自立しはじめた村のリーダー「地域健康推進員」とは

ミャンマーの僻地・無医村「ミャウンミャ」から

「全124世帯にトイレを設置できたんだ」。私たちが支援するミャウンミャ地区・カンコーズ村の地域健康推進員が、とびきりの笑みで伝えてきた。4年間かけて自分たちの村全戸にトイレを設置できた達成感で、本当に嬉しそうだった。もちろん私も感激した。「ああ2015年はたった15%しかトイレが無かった村に、全部トイレができたんだ」と。(NPO法人ミャンマー ファミリー・クリニックと菜園の会「MFCG」代表理事・医師・気功師・名知仁子)

みんなで輪になって手洗いの講習(写真:名知仁子)

■ゴールはサポートが不要になること

ミャンマーの政変から1年以上が経ちました。私たちの支援活動も、大幅に舵取りの変更を余儀なくされました。しかし「僻地や無医村の住民が問題を問題ととらえ、それを自分たちで解決できるようになってもらう」という方針は変わりません。

自分たちの健康を自分たちで守れるようになってもらうために、MFCGは当初から各村で地域健康推進員の育成に取り組んできました。私たちが提供する手洗いや歯磨きなどの保健衛生指導だけでは、村の人々の健康を守り切れないと考えたからです。最終的には住民が自立し、私たちのサポートが不要になる未来を目指しています。

日本でも同じです。健康診断で糖尿病予備軍と指摘されたとします。どうすれば良いかわからない場合には、適切な運動や食事のバランスについてアドバイスを受けられますよね。これは、自分自身で健康を守れるようにするための重要なシステムです。

私たちが支援するミャウンミャの村人は、家計を助けるため小学校を途中で辞めざるを得なかった人も少なくありません。そのため、ミャンマー語が満足に読み書きできず、トイレや手洗いの大切さを知らない人たちも大勢います。

そこで、私たちは希望した住民に5日間の講習を行い、手洗いの仕方、結核の症状、高血圧や糖尿病になった時の対応方法など、基本的な保健衛生の知識を身につけてもらいます。

■知識をつけた村人が保健衛生のリーダーに

受講前のプレテストと受講後のポストテストを比べると、ほとんどの受講生は見違えるほど知識が増えており、ただ驚くばかり。ああ、単に知識を身につける機会がなかっただけなのだなあと実感します。

ポストテストで60%以上の正解をした受講生は地域健康推進員として、村全体の健康促進を担ってもらっています。学んだ知識を村に広め、実践し、定着まで行います。彼らは、自分たちの村を清潔、健康にする使命に誇りを持って活動してくれます。

この活動は2015年に始まり、ミャウンミャ地区12村のうち5村で行いました。その1つ、カンコーズ村では6名の地域健康推進員が誕生。現在は平均年齢51歳の4名が活動しています。いずれも小学校を卒業できなかったメンバーで、最初は授業の理解にもかなり苦労していました。

彼らが最初に取り組んだのは、正しい手洗い方法を村に広げることでした。日中は野良仕事で家にいないため、夜、夕飯後一軒,一軒近所を回り、手洗いの方法を伝えていきました。休日も時間を惜しまず、習ったことを人々に伝えてまわります。

冒頭に紹介した全124世帯へのトイレの普及も「自分たちの村をどうにかしたい」という彼らの思いが結実したものです。次の目標はゴミを村から無くすこと。自立しはじめた村人たちの挑戦は、まだまだ続きます。

Satoko Nachi

名知 仁子

名知仁子(なち・さとこ) 新潟県出身。1988年、獨協医科大学卒業。「国境なき医師団」でミャンマー・カレン族やロヒンギャ族に対する医療支援、外務省ODA団体「Japan Platform」ではイラク戦争で難民となったクルド人への難民緊急援助などを行う。2008年にMFCGの前身となる任意団体「ミャンマー クリニック菜園開設基金」を設立。15年ミャンマーに移住。

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