インパクト指標を活用したパーパス起点の対話とは

【連載】サステナビリティ経営戦略(26)

6月14日、経団連が「『インバクト指標』を活用し、 パーパス起点の対話を促進する」と題する報告書を公表しました。 本報告書では、企業と投資家の対話の実質化に向けて、ビジネスモデルや経営戦略の実効性の可視化に焦点を当てた「インパクト指標」の活用を提案しています。(サステナビリティ経営研究家=遠藤 直見)

パーパス起点の対話とは

経団連は、Society 5.0の実現を通じたサステナブルな資本主義の実践を目指しています。その鍵を握る主体は、長期的な展望を持ち、持続的な成長に取り組む企業と投資家です。

これまで政府は、コーポレートガバナンス・コード及びスチュワードシップ・コードを両輪とする企業と投資家との建設的な対話の実質化に取り組んできました。

5月16日、金融庁の第27回「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」が開催され、昨年のコーポレートガバナンス・コード再改訂後の中間点検が行われました。

「中長期的な視点で投資家と対話を行うことで、経営に対する有益な示唆を得られた」との意見も多く出され、対話の実質化については一定の成果が見られますが、経団連の報告書が指摘しているとおり、依然として両者が対話に求めるものにはギャップが存在しています。

この点について、経団連の報告書は以下のような分析・提言を行っています。

・企業も投資家も、中長期の企業価値向上に向けて、パーパスを起点とする長期ビジョンの実現に資するビジネスモデルや経営戦略についての対話(パーパス起点の対話)を求めている。
・とりわけ投資家は、企業の取り組みの実効性や進捗状況、社会にもたらすインパクトについて具体的なKPIで示すことを期待しているが、従来のKPI(財務指標、ESG指標等)では不十分である。
・パーパス起点の対話に資する新たな指標としてインパクト指標を提案する。

■ インパクト指標を活用し、価値創造ストーリーを分かり易く展開する

インパクト指標とは「事業や活動の結果として生じた社会的・環境的な変化や効果(社会インパクト)を示す指標」であり、企業による革新的な事業やイノベーションが創出する社会への具体的な貢献度を可視化するものです。

横断指標(16項目)雇用創出数、エネルギー効率
レジリエンス・インパクト指標(34項目)調達先・国の分散化率、災害の人的被害数など
ヘルスケア・インパクト指標(34項目)疾病による死傷者数、地方/離島/僻地への提供数など
経団連インパクト指標(例)

パーパス起点の対話では、企業がビジネスモデル及び経営戦略の変革(新たな市場機会の獲得、イノベーション創出など)の進捗状況や成果を、インパクト指標に基づき設定した目標・実績を踏まえながら、価値創造ストーリーとしてロジカルに分かり易く展開することが重要です。

例えば、「世の中のウエルビーイングに貢献する」というパーパスを持った企業が、長期ビジョンにおける目標として(財務目標に加えて)「疾病による死傷者数」というインパクト指標を活用した目標を設定したとします。

当該企業が、ビジネスモデルや経営戦略の変革をとおして新たな遠隔医療サービスを開発・提供し、「疾病による死傷者数」の削減を実現した場合、その成果は「死傷者数」全体の低下に繋がり、「健康寿命の延伸」や「医療費の削減」などより大きな社会インパクトにも間接的に影響を与えることが期待されます。

このように、企業がインパクト指標を活用した価値創造ストーリーを展開することで、パーパスに紐づいたビジネスモデルや経営戦略変革の実効性(社会インパクト等)について投資家を始めとする幅広いステークホルダーに分かり易く伝えることが可能となります。

実際の価値創造ストーリーでは、もっと複雑なロジック展開が予想されますが、国連開発計画 (UNDP)によるSDGインパクトやGlobal Impact Investing Network(GIIN)などの先行事例も参考にしながら、繰り返しチャレンジすることで、幅広い知見が獲得され、対話の質の向上が図られていくものと思います。

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

東北大学理学部数学科卒。NECでソフトウェア開発、品質企画・推進部門を経て、CSR/サステナビリティ推進業務全般を担当。国際社会経済研究所(NECのシンクタンク系グループ企業)の主幹研究員としてサステナビリティ経営の調査・研究に従事。現在はフリーランスのサステナビリティ経営研究家として「日本企業の持続可能な経営のあるべき姿」についての調査・研究に従事。オルタナ編集委員

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