■小林光のエコめがね(19)
記憶では、都留重人先生の言葉だが、かつて先生は、「日本の経済成長の仕方を批判して、庭をつぶして台所を作る愚」と評した。台所が作り出す食べ物よりも、庭からは、もっと多様な、価値あるものが生まれる、という喩で、栄養、すなわち金銭にのみスティックする社会を批判したのであろう。
台所と庭を秤に掛ける発想は、建て詰まった住宅地ばかりになった今日では、なかなか想像が難しいし、私個人としても、料理の創作は文化であるし、食事の団欒はとても意義が高いので、台所を見下さなくても、と思う。
がしかし、台所は人間にのみ奉仕するものである。他方、庭は、人間だけでなく多くの生物に貢献し、自然界での健全な物質循環を少しでも維持していく方向で役割を果たす貴重な存在である。無用に見えるが用がある、と言える。喩でなく、物理的な庭を大事にしよう。
東京・世田谷区では、「小さな森」という制度を持っていて、個人所有の庭などで自然に配慮する形で維持管理している所を認定し、そのような民地の自然の維持を横展開していくべく、庭の一般公開などでの啓発を図っている。
私の世田谷本宅に隣接する土地にある拙経営のエコ賃貸「羽根木テラスBIO」の前庭は、100平方メートルの狭い空間だが、多摩丘陵辺りの里地を模範とした植生にしてあって、そのゆえをもって、小さな森にかねてより登録されている。この庭の一般公開が、区のトラスト協会のお手伝いで、去る5月19日に行われた。
この庭について私自身が分かる自然度の指標として蝶の種類数を挙げると、なんと30種ほどがここで見られるようになった。庭公開の当日も、ジャコウアゲハの卵やルリタテハの幼虫などを区民の皆さまに見せることができた。
30種と言うと、関東地方に生息する100種と言われる蝶の3割で、なかなかのプレゼンスである。他の生物は分からないし、ヒートアイランドの抑止効果や雨水浸透の効果などは計測していないが、推して知るべしであろう。
小さな庭でも健全な生態系の維持に貢献できるので、昨年末概成の、八ヶ岳山麓の金山デッキの庭(270平方メートル)でも一肌脱ぐことにした。
周りは農業振興地域。緑はふんだんにあっても実は見かけだけの単調な植生なので、農地でつぶされてしまい、大いに減った草原環境をここで再生しようと考えた。
高原の多様性に富んだ植生を範とした計画図は、掲載のとおりであるが、実際は、雪が溶けてから植えこんだため、まだポツンポツンと緑が見える段階で、草原にはとても遠い(写真)。
早く、訪れる蝶の種類を数えられるほどの草原になり、人のための畑と草原との違いを実証的に示せるとよいのだが、と、今日も水撒きに精を出した。