EVでなくても脱炭素/第二世代バイオディーゼル

最近、バイオディーゼルに関するニュースをよく目にするようになってきた。例えば、マツダが鈴鹿で行われるスーパー耐久レースにバイオディーゼル仕様車を投入するとか、大型フェリーでバイオディーゼルを使うとか。あるいは、空港の荷物牽引車をバイオディーゼルで走らせるとか、レボインターナショナルという会社がバイオディーゼルの生産設備を増強するとか。中にはとんこつラーメンからバイオディーゼルを作るなんてのもある。では、バイオディーゼルとはいったい何なのか。説明しよう。(オルタナ客員論説委員・財部 明郎)

ディーゼルは液体で燃えるものなら、使える燃料の種類を問わない

バイオエタノールとどう違うのか

自動車に使われるバイオ燃料は大きく分けて2種類ある。ひとつはバイオエタノール。もうひとつがバイオディーゼルだ。バイオエタノールはガソリンエンジン(オットーエンジン)の燃料、バイオディーゼルはもちろんディーゼルエンジンの燃料として使われる。

ガソリンエンジンの場合、燃料はいったん蒸発させて空気と完全に混ぜてからシリンダーに送り込む。前もって空気とよく混ぜられているから完全燃焼しやすく、きれいに燃えてくれる。

ただ、当然ながら燃料は蒸発しやすい、つまり揮発しやすいことが条件となる。バイオエタノールにも揮発性があるので、ガソリンエンジンに使うわけだ。

一方、ディーゼルエンジンの場合は、燃料は蒸発させるのではなく、燃料噴射ノズルから高速で噴射させ、霧状にしてシリンダーに供給される。霧状になった燃料はシリンダー内で高温になった空気と接触し、接触したところから順次、燃焼していく。

だから、ディーゼルエンジンの場合、燃料に揮発性は必要なく、極端に言えば液体で燃える物なら何でも燃料にすることができる。つまり、ディーゼルエンジンは使える燃料の幅がかなり広いのだ。

■バイオディーゼルはどうやって作るのか

では石油以外で、液体で燃える物にはどんなものがあるだろうか。まず思いつくのが植物油。実際、ルドルフ・ディーゼルがディーゼルエンジンを発明したとき、彼が最初に使った燃料はピーナッツから作った植物油だったそうだ。

ただし、植物油には大きな問題がある。粘度が高すぎるのだ。つまり、ねばっこい。軽油のようにサラサラしていない。だからそのままディーゼルエンジンに使うと燃料噴射ノズルから噴射させても細かな霧状にはならない。だから、そのまま燃やすと不完全燃焼を起こして黒煙もうもうとなってしまう。

では、植物油の粘度を下げるにはどうすればいいか。ここは油脂化学者にご登場願おう。彼は事も無げにこう言うだろう。「植物油の粘度を下げたい?それならエステル化すればいいんですよ」と。

方法はこうだ。まず植物油にメタノールという天然ガスから作られたアルコールと、触媒の水酸化ナトリウムを入れて混ぜて、60℃に加熱する。すると植物油が脂肪酸メチルエステル(FAME)というサラサラした油と、どろどろしたグリセリンに分離してくる。

サラサラした方がバイオディーゼルだ。この方法はとても簡単なので、原料と鍋さえあればできてしまう。

■石けんを作る時と同じ工程

実はこれ、工業的に石鹸を作るときに使われる方法の一部だ。だから石鹸工場でバイオディーゼルを作ることができる。ヨーロッパでバイオディーゼルが大量に作られ始めたのは、製造方法が石鹸工業として、すでに確立していたからだろう。

ただし、このバイオディーゼルにはいくつかの問題がある。まず、酸化しやすい。要はてんぷら油だから少しずつ劣化してくる。貯蔵中に沈殿ができたりする。

作るときにグリセリンができるのも問題だ。きちんと精製すれば化粧品にも使えるが、普通は廃棄物になってしまう。グリセリンの分離が悪いとエンジンのフィルターを詰まらせたりする。

原料に使われるメタノールは天然ガスという化石燃料から作られるから、完全にカーボンニュートラルではない。酸素原子が含まれているので、燃費も悪くなる。

だから、バイオディーゼルを自家用車に使おうとするには、ちょっと勇気がいる。精製度の悪い物や古い物を使うとエンジンが壊れてしまうからだ。市販の軽油にバイオディーゼルを混ぜて売ってもいいけど、混ぜる量は5%以下にしなさいと法律で決められているのもこのためだ。

