まだ全貌が定まっていない2つの「サステナビリティ開示基準案」が、世界のIR/サステナビリティ担当者の注目を集めています。これらはサステナビリティ情報に求める質を財務情報と同等に近いレベルまで引き上げ、その対象をバリューチェーンまで広げるなど、革命的な内容になりそうです。(中畑陽一)

非財務(サステナビリティ)情報開示への取り組みが、さらに重要に

1つ目は、EUの「企業サステナビリティ報告指令」(CSRD)で、企業活動が人々や環境に与える影響も含めた報告基準です。2つ目は IFRS財団の「サステナビリティ開示基準」で、持続可能性要因が企業価値に与える報告基準です。遠からず法制化されるであろう、この2つの基準動向についてまとめました。

■CSRDの対象は5万社、日本企業に影響する可能性も

欧州委員会は2021年4月、既存の非財務情報開示指令(NFRD)を厳格化し、適用対象を大幅に広げる、「企業サステナビリティ報告指令」を採択しました。「指令」とは条約(一次法)に次ぐ存在の「二次法」で、法的拘束力を持ちます。

具体的な報告基準については、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)が作成を進め、2022年4月末に欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)として公開草案を提出しました。22年8月8日までのパブリックコンサルテーションを経て、11月に欧州委員会に第一案を提出することを目指しています。

CSRDの対象企業はNFRDの約12000社弱から、従業員250名以上などの条件を満たす約5万社に広がり、多くの日本企業の現地子会社にも影響が及ぶ可能性があります。

当基準案は、グローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)との連携を積極的に図っているほか、2月に同じく欧州委員会に提出された企業持続可能性デューディリジェンス指令(CSDDD)とも関連するデューディリジェンスの実施を具体的に求めています。

また、ISSB、TCFD、TNFDとの連携も考慮しており、世界的なサステナビリティ報告開示基準の収束の動きと軌を一にしています。ただしCSRDはあくまでGRIやTNFD同じく「ダブルマテリアリティ」ベースであり、企業が人々・環境に与える影響と、人々・環境が企業価値に与える影響の両方の観点が必要となります。

■欧州グリーンディールの効果的な浸透を目指す

CSRDはEUタクソノミーに基づく報告と、サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)によって投資報告を実施する投資家の投資対象としての企業にも同様の報告規制を課すことにより、欧州グリーンディールが効果的に進められることを目指しています。このため、SFDRの主要な負の影響指標(PAI KPI)との整合性も図られており、付属書1ではその関連がまとめられています。

22年4月末に発表されたESRS公開草案では、「分野横断基準」と、「トピック基準」があります。

企業は[分野横断基準]によって一般的要求事項、戦略及びビジネスモデル、ガバナンスについての要求事項の開示に加え、ダブルマテリアリティによって、重要なリスクと機会を特定し、「トピック基準」によってトピック別の方針、目標、行動及び行動計画、資源、そして指標についての開示要求に回答する形です。

環境・社会・ガバナンスの各トピック(EUタクソノミーの区分に近い)については、全11項目のサブトピックについての詳細な開示を求めています。セクター別基準については中小企業向け基準と合わせて、第二段階として今後協議していくそうです。尚、上記基準に当てはまらない場合、事業者固有の情報についても開示が必要です。

当該基準について、企業への最も大きな影響が考えられるのは、第三者保証(当初は合理的保証より簡便な限定的な保証)を課している点です。また、報告はデジタル形式でタグ付けを行うことを求めています。

ただし、CSRD自体がまだ法制化議論の途中(6月21日に欧州理事会と欧州議会が暫定政治的合意に達し、6月30日に修正案を公表)であるほか、6月20日にGRIが発表したESRS案へのフィードバックでは、ESRS案が厳しすぎ現実的ではない事、デューディリジェンスの範囲を狭めている事などが指摘され、よりGRIに整合した開示案にする事などを提案しているなど、今後の動向を注視する必要があります。

世界が注目する2つのサステナ開示基準案(2)「IFRS」に続く