気候変動を足止め、GDP構成比1割の7業界が圧力

記事のポイント
①英研究機関が国内50の業界団体が行う気候変動政策へのロビー活動を分析
②石炭や鉄鋼、電力など7業界の働きかけが強いが、GDP構成比は1割以下
③一方、GDP構成比7割以上のサービス産業は働きかけが弱いことが分かった

2050年カーボンニュートラルに向けて、気候変動政策に関連したロビー活動を多くの企業や業界団体が行う。英研究機関が国内50の業界団体が行う気候変動政策へのロビー活動を分析した。その結果、石炭や鉄鋼、電力など7つの業界の働きかけが強いことが分かった。だが、その業界のGDP構成比は1割以下で、構成比7割以上のサービス産業は働きかけが弱いという歪な構造が明らかになった。(岸上 有沙)
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2015年に英国で立ち上がった独立系気候変動シンクタンク「InfluenceMap (インフルエンスマップ)」は気候変動に関連した企業のロビー活動を評価する取り組みを行う。

日本企業や業界団体によるロビー活動の情報開示と実態について、ESG投資とサステナブル・ファイナンスに詳しい岸上有沙氏がインフルエンスマップ東京事務所に所属する長嶋モニカ氏にインタビューした。

ロビーマップの情報を活用した企業による業界団体エンゲージメントや、所属団体の気候変動政策への立ち位置を開示する企業が増えてきている傾向をご紹介頂きましたが、日本の現状はどうでしょうか。

InfluenceMapが2020年に行なった調査からは、偏った日本の対気候変動政策のロビー活動の現状が見えてきたと長嶋さんは言います。

この調査では、日本経済への寄与度(雇用、生産活動成長、付加価値)と、国内の気候変動・エネルギー政策への直接・間接的なロビー活動をセクターごとに分析しています。

間接的なロビー活動は、気候変動政策への働きかけの強さや政策による恩恵の大きさに基づき、影響力のある50の業界団体を対象にしています 。

その結果、日本のGDPへの貢献度合いから見ると1割以下しか占めていない7つの業界(スライド参照)では、パリ協定と整合していない政策提言を積極的に行なっている傾向が見られました。

他方、GDP貢献で7割以上を占めるサービス産業を代表する団体は、気候変動政策に関しては概ね前向きではあるものの、総じて政策への働きかけが弱い傾向にあることが分かりました。

気候変動政策によって最も大きな影響を受け得るセクターを中心に後ろ向きなロビー活動の傾向が確認され、その働きかけも強いことは、ある意味容易に想像できるかもしれません。

今回のインタビューでは、対GDP貢献度合いも含め、客観的に考える必要性を提示して頂きました。

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また多くの国で課題となっていますが、気候変動政策に関わる各委員会の議事録の公開、パブリックコメントを提出した諸団体の公開など、政府側も政策関与の透明性を高めることで、政策決定をより民主的に実施できると述べます。

InfluenceMapではこうした問題意識のもと、サステナビリティに関する会計基準の策定に当たっているISSBに対し、気候ロビー活動に関連した開示項目を含めるよう、提言も行なっています。

所属団体の気候変動政策への立ち位置の開示を行なっている日本企業は、これまで確認できていませんでした。

ようやく昨年12月、トヨタ自動車が先述のCA100+対象の50社の一つとして、初めての開示企業となったばかりです。これは日本初であると同時に、アジア初でもあり、アジア地域全体としても開示が未発達な分野と考えられます。

自動車産業:渦巻く環境・社会要因の狭間の行動と政策関与

ネットゼロ社会に向けて各産業が取り組む中、自動車産業においては電気自動車(EV)への移行が大前提となっています。

各国における電源構成の脱炭素化の実態、EVバッテリーの原材料における人権を含んだ社会的な側面の課題など、総合的に取り組まなければならないものが多い中、こうした状況はどのように評価上考慮されているのか、伺いました。

IPCCの最新の報告書では、低炭素電源と電気自動車というセットが最も気候変動に対して有効的と報告されており、InfluenceMapではこちらとの整合性の中で各社のロビー活動の評価を行なっていると長嶋さんは説明します。

具体的には、再エネ比率の引き上げと電動化をセットで推進するような提言を行なっていた場合はプラスに評価する一方、電源の化石燃料比率が高いことを理由にハイブリット車を含む内燃機関を普及させるべきと言った働きかけを行なっている場合はマイナスに評価する、という評価方法です。

欧州、アメリカ、英国等では、内燃機関を廃止してゼロエミッション車に切り替える方針を打ち出しているところがあり、InfluenceMapの調査ではこうした各国政府の提案を妨げる働きかけを一部の自動車メーカーが行なっている実態もお話頂きました 。

バッテリーに他の社会課題が多く残されていることを認識する中でも、こうした電動化への世界の流れは進んでおり、現状の議論を把握し各社対応する必要性がますます高まっていることが伺えました。

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岸上 有沙

2019年4月よりEn-CycleS (Engagement Cycle for Sustainability)という自らのイニシアチブの元、各種講演のほか、Responsible Investor でのコラム執筆、J-SIF運営委員、AIGCCワーキンググループ等を通じて、ESG投資やサステナビリティに関連した企業・投資家行動とグローバル発信の促進に携わる。2007年よりESGとサステナブル投資に従事し、ロンドンでの勤務を経て2015年より東京に異動。FTSE Russellのアジア環太平洋地域のESG責任者として、企業との対話(エンゲージメント)、ESGインデックスやレーティングの開発と管理、及び機関投資家のスチュワードシップ活動の実行に関するサポートを務めた。慶応義塾大学 総合政策学部卒、オックスフォード大学にてアフリカ学の修士号取得。執筆記事一覧

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キーワード: #脱炭素

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