「ブレーキ」が2つでも、原発を危険と断言する理由

記事のポイント
①カーボンニュートラルの実現に向けて、国は原発の活用を議論する方針だ
②原発には事故を防ぐため、制御棒と冷却水という2つの「ブレーキ」がある
③「ブレーキ」も根本的な解決策にならず、原発に依存しない社会を目指すべき

地球温暖化対策として、CO2を排出しない原子力発電(以下「原発」)を再稼働させようという動きがある。原発には事故を防ぐため2つの「ブレーキ」があり、安全性を確保すれば再稼働は問題ないという意見も聞く。しかしそもそも、原発には他のシステムにはない危険性がある。(オルタナ客員論説委員・財部明郎)

いくら安全対策を打っても、原発には根本的に解決できない問題が

■アクセルがなく「ブレーキ」しかない特殊なシステム

一般的に、機械には動きを加速させるアクセルと、動き抑えるブレーキがある。しかし原発にはアクセルがなく、ブレーキが2つある特殊な仕組みになっている。しかもその両方を踏み続けなければならず、どちらかを緩めれば暴走して事故に直結する。

原発は「ウラン235」という物質を使う。これを3~5%まで濃縮して、ジルコニウム合金製の筒に入れたのが「燃料棒」で、燃料棒を束ねて圧力容器に入れたのが「原子炉」だ。原子炉の中でウラン235が核分裂を起こし、その時に発生する熱で高圧水蒸気を発生させ、タービンを回して発電する。

核分裂は、ウラン235に核燃料に含まれる中性子がぶつかって起きる。ウラン235が1回分裂すると、2個〜3個の中性子が出る。これが別のウラン235に当たるとまた核分裂を起こし、連鎖反応によって次々に新たな核分裂を誘発する。

核分裂が起きる仕組み

■メルトダウンを防ぐ2つのブレーキ

核分裂の数が増えると高熱になり、放っておくと燃料棒が融け、原子炉自体も融けてしまう。これが「メルトダウン」だ。原発はそれを防ぐため、2つのブレーキを持っている。

ひとつが「制御棒」で、中性子を吸収する働きをする。この制御棒を燃料棒の中に突っ込めば、中性子が吸収されて数が減って核分裂を抑えられる。逆に引き抜けば、核分裂が増えることになる。

もうひとつのブレーキは「冷却水」だ。核燃料は核分裂によってどんどん熱を持ってくるから、冷却水はこれを冷やす働きをする。つまり、炉心の温度上昇を抑える働きをする。冷却水は加熱されて高圧水蒸気になるので、これを原子炉から取り出してタービンを回して発電する(沸騰水型軽水炉の例)。

つまり、原子炉は放っておく核分裂が進み、最後には手が付けられなくなるほど加熱する。アクセルがなくても、勝手に核分裂が進んでしまうのだ。そのために制御棒で核分裂を抑え、冷却水で発生した熱を外部に持ち出している。

2つのブレーキ「制御棒」と「冷却水」(沸騰水型軽水炉の例)

■福島第一原発事故のブレーキ故障とは

東日本大震災(2011年3月11日)で起きた東京電力福島第一原子力発電所の例で、説明しよう。地震発生とほぼ同時に運転中の原子炉には制御棒が自動的に挿入され、原子炉は停止した。ふたつのブレーキのうちのひとつは、有効に作動したわけだ。

しかし、もうひとつのブレーキである冷却水はそうならなかった。原発に電力を供給していた送電線の鉄塔が倒壊し、発電所内部の電力の供給が完全に停止した。すると予備のディーゼル発電機が電力を供給し始め、ここまでは一応想定どおりであった。

しかし地震発生の41分後に巨大な津波が原発を襲い、地下のディーゼル発電機を水没させてしまった。予備の電源を失ったことから冷却水循環系のポンプが停止し、非常用炉心冷却装置(ECCS)も動かせなくなってしまった。

最後のバックアップである非常用バッテリーは作動したが、ここに蓄えられた電力も使い果たした。その結果、発電所内の照明が消えて真っ暗になり、通信機能も失った。運転員は、原子炉で何が起きているのかがほとんど分からない状態になったわけである。

冷却水の供給を受けられなくなった炉心部分は温度が上昇し、水が蒸発して燃料棒がむき出しになった。燃料棒のジルコニウム合金は高温になると水蒸気を分解して水素を作り出す。これが原子炉建屋内に水素が溜まり、水素爆発が起こって建屋を吹き飛ばし、放射性物質を撒き散らした。

やがて燃料棒が高温で融け始め、圧力容器自体も融け、溶融した核燃料がどろどろの状態になって格納容器の床に落下。一部の核燃料は格納容器にも穴をあけ、一部は格納容器の外にまで広がっていった。

福島第一原発の例でもわかるように、結局のところブレーキをかけ続けなければ暴走するのが原発の特異性だ。火力や風力、太陽光など、他にこのような発電システムはほとんど見当たらない。

いくらバックアップシステムを構築したとしても、事故の確率を減らしたに過ぎず、バックアップが機能しない局面もある。福島第一原発の事故はまだ収束しているわけではなく、まだ進行中だ。1986年の事故発生から40年近くになるチェルノブイリ原発も、いまだに放射線を出し続けている。

最終的には、原発に依存しない社会にしなければいけないのだろう。

takarabeakira

財部 明郎(オルタナ客員論説委員/技術士)

オルタナ客員論説委員。ブロガー(「世界は化学であふれている」公開中)。1953年福岡県生れ。78年九州大学大学院工学研究科応用化学専攻修了。同年三菱石油(現ENEOS)入社。以降、本社、製油所、研究所、グループ内技術調査会社等を経て2019年退職。技術士(化学部門)、中小企業診断士。ブログでは、エネルギー、自動車、プラスチック、食品などを対象に、化学や技術の目から見たコラムを執筆中、石油産業誌に『明日のエコより今日のエコ』連載中

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