肥満を助長「2本目無料」キャンペーン、英国で禁止

2022年6月8日早朝、ツイッターを見ていたら「#1本買うと2本目無料」のタグが目に入った。グローバルの飲料企業が7月3日まで大々的なプロモーションをやっているらしい。その数日前には最大手コンビニの店頭で、ペットボトル飲料の「1本買えば1本無料」キャンペーンのポスターが貼られているのを目にしたばかりだった。(オルタナ客員論説委員・井出留美)

英企業は肥満・食品ロス防止の観点から「食の3R」を進める(写真:小林富雄)

■肥満でコロナ死亡率90%上昇も

英国では、2022年4月から、脂質や糖分が多く含まれる食品の「1つ買うともう1つは無料」、いわゆる「BOGOF(バイ・ワン・ゲット・ワン・フリー)」キャンペーンが禁止されている。肥満者が増加しているためだ。

英国では成人の63%が肥満で、コロナ禍がこの傾向に拍車をかけている。英公衆衛生庁は、重度の肥満はコロナよる死亡率を最大90に%引き上げると警鐘を鳴らす。

英国の大手スーパー「テスコ」は食品ロスという観点から、いわゆるバンドルパック(2個まとめて販売する)をやめた。同スーパーが調査を行った結果、パック入りサラダの60%以上が食品ロスになっていることがわかった。

海外出張を頻繁にしている知人に聞いたところ、英国のスーパーでは「買い過ぎていませんか」という趣旨を消費者に問いかけるポスターが貼られているという。

筆者も2017年、大学教授らと英仏を視察したところ、ロンドンのホールフーズ・マーケットには、食品ロス削減と環境配慮の「3R」を訴えるポスターが貼ってあった。

小売企業にとって、売上だけを考えれば、多く売れれば売れたほうがよい。でも、エシカルな(倫理的な)経営を考えると消費者が求めているのは、使いきれる分量だけ適量買える仕組みではないか。

ロンドンのホール・フーズ・マーケットで(写真:小林富雄)

■市民の声が大手スーパー動かす

英国の視察では、食品ロス削減に取り組む社会活動家、トリストラム・スチュアート氏に話を聞いた。トリストラム氏は、テスコが仕入れる野菜を育てる農家の畑で、納品できない野菜が大量に廃棄される現場を取材した。当時、テスコは廃棄の現状を明らかにしていなかったという。

改善を求める活動をおこなった結果、テスコは環境報告書で食品ロスに関する情報を開示するようになった。彼は「英国では市民からの突き上げが大企業を動かす。日本はお上の言うことを聞く姿勢が強いのでは」と語っていた。

筆者が訪問したテスコの店舗では、レジを出たところで、消費者から余剰食品を集めて必要な人に届けるためのフードドライブのボックスを置いていた。

テスコのフードドライブ(写真:筆者)

翻って、日本を見ると、大手メーカーも大手コンビニも、ペットボトル飲料を「1本買えば1本無料」と大量消費を促している。しかも、驚くのは、海外の動向も把握できるはずのグローバル企業が率先してキャンペーンを打っていることだ。

これから夏に向けて、ペットボトル飲料は書き入れ時となる。売上を上げるためにこのようなキャンペーンをやっているのだろう。だが、SDGsの観点からすれば、経済を循環させられるのは、社会や生物圏(自然環境)あってこそのことだ。自社の売上(経済)だけを考えていればいいわけではない。

筆者もかつて食品メーカーに勤めていたので、売上を重視するのは理解できる。だが、SDGsのゴール12番は「つくる責任 つかう責任」だ。製造者にも消費者にも、適量作って適量消費する責任がある。さらにいえば、企業には廃棄物の排出者責任もある。

「#1本買えば2本目無料」のタグをつけてtwitter広告を打っている企業は、グローバル企業としてどういう姿勢であるべきかを今一度考えていただきたいと願っている。

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井出 留美(オルタナ客員論説委員)

ジャーナリスト。奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11で廃棄に衝撃を受け誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力。近著『捨てないパン屋の挑戦』『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てられる食べものたち』『食品ロスをなくしたら1か月5,000円の得!』、監修書『食品ロスの大研究』他。食品ロスを全国的に注目されるレベルに引き上げたとして第二回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/令和二年度 食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。「メディアが報じない世界の食品ロス情報 SDGss世界最新レポート」連載中。

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キーワード: #フードロス

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