カンヌに見るSDGsコミュニケーションの新潮流②

記事のポイント
①カンヌ受賞作品は社会課題の解決を切り口にした作品が多い
②企業ブランディングにとって「パーパス」の重要性は増している
③企業と社会課題の関係性をどう考え、どう伝えるのかポイントを解説

カンヌに見るSDGsコミュニケーションの未来

世界3大広告賞の一つである「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル(通称:カンヌライオンズ)」では、今年も今後のコミュニケーションの方向を示唆する多くの受賞作品が選出された。近年はSDGs部門に限らず、社会課題にアプローチした作品が各部門で数多く受賞していたが、今年もその傾向は変わらなかった。企業が社会に対して何のために存在するのかをCSR活動のみならず、本業の企業活動で示していく、いわゆる「パーパス」が、企業ブランディングにとっては引き続き重要なものになっていくだろう。本稿では、企業コミュニケーションと社会課題の今後の関係について、受賞作品をケーススタディとして考察していく。(伊藤 恵・サステナビリティ・プランナー)

■「ただしい→たのしい」の変換

ある社会課題を解決しようと訴えることは、正しいことではあるが、人々の興味関心を高めるためには、正しいことを正しいという以外のアプローチが必要な場合もある。

どうすれば、お説教じみた退屈な主張ではなく、人々が思わず参加したくなるようなモチベーションをつくり出せるか。そこにクリエイティビティやアイデアの力が発揮された作品を見ていきたいと思う。

漁師は二度うれしい!?「Plastic Fishing Tournament」

メキシコのマサトランの漁場ではプラスチックごみの問題が深刻化。プラスチックごみばかりで魚が釣れない状態になってしまい、漁師たちは収入源を失い苦境に追い込まれていた。

そこでCorona Méxicoが開催したのが、プラスチック釣り大会「Plastic Fishing Tournament」だ。

どれだけ多くのプラスチックを釣ることができるかを競うこの大会に、30チーム、80人の漁師が出場し、合計約3トンのごみを回収した。

上位チームには賞金も授与され、さらに回収したプラスチックごみは、魚と同じ値段で買い上げられ、地元のリサイクル会社に引き渡され、漁に必要な道具へと変えられた。

漁師たちはこれまで、プラスチックごみが網にかかってもそのまま海に戻していたが、大会をきっかけに、リサイクル会社と連携したプラスチックごみの回収もはじまった。

このプラスチックごみから収入を生み出す仕組みは、社会課題をポジティブなチャンスとして捉え直すことに成功した好事例であるといえるだろう。

■炎上も正義なのか

インターネットやSNSが情報伝達の中心になっているいま、目立たない、尖っていないアイデアは、たとえそれが正しいことを伝えていたとしても広まりにくい。

効果が低いものだとみなされてしまう。それは、社会課題にアプローチした施策でも同様だ。世の中に広めるために、より尖ったもの、過激なものがソーシャル・グッドな施策においても散見されるようになってきている。

若者を挑発してワクチン接種を促進「THE NIGHT IS YOUNG」

若者世代でコロナワクチン接種が進まないという課題は、日本だけでなく世界各国が抱えているもので、接種反対派と推進派で常に世論が二分するトピックだ。

その課題解決を試みたのが、ビールメーカーのハイネケン。ワクチン接種済みの老人たちだけが集うクラブで、思い思いにダンスを楽しみ、夜を謳歌するという動画を公開。

「ワクチンを接種した人だけが楽しめる」という挑発的なメッセージを受けSNSは大炎上し、#BoycottHeineken のハッシュタグをつけた不買運動にまで発展した。

しかし皮肉なことに(これも計算なのだが)、この不買運動がきっかけとなり、映像はどんどん拡散していき、自粛生活に疲れた若者たちにワクチン接種を促す結果につながったのだ。あえて議論を呼び起こし、解決へ導く設計がされた施策の事例である。

より多くの人に届けるためには、炎上も厭わない。確かにきっかけをつくり、社会課題について議論をすることは大切だ。

多くの人に問題を認識させることが第一歩であるという考え方ももちろんあるとは思うが、この傾向がますます進んでいくとすると、その先にはどんなコミュニケーションが成り立つのだろうか。

企業が自社のブランディングや成長のために社会課題に取り組むことへの疲弊の声も一部では聞こえてくる。

SDGsは近年確実に社会や企業に浸透していったが、これをどう受け止め、これからどう行動していくべきか、SDGsの真価が各々にいま問われているのかもしれない。

itomegumi

伊藤 恵(サステナビリティ・プランナー)

東急エージェンシー SDGsプランニング・ユニットPOZI サステナビリティ・プランナー/コピーライター 広告会社で企業のブランディングや広告制作に携わるとともに、サステナビリティ・プランナーとしてSDGsのソリューションを企業に提案。TCC新人賞、ACC賞、日経SDGsアイデアコンペティション supported by Cannes Lionsブロンズ受賞。執筆記事一覧

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