全国に広がる「オーガニック給食」、そのメリットは

私たちの身体は食べたものでできている。そう考えたのは、今から6年ほど前に、玄米和食の給食とこども達による本物の味噌づくりを行う福岡市・高取保育園を舞台にしたドキュメンタリー映画『いただきます‐みそをつくるこどもたち』に登場する子どもたちの姿に心が動いたからだった。化学肥料を使わない豊かな土壌は、食物にミネラルなどの栄養を与え、手作りの発酵食は健康の要である腸内環境を整える。こうした先進事例に背中を押された教育者や、子どもたちの健康を願う親が、地域産業の育成や地域創生を目指す自治体と共鳴し、有機や自然栽培の食材を取り入れた、いわゆる「オーガニック給食※1」の導入が進んでいる。(照井敬子)

給食のオーガニック化が進む(画像はイメージ)

オーガニック給食の事例

愛媛県今治市では、学校給食センターの老朽化に伴い自校式調理場を設置しそれぞれの調理場で献立作成することで、地元農産物の大幅な取り入れに成功。今治市特別栽培米※2に加え、小麦、大豆や野菜・果物も今治産を多く使用している。単に地元産であるだけでなく、遺伝子組み換え食品を避け、有機や無農薬栽培も推進している。

千葉県いすみ市では、2017年10月から市内の小学校すべてに対して、地元農家が栽培した有機米「いすみっこ」を使った給食を導入し「いすみっこ」のブランド化にも成功している。石川県羽咋市では、2016年1月からに無農薬・無肥料・無除草剤の自然栽培で収穫した米と野菜を取り入れた給食が導入された。自然栽培は市とJAはくいの協働で実現。自然栽培への就農を支援する制度も整備されている。

海外事例をみると、フランスでは法律により給食食材の50%以上を有機とすることが定められているし、韓国ではソウル市が2021年からすべての小・中・高校においてオーガニック無償給食の実施を開始するなど、ダイナミックな取り組みが進められている。

オーガニック給食導入の推進エンジン

オーガニック給食を導入した自治体に共通する点は、自然環境に大きく配慮した産業や地域循環などを起点としたまちづくりの推進を方針としていることである。

今治市は2006年に 「地産地消の推進」「食育の推進」「有機農業の振興」を3本柱とする「今治市食と農のまちづくり条例」を制定し、第7条に地産地消をベースに学校給食への有機農産物の導入、遺伝仕組み作物およびこれを用いた加工品の使用をしない旨を明記している。

いすみ市の「自然と共生する里づくり連絡協議会」は、「千葉県の生物多様性ちば戦略」を背景に環境重視の農業による地域活性化目指し2012年に設立された。行政と農業関係者、市民が協力し合い数年かけて有機農家を育成し、2014年には出来上がった有機米を学校給食1か月分として提供し大きな反響を得たことから、有機米全量化へ向けた施策が加速していった。

食品添加物や遺伝子組み換え食品、農薬による健康への影響を懸念する保護者から、「オーガニック給食」を望む声が高まっているが、自治体での条例化と保護者の声が相互の推進エンジンになり得るので、ぜひその声を自治体に届けて欲しい。

豊かな土壌でこそ栄養豊かな食物が育つ

農作物に栄養を与えるのは土壌でありそこに集まる微生物である。化学肥料に依存しない栽培では、作物はしっかり根を張り光合成によりできた炭水化物やアミノ酸を土壌中に放出し微生物を呼び込む。微生物は土壌の有機物やミネラルを分解することで土壌の養分の吸収を促し、作物に豊かな栄養をもたらす。

一方、化学肥料を多用した場合では、作物は配合された栄養を容易に吸収できるので作物が大きく育ち収量も安定する反面、根の成長が小さく微生物が集まり難くなる。その結果土壌の生態系が崩れ痩せた土となってしまうため、土壌を守るためには化学肥料への過剰な依存は避けたい。

オーガニック給食のメリット

温室効果ガス排出源(産業別)の約25%を農業が占める。化学肥料や農薬の原料が化石燃料であること、過剰となった肥料中窒素由来の一酸化二窒素の温室効果が高いこと、土壌に固定されていた炭素が耕作や微生物による分解を経て大気中に放出されることなどが原因である。したがって、化学肥料や農薬に依存しない農業の在り方は、気候変動対策※3としても大きなメリットになると考える。

さらに、自然栽培では、化学肥料を使用した場合と比較して、土壌有機物や微生物の働きにより作物が長い根を張り適度に団粒化し保水性が高まった土壌となることから、大雨や台風などの気象災害に強い作物が育つ傾向にある。

一般的に、化学肥料や農薬を使った慣行農業と比較して、自然栽培や有機栽培は手間がかかり収量が少なく効率が悪いとの認識が広がっているが、土壌を育て適切な管理を行えば過度な手間をかけずに収量が安定した栄養豊かな作物を生産することが可能である。

私たち生活者は慣行農業により「食物の安定した供給」という恩恵を受けているが、化石燃料を原料としている化学肥料や農薬の価格が急激に高騰しており、慣行農業自体の継続が危ぶまれる状況にある。離農者が増えるということは、食料自給率38%まで低下した日本において食料危機に直結する問題となる。

この問題の解決策の1つとして、「オーガニック給食」という安定した需要を確保することで化学肥料・農薬を使用しない農家を増やすことが有効だと考える。前述した自治体の取り組み事例を参考にして全国で展開することにより、資材価格の高騰にあえぐ慣行農業を救い、日本の食の安全と供給を育てる。もちろん時間や手続きを要し容易なことではないが、今をあたり前と思わずに消費者もジブンゴトとして考え、声をあげたい。

※1いわゆるオーガニック給食
有機(オーガニック)栽培や自然栽培などの化学肥料と農薬を使用しない農法で栽培された農産物を積極的に取り入れた給食を「オーガニック給食」と総称している。
■有機栽培:化学合成された肥料と農薬の不使用および遺伝子組み換え技術を利用せず、環境への負荷をできる限り低減した栽培方法
■自然栽培:土を耕さず、除草せず、肥料と農薬を使用せず栽培する方法であるが、明確な定義はなく耕起や除草の有無は実践者により異なる

※2特別栽培米:農産物が生産された地域の慣行レベルと比較し、節減対象農薬の使用回数が50%以下・化学肥料の窒素成分量が50%以下で栽培された農産物(ここでは米)

※3稲作由来のメタンについては別途対応が必要

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照井 敬子

薬樹株式会社SDGs推進担当マネジャー・NPO法人Liko-net代表理事 医療という人の命に関わる仕事だからこそ、持続可能な仕組みを大切にしたいとの考えのもとSDGs推進を担う。また、NPO法人としてサステナブルをテーマに生活者に向けた啓発イベントを行う。

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