経産省が「人権DD指針案」、パプコメ29日まで

経産省はこのほど「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン(案)」を公表し、8日にパブリックコメントの募集を開始した。8月29日まで受け付け、9月にも指針が策定される予定だ。ガイドラインでは企業に何を求めているのか。(オルタナ副編集長=吉田広子)

※「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン(案)」に対する意見募集はこちら

2011年6月に国連「ビジネスと人権に関する指導原則」が採択され、人権デューディリジェンス(人権DD)の実施が企業にも求められるようになった。人権デューディリジェンスとは、サプライチェーンを含めた事業活動の人権侵害リスクを特定・評価し、予防や対策を講じることだ。

日本政府は2020年10月、「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020-2025)」を策定。行動計画のフォローアップとして行ったアンケート調査の結果、日本企業からガイドラインを求める声が多かったことから、ガイドライン作成に至った。

8月6日に公表されたガイドライン(案)によると、「国際スタンダードを踏まえ、日本で事業活動を行う企業の実態に即して、具体的かつ分かりやすく解説し、企業の理解の深化を助け、その取り組みを促進することを目的に」策定された。

同ガイドラインに法的拘束力はないが、「企業の規模、業種などにかかわらず、日本で事業活動を行うすべての企業は、国際スタンダードに基づく本ガイドラインに則り、自社・グループ会社、サプライヤー(国内倍のサプライチェーン上の企業およびその他のビジネス上の関係先)などにおける人権尊重の取り組みに最大限努めるべき」とする。当然、二次取引先以降も対象となる。

では、ガイドラインは具体的に何を求めているのか。

主に「人権方針の策定」「人権DDの実施」「救済」の3つに分けられ、それぞれステークホルダーと対話しながら進めることを求める。

「人権方針の作成」に関しては、経営陣のコミットメントが重要だとし、人権尊重責任を果たすというコミットメント(約束)を社内外に周知する必要性を説く。

「人権DDの実施」に関しては、次の段階がある。

(1) 負の影響の特定・評価
リスクが重大な事業領域の特定⇒負の影響の発生過程の特定⇒負の影響と企業のかかわりの評価⇒優先順位付け
(2)負の影響の防止・軽減
(3)取り組みの実効性の評価
(4)説明・情報開示

「救済」に関しては、自社が人権への負の影響を引き起こし、助長していることを認識した場合、救済を実施することが必要だ。

具体例としては、謝罪、原状回復、金銭的または非金銭的な補償のほか、再発防止プロセスの構築・表明、サプライヤーなどに対する再発防止の要請などが挙げられる。

救済策として、「苦情処理メカニズム」の確立も求めた。苦情処理メカニズムとは、企業とそのステークホルダーにかかわる苦情や紛争に取り組む一連の仕組みだ。自ら確立するか、業界団体などが設置する苦情処理メカニズムに参加することを通じて、人権尊重責任の重要な要素である救済を可能にすべきとしている。

経済産業省ビジネス・人権政策調整室の担当者は、「今回のガイドラインは、国際スタンダードに沿って人権DDのプロセスを分かりやすく解説することを心掛けた。まずは企業に知ってもらえるように普及啓発に努めていきたい」と話す。

企業の事業活動に伴う人権侵害が問題視されるなか、2015年に施行した「英国現代奴隷法」をはじめ、フランス人権デューディリジェンス法(2017年制定)、米ウイグル強制労働阻止法案(2022年)など、各国で法整備が進んでいる。

日本では、まだ法整備に向けた具体的な議論は進んでいないものの、萩生田光一経済産業大臣は2月15日の記者会見で「将来的な法律の策定可能性も含めて検討する」と発言。今後、ソフトローからハードローに移行する可能性も低くはないだろう。

yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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キーワード: #ビジネスと人権

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