鶏卵汚職事件、養鶏業界と農水省の「異常な関係」

【連載】アニマルウェルフェアのリスクとチャンス(17)

吉川貴盛元農水相は鶏卵大手のアキタフーズ元代表から賄賂を受け取ったとして、収賄罪に問われ有罪判決を受けた。アキタフーズは「日本養鶏協会」など業界団体を統括していた。元代表は吉川元農水相に2018年11月から2019年8月に500万円の賄賂を渡し、家畜飼育環境の向上を図る国際基準「アニマルウェルフェア」の基準案を下げるよう依頼した。吉川農水相、元代表は両名とも有罪が確定したが、認定NPO法人アニマルライツセンターの岡田千尋代表は、「これで終わってはいけない」と強調し、養鶏業界と農林水産省の「異常な関係」を正す必要があると指摘する。寄稿してもらった。

2名の有罪で「終わらせてはいけない」

事件はこれで終わりだろうか。この事件が明らかになる前の2018年頃から養鶏業界と農林水産省の「異常な関係」を目の当たりにしてきた私たちには、これで終わっていいものとはとても思えない。

鶏卵業界は社会の持続可能性にとって重要だ。SDGsが定めるターゲットの達成にも欠かせないアニマルウェルフェアをひたすら下げるよう要望し、農林水産省はまるで当たり前かのようにアニマルウェルフェアを下げるための画策をし続けた。たまたま吉川元農林水産大臣はこの時期に大臣だったに過ぎない。

第三者委員会が出した「養鶏・鶏卵行政に関する検証委員会報告書」で明らかにされたように、この事件の根っこには、農林水産省の「アニマルウェルフェアを向上させない」という強固な意志がある。養鶏業界の言い分しか聞かない体質、そして透明性のなさなのだと私たちは考えている。

そう考えざるを得ないことをたびたび目にしてきた。今年の1月から、この報告書を受けて設置されたアニマルウェルフェアに関する意見交換会が「非公開」で開催されるようになった。

消費者団体はこのことに抗議したが、農林水産省が態度を変えることはなかった。市民団体は透明性のない行政や企業を信頼できないものとして考えるわけだが、農林水産省の今回の不透明で乱暴な進行が目にあまり、消費者団体からは見放されつつある。

せっかく参加してくれる各業界を代表した方々も疑わしく見られてしまうのも残念だが、そういう状況を作っているのも農林水産省だ。

行政を頼らずに自分の頭で考える

農林水産省の不透明で不信感を増長する現在の態度は、結局は養鶏業に跳ね返っていく。そして特に国産の割合が高い鶏卵が世界の水準からどんどん引き離されていけば、その卵を調達する企業の対応も遅れていく。

企業は将来の否定的な結果を回避するために合理的な注意を払うべきだが、それをさせない体制が国によって作られているようなものだ。

5年前、アニマルウェルフェアについて企業と対話すると、一定の割合で「国が動けばいい」と言う企業があった。しかし、今、そのような話をする企業はごくごく僅かだ。国に追従するだけでは不十分だということは、多くの企業が気付きだした。

企業だけではなく、日本で生活するすべての人も同じだ。アニマルウェルフェアが低ければ、薬剤耐性菌の被害は拡大する。実際に日本の鶏肉は他国よりも高い割合で薬剤耐性菌が検出されるようになってしまっているのだ。過密な飼育があれば、新たな人獣共通感染症の発生にもつながる。

近い未来、私たちは動物たちへの配慮を怠ったことを後悔する時が来るだろう。それは自分たちの次の世代、その次の世代が苦しむ姿を見てはじめて気がつくのかもしれない。企業や市民は、自分の頭で考えなくてはならない。

chihirookada

岡田 千尋(NPO法人アニマルライツセンター代表理事/オルタナ客員論説委員)

NPO法人アニマルライツセンター代表理事・日本エシカル推進協議会理事。2001年からアニマルライツセンターで調査、戦略立案などを担い、2003年から代表理事を務める。主に畜産動物のアニマルウェルフェア向上や動物性の食品や動物性の衣類素材の削減、ヴィーガンやエシカル消費の普及に取り組んでいる。【連載】アニマルウェルフェアのリスクとチャンス

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