルタナ総研フェロー)

42年勤務したアミノ酸・食品メーカーでは、CSR・人事・労務・総務・監査・物流・広報・法人運営などに従事。CSRでは、組織浸透、DJSIなどのESG投資指標や東北復興応援を担当した。2014年、日本食品業界初のダウ・ジョーンズ・ワールド・インデックス選定時にはプロジェクト・リーダーを務めた。2017年12月から現職。オルタナ総研では、サステナビリティ全般のコンサルティングを担当。オルタナ・オンラインへの提稿にも努めている。執筆記事一覧

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