なぜ知的障がい者の社会参画は進まないのか

グッドガバナンス認証団体をめぐる―⑪認定NPO法人スペシャルオリンピックス日本・東京

■記事のポイント
①米発祥のスペシャルオリンピックスは知的障がい者の普及啓発を行う
②米国ではオリ・パラよりもスペシャルオリンピックスの方が認知度は高い
③日本にも関連組織はあるが、参加者はわずかで社会参画は進んでいない

知的障がい者の社会参画はどの程度進んだのか。米国発祥で50年以上の歴史を持つ「スペシャルオリンピックス」の関連組織スペシャルオリンピックス日本・東京の前田伸吾事務局長は「まだ十分ではない」と言い切る。社会参画が進まない原因を聞いた。(オルタナS編集長=池田 真隆)

スペシャルオリンピックス日本・東京の前田伸吾事務局長

――1994年からスポーツを通じて、知的障がい者の社会参画を促してきました。昨年は東京オリ・パラもありました。知的障がい者の社会参画はどの程度進んだとお考えでしょうか。

社会参画はそこまで進んでいないと思います。たとえば、当団体は今年で28年目ですが、登録者は1800人程度です。東京には知的障がい者は数万人いるのですが、登録者数だけを見てもわずかです。

登録者が少ない原因に親が社会に出さないということがあります。昔と比べると改善はされましたが、周囲が知的障がい者を避ける動きはまだあります。

スペシャルオリンピックスは米国発祥のスポーツプログラムで、50年以上の歴史があります。重度でも軽度でも問わず参加できるのですが、特に重度の知的障がい者の親は「迷惑をかけたくない」という思いを強く持たれています。日本人特有のひた隠しにする性格が、社会参画を止めている一つの要因でもあると思います。

一方で、米国だと、オリ・パラよりもスペシャルオリンピックスの方が認知度は高いです。学校で健常者と障がい者を分けずに一緒のクラスで授業を行っていることでインクルージョンの価値観が社会に根付いています。

――スペシャルオリンピックス日本・東京はどのような活動をされていますか。

スペシャルオリンピックスの地区組織は各都道府県にあります。東京では主に毎週末、ボランティアが主導でボウリングやバスケットボール、サッカー、競泳など16種目の「プログラム」を提供しています。

その他に、日頃の練習の成果の発表の機会として、2年に一度、地区大会を開いています。

プログラムの運営はボランティアが中心となって行っています。会場の予約から当日の進め方、参加者の補助などが役割です。現在、登録しているボランティアは約2100人です。

東京では16種目の「プログラム」を実施
2年に一度、地区大会を開催する

■スポーツを通して学んで欲しいのは、「人との接し方」

――社会で「インクルージョン」の価値観を広めていく上で、スポーツの役割をどのようにお考えでしょうか。

スペシャルオリンピックスでは、知的障害のある人を『アスリート』と呼んでいますが、アスリートがスポーツを通して学んで欲しいのは、スポーツの楽しさやルールを学ぶだけではなく、人との接し方も学んで欲しいです。相手に対する言葉遣いも重要です。また、アスリートだからといって特別扱いはしないで、ダメなものはダメとはっきりと伝えます。指摘されることで、そのアスリート自身の成長につながるからです。

基本的にアスリートの活動のサポートにボランティアが付く形です。重度のアスリートには複数のボランティアで対応することもあります。ボランティアはアスリートがプレーする際にアドバイスをしたり、動きの補助をしたりするのですが、活動に初めて参加するアスリートは場に馴染むまで時間を要することもあります。

それでもサポートを続けることで、徐々にプレーできていきます。例えば、バスケットボールのボールをキャッチしてシュートができるようになったり、バドミントンの羽をラケットで打ち返すことができるようになった姿を見ると感慨深いです。

ボランティアで活動に参加されている方にやりがいを聞くと、皆さん口をそろえてこう言います。「できなかったことができるようになった瞬間を見るのが楽しみ」だと。

知的障がい者(アスリート)が何を伝えたいのか、発している言葉から理解することが難しい時もあります。でも、教えたことでできなかったことができるようになると、気持ちが通じる瞬間があります。私もボランティアで活動に参加をするのですが、そういうときは貴重な瞬間です。

ですが、東京都には知的障がい者を対象にしたスポーツ団体は決して多くありません。アスリートだけでなく、ボランティアで参加を希望される皆さんのためにも、スポーツの機会を絶やさないでいたいと強く思います。

――現役のプロやアマチュアのアスリートやOBOGもボランティアとして活動に協力しています。ボランティアを集めるポイントは何でしょうか。

各プログラムの運営はボランティアに委ねているので、運営のボランティアの人数を確保することが最も重要です。

それに各プログラムにはスペシャルオリンピックス独自の認定コーチ資格を持つ責任者が必要です。その資格は4年に1度更新しなくてはいけません。

そこまでしてボランティアが関わるモチベーションとは何か。大まかに表すと、「成長を間近で見れること」だと思います。目の前にいる一人の人間が困難を克服しようと努力する姿を見ることは刺激になります。できるようになるとうれしさを感じますし、そのことがボランティアのモチベーションにつながっているはずです。

■新規会員の獲得、「地道な作業の繰り返し」

――活動資金の7割が寄付です。社会から信頼される団体になるためにどのようなことを意識していますか。

寄付の7割が法人からの寄付で残り3割が個人からの寄付です。助成金を定期的に頂いていることも運営の大きな助けになっています。

課題は新規の寄付です。法人からの寄付が活動資金の割合を占めていますが、法人からの寄付は、寄付側である法人の業績に左右されることがあります。その都度、新規寄付先を探すことが必要になります。

これには地道な作業を繰り返すしかありません。何百通というメールを送り、活動を知ってもらい、支援を依頼します。迷惑メールだと思われたことも少なくありません。ですが、これらのことを繰り返し、行ってきました。

――グッドガバナンス認証を取得した経緯や取得してからの影響はいかがでしょうか。

グッドガバナンス認証は前事務局長が探して提案をしてくれました。団体を立ち上げて28年になりますが、今後も継続していく上で「信頼」が重要です。信頼をしっかりと形にして表すことで様々なメリットがあると思い、取得しようと考えました。企業に訪問したときもこの認証があるおかげで信頼度が上がったと評価しています。

――読者にメッセージをお願いします。

スペシャルオリンピックスを知らない方もいらっしゃると思いますが、まずは我々のような知的障害者を支援するスポーツ団体があるということを知ってもらうだけでもありがたいです。団体としても「一歩前進」します。

寄付だけでなく、ボランティアとしてかかわって頂ける方も募集しています。たくさんのボランティアの皆さんのご協力がないとプログラムを運営できません。

特別なスキルが必要なわけではないので、ボランティアの経験がなくても、気軽な気持ちからでも大丈夫です。興味のある方は是非ご連絡して頂きたいです。<PR>

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナS編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナS編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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