金融機関の化石燃料関連の投融資、再エネの19倍

国際環境NGO 350.org Japanは6月7日、日本の金融機関による化石燃料・原子力・再生可能エネルギー関連企業への投融資に関する調査結果を発表した。調査の結果、2016年から2021年の5年間で、再生可能エネルギー関連企業向けの融資・引受総額の19倍の資金を化石燃料関連企業に投じていたことが分かった。エネルギー基本計画で「主力電源化」とした再生可能エネルギーについては、原子力と同程度の資金規模にとどまっていた。(オルタナS編集長=池田 真隆)

同調査は日本の金融機関190行を対象に、金融情報データベースや企業の公開情報などをもとに調べた。調査の結果、日本の金融機関は巨額の資金を化石燃料企業に投じ続けている一方、再エネ関連企業への支援は伸び悩んでいることが分かった。

2016年から2021年6月の約5年間に、日本の主な金融機関による融資・引受総額は、化石燃料関連企業に2,856億ドル(32兆8,325億円)、原子力関連企業に146億ドル(1兆6,790億円)、再生可能エネルギー関連企業に147億ドル(1兆6,905億円)だった。

再エネ関連企業向けの融資・引受総額の19倍の資金を化石燃料関連企業に投じていたことが明らかになった。化石燃料関連企業の債券・株式の保有額は、再生可能エネルギー関連企業の債券・株式保有額の16倍だった。

債券・株式保有額が最も大きい日本の投資会社は、石油・ガスはオリックス、石炭は日本生命、原子力はみずほフィナンシャルグループ、再生可能エネルギーはオリックスだった。

日本の投資会社の各エネルギー関連企業の債券・株式保有額

横山隆美・350 Japan代表は、「気候変動が深刻化し、世界各地で異常な気候災害が頻発する中、日本の主だった金融機関が、パリ協定の成立以降も、再生可能エネルギーと比べて19倍もの金額を化石燃料に資金提供したという事実は極めてショッキングなものです。日本の金融機関は、気候科学に向き合い、これまでの延長線上にない、脱炭素社会に向けた抜本的な転換が求められます」と話した。

3メガバンクが化石燃料と原子力関連企業の最大の資金源

化石燃料と原子力関連企業の最大の資金源を調べると、みずほフィナンシャルグループ(みずほFG)、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)が上位を独占していることが分かった。

金融機関による石炭への融資・引受総額とその割合(単位:10億ドル)
金融機関による石油&ガスへの融資・引受総額とその割合(単位:10億ドル)
金融機関による原子力への融資・引受総額とその割合(単位:10億ドル)

350 Japanの渡辺瑛莉・シニア・キャンペーナーは、「パリ協定の成立後、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によって1.5℃特別報告書や第6次評価報告書、国際エネルギー機関(IEA)による1.5℃へのロードマップなどが発表され、石炭だけでなく石油やガスについても脱却が求められている中、その進展がほとんど見られないことは大きな懸念です」と話した。

ウクライナ危機は化石燃料に依存することの脆弱性を浮き彫りにした。今後顕在化することが予測される気候リスクを軽減し、エネルギー自給率の向上に寄与するためにも、「金融機関が果たせる役割は大きく、3メガバンクが掲げる排出実質ゼロに向けた具体策の進展が急務です」とした。

■化石燃料・原子力への投融資が確認されなかった金融機関も

190行の調査対象のうち、60の金融機関は、金融情報データベースや企業の公開情報をもとにした調査では、化石燃料・原子力関連企業への投融資を確認できなかった。

公開情報に基づく化石燃料・原子力への投融資が確認されなかった金融機関 *クリックすると拡大します

先に挙げた60の金融機関には350.orgがアンケートを送付し、化石燃料・原子力への投融資の有無を確認した。しかし、回答したのはわずか近畿労働機関、北陸労働機関など4行のみだった。

横山代表は、「今回のアンケート調査では、北陸労働金庫及び匿名希望の金融機関が『化石燃料及び原子力関連企業への投融資はこれまでもしなかったし今後する予定もない』と回答しています。これらの金融機関は、日本国内において最も気候変動や原子力リスクの問題の少ない金融機関だと言えるでしょう」と評価した。

さらに、「近畿労働金庫のように、気候変動を課題の一つと位置づけた上で、気候変動などの社会課題に取り組むNGO・NPOへの支援を継続している金融機関が日本にもあることは希望です」と話した。

アンケート調査を実施した60行のうちわずか4行からしか回答をもらえなかったことについては、「残念です」とした。

350 Japanの沼田茂・フィールド・オーガナイザーは「口座選び」から社会を変えていけることを訴えた。

「気候危機の影響や原子力リスクを懸念し、これらを支援するような消費行動や金融取引を避けようとする人々や企業は急速に増えています。そのような中で発表された今回の調査は、化石燃料及び原子力ビジネスが確認されなかった銀行も見られました。市民、企業、大学、自治体など、銀行に口座を持つあらゆる主体にとって、このリストは、銀行を選ぶ際の一つの参考になります。そしてそのような選択が広がることは、メガバンクを始めとする金融機関の大きな方向転換への後押しになるでしょう」

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナS編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナS編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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