プライム企業が重要視したサステナビリティ課題は

記事のポイント
①再改訂版コーポレートガバナンス・コードではサステナビリティの開示を強化
②東証はプライム市場に上場する企業が重要視するサステナビリティ課題を調べた
③多様性・社員など人的資本関連の課題を最重要視する企業は8割超

2021年6月に再改訂したコーポレートガバナンス・コード(CGC)では、サステナビリティに関する取り組みへの開示を強化した。上場企業はガバナンス報告書に重要視するサステナビリティ課題を記載するようになったが、どのような課題が多いのか。(オルタナS編集長=池田 真隆)

東京証券取引所の上場部調査役・信田裕介氏

東京証券取引所はこのほど、再改訂版CGCへの対応状況を調べた。上場企業が2022年7月14日までに出したガバナンス報告書から、CGCが定めた各原則への対応状況や重要視するサステナビリティ課題を特定した。

プライム市場に上場する1839社が重要視するサステナビリティ課題をキーワードごとに分析した結果、「ダイバーシティ・多様性」(91.0%)「従業員・社員」(83.2%)「女性」(75.4%)など人的資本関連の課題を重要視する企業が多かった。

一方、気候変動(49.2%)、人権(15.8%)、地球環境(14.3%)、自然災害(4.4%)、自然資本(0.4%)は低かった。

CGCは上場企業が持続的な成長を目指すために取るべき行動を定めた。1992年に英国で生まれ、日本では東京証券取引所が2015年に策定した。3年に1回改訂してきた。直近の改訂は2021年6月だ。

CGCは83原則から成る。上場企業の規模や特性は異なるので、各原則には幅広い解釈の余地を与えた。そのため、開示に当たっては形式的な文言や記載方法はない。各社が任意の形で開示してよいことになっている。

「コンプライ・オア・エクスプレイン」も特色の一つだ。各原則については、実施するかどうかを求めるが、実施しないことを選んだ場合、その理由を説明しないといけない。

英国と比べて、日本のCGCは、「経営の中枢に踏み込んでいる」(東京証券取引所上場部調査役・信田裕介氏)のも特徴の一つだ。

新型コロナウイルスの感染拡大やDX、気候変動への対応など社会・経済・環境の変化は激しい。こうした状況に対応するため、再改訂版では東証の市場区分の再編成を機に、ガバナンスの強化を求めた。

再改訂版ではサステナビリティ課題への開示を強化した。CGCは5章から成る。1章「株主の権利・平等性の確保」、2章「株主以外のステークホルダーとの適切な協働」、3章「適切な情報開示と透明性の確保」、4章「取締役会等の責務」、5章「株主との対話」だ。今回、2~4章までサステナビリティに関する開示を求めた。

再改訂したCGCによって、気候変動に関する国際的な開示枠組み「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)」に賛同する企業が急激に増えた。2021年6月の再改訂から賛同企業は約500社増えて、現在は771社(2022年6月時点)に上る。

東証が対応状況を調べたところ、「サステナビリティを重要な経営課題として認識(補充原則2-3①)」できたのは、プライム市場に上場する企業のうち95.8%に及んだ。再改訂版で新設した「サステナビリティの取り組みを具体的に開示/TCFDまたは同等の枠組みに基づく開示」(補充原則3-1③)に関して対応できている企業は、62.5%だった。

同じく新設した「サステナビリティの基本的な方針を策定/人的資本・知的財産への経営資源の配分など」(補充原則4-2②)に対応できた企業は86.4%だった。

この調査結果を受けて、東証上場部の信田氏は、「新設した原則を含めて、想定以上の対応状況だった。人的資本や知的財産を重要課題として認識していることが分かったので、開示することでこの分野の成長につながることを期待している」と話した。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナS編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナS編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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キーワード: #ESG#SDGs

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