■「第二世代バイオディーゼル」とは何か

ではどうするか。ここは石油化学者にご登場願おう。彼は事も無げにこう言うだろう。「植物油の粘度を下げたい?簡単ですよ。水素化分解すればいいんです」と。

水素化分解と言うのは例えば重油のような粘度の高い大きな分子をもつ油を、いくつかの小さな分子にばらばらに分解して、灯油や軽油やジェット燃料を作る方法である。

このとき水素を使うので水素化分解という。この方法はすでに確立した技術で、多くの製油所で実際に使われている。

この方法を植物油に使えば、軽油やジェット燃料ができてくるはず。というのは石油技術者ならだれでも考えつく。そして、それを実際にやったのがフィンランドの「ネステオイル」という石油会社である。

この方法を使えば、従来のバイオディーゼルの欠点はすべてなくなり、それどころか石油から作られたディーゼル燃料さえ上回る優れた品質を持つことになる。

このような方法で作られたバイオディーゼルは「水素化バイオディーゼル」(HVO)あるいは「第二世代バイオディーゼル」と呼ばれる。一方、従来の方法で作られたバイオディーゼル(FAME)は第一世代だ。

第二世代バイオディーゼルを自動車燃料として使うときには第一世代のような問題は起こらない。100%濃度でも安心して使える。いや100%濃度ならむしろ性能が良すぎてもったいないくらいなのだ。

ただひとつの欠点は、これを製造するには400℃程度の高温と5MPa(メガパスカル)程度の高圧が必要となることだ。このため第一世代のバイオディーゼルのように、鍋や釜を使って裏庭で作るというわけにはいかない。石油精製装置並みの巨大なプラントが必要となる。

■「第二世代」は欧州、米国、ブラジルなどで生産増加中

このような製造装置の建設には100億円単位の費用が掛かる。上述のネステオイル社はこの装置をフィンランドに2基、シンガポールとオランダに1基ずつ持っていて、HVOは今やネステオイル社の稼ぎ頭となっている。

世界的には特に欧州、米国、ブラジル、インドネシアなどでバイオディーゼルが大量に製造され、その量も増えつつある。

これらの国々で共通しているのは、いずれも農業国ということ。自国で採れるパーム油やナタネ油などの植物油を使って作られている。

では日本ではどうなのか。先に挙げたレボインターナショナル社の新工場や空港で牽引車を走らせる燃料は第一世代。原料は一度料理に使った後に出てくる廃食用油を原料としている。ただし、廃食用油は量が限られるのが問題だ。つまり製造量が増やせない。

マツダのスーパー耐久レースやフェリーで使われるバイオディーゼルはユーグレナ社が提供する第二世代である。こちらの原料はミドリムシという微生物を国内で繁殖させて採取される油脂だ。ただし、ユーグレナ社は廃食用油も併用していると言っているので、ミドリムシ油は原料として何か問題があるのかもしれない。

以前紹介したMOIL社のバイオディーゼルも第二世代だ。原料は国内で栽培されるカメリナというナタネの一種から採油した植物油であるが、こちらはこれから試験製造プラントの建設が始まるところである。

■電気ではなくてもカーボンニュートラルにできる

日本は2050年を目標にCO2排出量を実質的にゼロとするカーボンニュートラル社会に進んでいる。自動車についてはガソリン車や軽油車を電気自動車に置き換えようという動きが盛んだが、ちょっと待ってもらいたい。

電気じゃなくてもバイオエタノールやバイオディーゼルでもカーボンニュートラルは達成できるのだ。

話は飛ぶがジェット機は電気で飛ばそうとしても、これは無理だ。バッテリーが重た過ぎるからだ。だからバイオでジェット燃料を作ろう(SAF)と開発が世界的に進められていて、一部ではすでに定期便にも使用されている。JALやANAでも試験飛行を行っている段階だ。

ちょっと驚かれるかもしれないが、実はバイオジェット燃料と第二世代バイオディーゼルはほぼ同じものなのだ。

だから、将来はバイオジェットと第二世代バイオディーゼルが同じプラントで作られるようになり、一般にも普及していくかもしれない。そうすれば今のトラックやバスなどのディーゼル車やガソリンスタンドがそのまま使えるわけだ。これも第二世代バイオディーゼルのメリットだろう。

takarabeakira

財部 明郎(オルタナ客員論説委員/技術士)

オルタナ客員論説委員。ブロガー(「世界は化学であふれている」公開中)。1953年福岡県生れ。78年九州大学大学院工学研究科応用化学専攻修了。同年三菱石油(現ENEOS)入社。以降、本社、製油所、研究所、グループ内技術調査会社等を経て2019年退職。技術士(化学部門)、中小企業診断士。ブログでは、エネルギー、自動車、プラスチック、食品などを対象に、化学や技術の目から見たコラムを執筆中、石油産業誌に『明日のエコより今日のエコ』連載中

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キーワード: #脱炭素

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