一般社団法人日本自動車連盟（JAF）は東日本大震災を機に生まれた災害時に寄付車で生活再建を支援する取り組みを始めた。地震や豪雨などで車が被災した場合、移動手段が制限され日常生活に戻る事が困難になる。JAFは地域の課題解決を起点に、新規顧客の開拓を狙う。（オルタナS編集長＝池田 真隆）
■「被災者は車なしで移動できるのか」
「きっかけは、東日本大震災の写真展を開いたことでした。車が被災して廃車を余儀なくされた被災者はどう生活したのか。写真を通して、そんな疑問が浮かびました」。こう話すのはJAF山梨支部推進課事業係の立川佑菜さんだ。立川さんは今年で入社8年目、東日本大震災が起きたときはまだJAFに入社していなかった若手社員だ。
JAFでは災害時の支援活動として、現場に「ロードサービス特別支援隊」が駆けつける。主な役割は道路をふさいでいる被災車両の排除と被災具合の点検だ。東日本大震災の時も現場に支援隊が駆けつけた。
立川さんはこれらの作業を行う責任と重要性を理解していたが、「マイナスの状態をゼロに戻す取り組みでした」。ゼロに戻してから生活再建などプラスにつなげる支援をできないか、考えるようになったと言う。
特に地方で災害が起きた場合、車がないと病院や役場、スーパーマーケットなどへの移動は困難だ。公益的な車の移動支援は何かないのか探し出した。
同僚の新井理那さん（埼玉支部事業課会員事業係)と大澤美鈴さん（埼玉支部事業課会員事業係)にも声を掛け、問題意識を共有した。そうして、見つけたのが、日本カーシェアリング協会だ。
■「モビリティ・レジリエンス」高める民間支援団体に共感
同協会は東日本大震災の直後に宮城県石巻市で立ち上がった民間の支援団体だ。災害時に寄付車を無償で貸し出すなどの取り組みを行っている。同協会が考えた造語「モビリティ・レジリエンス」を高めることを目指す。モビリティ・レジリエンスは、「車が被災して困った状態を回復させる力」という意味だ。
協会の理念に共感したが、この協会は民間であるが故に、運営維持費は寄付などに頼っていた。同協会は現在、寄付で集めた車両241台を保有する。整備点検や自動車保険、ガソリン代などを合計した維持費は約1900万円（2021年度）にも上る。
そこで、立川さんたちはこの協会の普及啓発と資金支援をJAFとして行うビジネスアイデアを考えた。JAFでは人口減少が進む中で、会費だけに頼らない新しい事業モデルを追求すべく社内でアイデアコンテストを開いていた。
このコンテストで受賞しても昇級や昇格にはつながらないという。そのためやる気のある有志からアイデアが集まる。立川さんたちもそうだ。チームメンバー3人とも東北には縁もゆかりもない。それでも、問題意識を持ち、実際に東北に足を運びどのような支援ができるのか考えた。
コンテストは、ビジネス部門とクラウドファンディング部門に分かれており、立川さんたちはクラウドファンディング部門に応募することを決めた。
■2000万人の会員に支援呼びかけ
考えたアイデアはこうだ。協会の困りごとは大きく分けて３つあった。活動経費、寄付車両の拡大、ボランティアドライバーの確保——だ。JAFが持つ2000万人の会員ネットワークに呼びかければ、支援が集まるのではないかと考えた。
ユニークなのは経費を集める際に、クラウドファンディングを使うことを考えたことだ。立川さんはその理由について、「モビリティ・レジリエンスの取り組みを知ってもらい、一人ひとりに自分事化してほしかったから、クラウドファンディングを使うことに決めました」と話す。
2021年のコンテストのクラウドファンディング部門には12件のエントリーがあり、見事立川さんたちのアイデアが最優秀賞に輝いた。審査員を務める役員から、ストーリー性と着眼点、創造性を評価された。
7月13日からクラウドファンディングサイト「レディーフォー」でプロジェクトを立ち上げた。9月8日までに300万円を目標に募る。集めた資金は協会に送る。
プロジェクトが終了しても、引き続きモビリティ・レジリエンスの普及啓発を続け、連携を模索していくという。災害大国日本で、有事の際の車の移動支援は復興のスピードを大きく左右する。JAFは地域課題の解決を軸に新しいファンの開拓に挑む。
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