日本はなぜメーカーが強く、ITサービスは弱いのか

オルタナ・テシスとは
他のオルタナ・テシスを読む

■記事のポイント
①日本は製造業で世界をリードしたが、IT では後塵を拝している
②その原因は、人間の多様性より同質性を重んじてきた歴史に
③ITを含む全産業の発展には、多様性重視へのシフトが必要だ

戦前からその強みを発揮した繊維、造船。日本の高度成長期をリードした家電、半導体、自動車。日本の産業界はこれまでメーカーがけん引してきました。一方、21世紀に入り、GAFAMに代表されるITサービスでは常に後塵を拝して来ました。日本はなぜメーカーが強く、ITサービスは弱いのでしょうか。(阿部 義之)

高度成長期が分岐点に

■日本の多様な自然がメーカーを強くした

日本列島は、世界的に見て多様な自然が存在しています。少し移動すれば、世界有数の豪雪地帯から多雨地域、からっ風や砂漠地帯に近い砂丘に行くことができます。山と海が近いので、急峻な山道も、海の塩を含んだ風も身近に感じることができます。また、硫黄臭のする火山など特殊環境も経験することが可能です。

また、同じ場所にいても四季があり、暑さ、寒さ、じめじめした雨、乾燥した風などを体験できます。このような多様な自然環境があることで、メーカーはさまざまな条件での製品テストを行うことができます。また、社員同士での会話でも、多様な環境の共通認識が形成され、コミュニケーションがスムーズになります。

その結果、例えば雪上性能の高い寒冷地仕様の車、砂漠でも走り続ける車など、世界各地の環境に合わせて使える製品を作り輸出してきました。それにより、何かの原因で一部地域の売上げが下がっても、他の異なる地域の売上げによりカバーできるポートフォリオが形成されています。

この点で、日本のメーカーは昔ほどではないものの、まだまだ世界的に見て強いと言われます。つまり、日本列島の自然の多様性が、メーカーのグローバル展開の素地となっていると考えらえます。

土壌の多様性もあります。各地で多様な陶器が作られ、旅行先で料理をいただくときに、その土地のお皿で味わう情緒も感じることもできます。自然の多様性が日本の魅力を形成し、インバウンド観光客を引き込める力となっています。

■左利きを右利きに矯正する文化がIT成長の足かせに

一方、ITを使ったサービス産業はGAFAMにデファクトスタンダードを握られ、日本は後塵を拝していると言われています。

この違いは、メーカーは自然を相手にしているのに対して、ITサービスは人を相手にしていることに起因していると考えます。

日本は同調圧力が強いと言われますが、それは太古から災害が多く、同じ行動をしなければ危険な場面に遭遇することが原因と言われます。しかし、それに加えていわゆる高度成長期=日本における人口ボーナス期(人口増加により国内需要が高まる時期)が、大量生産の時代であったことが強く影響していると考えます。

高度成長期には、例えば左利きのひとが右利きに矯正されるなど、大量生産されるモノにヒトを合わせることがよしとされました。そればかりか、同じ品質で多量に物を作るため、ひとり飛びぬけた技術力や行動は忌避され、組織にヒトを合わせることが求められる時代でした。

この高度成長期に成功体験を経験したひとが、今も決裁権を持っています。そのことにより会社や政治などの組織において、多様性より同質性に重きをおく影響が未だ存在していると思われます。

人を相手にするITサービスを作るには、使用するひとをイメージする必要があります。しかしそこに同質のひとしか浮かばなければ、一定数のひとが使いづらさを感じるでしょう。例えば、誰にでも使いやすいと思っていても、男性目線のバイアスがかかっていて、女性を遠ざけているケースが見受けられます。

ITサービスを開発する社員で議論するときも、多様なひとのイメージを共有できていなければ、ユーザーの多様なニーズに合ったプロダクトは生まれません。例えばフルタイムで働いている前提で設計されたITサービスは、育児や介護で時間が取れないひとには利用が困難だったりするかも知れません。

日本は、高度成長期にメーカーが大量生産によって成功したことにより、結果として人の多様性より同質性を重んじる傾向を生み、結果、ITサービスの開発に不可欠な人の多様性が欠落してしまったのではないでしょうか?

従って、これから日本がITサービスで世界に伍していくには、自然の多様性にメーカーが恩恵を受けてきたように、まずは人の多様性を広げることが必要です。今やあらゆる産業がITサービス抜きには成り立ちませんので、あらゆる産業において人の多様性が産業の発展に不可欠となります。

人の多様性は、ITサービスの進化を通じて全産業の発展の礎となる課題であると考えなければなりません。

阿部 義之(あべ・よしゆき) 
accompanyLLC代表。サステナビリティレポート、統合報告書の大手制作会社に勤務しながら、個人事業で伴走(accompany)型コンサルティングを提供。
アムネスティ・インターナショナル京都学生グループ初代代表(1982年)など、長年、社会課題に関心を持ちながら、エコ検定、CSR検定3級、IBM ウェブアクセシビリティ認定アドバイザー、色彩検定UCアドバイザーほか30以上の資格に合格した知見を活かして発言を行っている。
■note:身近な社会課題を考える、マルチ資格おじさん https://note.com/multi_license/

alternathethis

オルタナ ・テシス

テシスとは英語で「論文」「小論文」の意味です。オルタナ創刊以来の精神である「オルタナティブ」(もう一つの選択肢)という価値観に沿った投稿を皆さまから広く募ります。

執筆記事一覧
キーワード:

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..