「政策起業」と「ロビイング」は何が違うのか(5)

【連載】政策起業家とは何者か(14)

「政策起業とロビイングの違い」について複数回書いてきましたが、本記事が最後です。「旧ロビー活動」は「あまりに私益だけ」を求めすぎたがあまりに、1980年〜90年ごろに批判にされてきたことから「新ロビー活動」が生まれてきました。しかしあくまでもロビー活動は「私益」が出発点であり、政策起業は「公益」が出発点であることが大きな違いであると整理をしました。(三井 俊介・NPO法人SET理事長)

その上で「公益」を「社会共通資本」をベースに整理し、政策起業の領域はある程度限定されている可能性があることも見えてきました。

近年では「パブリックアフェアーズ」という概念も登場しています。これは、「自社に好都合なルールを獲得すべく公正、透明な方法で交渉し、合意を形成すること」と定義されています。従来のロビー活動に加えて、世論形成やメディアへのアピールなどを重点的に行うものです。

しかしこちらも「自社に好都合なルールの獲得」を「公正な手段で行う」ということになるので、「私益から出発」していると捉えられます。ただし、社会的企業なども増えていることから「自社に好都合」という捉え方次第では「公益となる」可能性もあると思います。

さらにより広い概念として「アドボカシー」が存在します。初期のアドボカシーの定義は、「ある集合的利害を代表して、制度的エリートの決定に影響を与えるために行われる何らかの試み」とされています。

近年では、「公共政策や世論、人々の意識や行動などに一定の影響を与えるために政府や社会に対して行われる団体の働きかけ」と定義されています。手法として「裁判闘争」や「他団体との連合形成」が加えられています。

これらの政治的な働きかけと合わせて、当該政策で解決したい社会課題に関連する事業活動、社会活動を行うことで「政策起業」が行われると考えています。こちらの事業活動や社会活動についてはもう少し詳細に検討していく必要があると思います。

これらのことは以下の図1のように整理されます。

図1

ロビイングなどとの違いを明確にできたかどうかはまだわかりませんが、

・ロビイングも「公益」からスタートしているロビイストもいるが、学術的な定義としては「私益」からスタートするのがロビイングである。

・政治的な働きかけだけではなく、当該事業に関連する何らかの活動と組み合わせる必要があるのが政策起業である。

・ロビイングはロビー活動を行えばロビイストと呼ばれる(行動)が、政策起業は、政策起業がなされて初めて政策起業家と呼ばれる(結果)。

――などがポイントではないかと考えています。

mitsuishunsuke

三井 俊介(NPO法人SET理事長)

特定非営利活動法人SET 理事長・NPO法人高田暮舎理事・地域政党とうほく未来創生 副代表 1988年、茨城県つくば市生まれ。NPO法人SET (2019年内閣総理大臣賞受賞)理事長。新公益連盟北海道・東北ブロック共同代表。元岩手県陸前高田市議。大学院に通いながら大学教鞭もとり、政策起業家研究のアウトプットをおこなう。 2022年3月に「政策起業家が社会を変える」出版。note /執筆記事一覧

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