国際環境NGO、戦時下のチョルノービリ原発を現地調査

■記事のポイント
①ロシア軍はウクライナ侵攻と同時にチョルノービリ原発を攻撃・掌握した
②軍事行動が与えた影響について、国際環境NGOグリーンピースが現地調査
③その結果、高い放射線など深刻な影響があることを確認した

2022年2月24日、ロシア軍はウクライナに侵攻したその日に、キーウ(キエフ)の北100キロのプリピャチ市にあるチョルノービリ(チェルノブイリ)原発を攻撃、掌握しました。世界で初めての原発への軍事攻撃が、36年前に史上最悪の事故を起こした原発で起きたのです。そこで科学的にどんなことが起きているか、7月に国際環境NGOグリーンピースが調査しました。(サポーター窓口・金海初芽)

免責事項:グリーンピースは政治的に独立しており、領土問題のいずれの側に立つこともありません。地図上の境界線は、法的要件および/または出典元に従っています。

検問所を通過してチョルノービリ原発に向かうロシア軍(写真:State Agency of Ukraine on Exclusion Zone Management  )

■史上最悪の大事故を起こした原発 

1986年4月26日、旧ソビエト連邦のチョルノービリ原子力発電所4号機で爆発事故が発生、7〜9トンの高放射能核燃料が破片や粒子となって大気中に拡散されました。ヨーロッパの実に40%にあたる広大な地域が、4,000Bq/㎡を超えるセシウム137で汚染されたのです。

およそ13万5,000人が避難を余儀なくされ、事故処理に従事した作業員を含む13万人以上が被ばくしたと記録にはあります。原発の半径30キロ圏はいまも、高い放射能汚染のため立ち入り禁止となっています。

グリーンピースは1990年代から継続的に、チョルノービリ原発事故の影響を調査・分析・発表してきました(詳細はこちら)。

■ロシア軍の侵攻

2022年2月24日、ロシア軍はチョルノービリ原発を占拠・掌握しました。

ウクライナや近隣地域の人々は皆、36年前の事故を知っています。一方で、ロシア軍の中には事故を知らされていない、もしくは知っていてもその危険性を認識していない兵士がいたと思われます。占拠は3月30日まで続きました。


数百人の作業員が武装警備員の監視下に置かれ、原発の安全・保安機能維持に不可欠な電源の喪失、核研究施設などの建物への被害も報じられました。

原発は常にすべての設備を最上の状態に保っておく必要があります。廃炉作業中のチョルノービリ原発も、厳重な放射能遮断状態を維持管理しなくてはなりません。戦時下では、それらのシステムが正常に機能しなくなり、深刻な事態を招く可能性があるのです。

■原発への軍事攻撃のリスク

グリーンピースの委託を受けた専門家は数十年にわたり、原発や関連施設が軍事攻撃を受けた場合のリスクと影響についての分析をし、各国政府に示してきましたが、国際原子力機関(IAEA)や原子力産業界はこの警告を無視してきました。

今年2月のロシア軍の侵攻によってウクライナの15基の原発が危機にさらされ、ヨーロッパ大陸の広大な地域が何十年にもわたって居住不可能になるかもしれないという事態に陥っています。

グリーンピースは5月、ウクライナの原子力発電所とロシア軍との位置関係を一定時間間隔で見ることができるインタラクティブマップを公開しました。このマップで、どの原発にどのくらい軍事的な危機が迫っているかがわかります。

■グリーンピースの放射能調査

チョルノービリ立入禁止区域内の調査は、数カ月かけて綿密に計画され、地元当局の承認を得て実施されました。


メンバーはグリーンピース・ドイツを中心に、ウクライナをはじめ世界各地から国際的なチームを編成。ロジスティクス担当者、無人航空機パイロット、通訳、写真・映像のプロも参加しました。

出発前に、ウクライナで日常的に軍事攻撃を受け続けている東部や南部地域とは異なり、チョルノービリ周辺はすでにロシアの占拠下、攻撃下ではないことが確認されました。

チョルノービリ立入禁止区域で使用された機器類(写真:Jeremy  Sutton-Hibbert/ Greenpeace)

■主な調査結果

1. ロシアの軍事行動はチョルノービリの放射線モニタリングシステムに深刻な被害を及ぼした。

2. 人や環境への放射線の影響の研究に必要な実験装置が損壊した。

3. ロシア軍が立入禁止区域に多数埋設した地雷によって、科学者の命は危険にさらされ、消防士や一般市民、国際社会に重要な情報を提供する必要不可欠な活動が妨害されている。

4. ロシアが軍事行動を展開した地域の放射線量は、国際原子力機関(IAEA)の推定値の少なくとも3倍以上。

5. セシウム137の空間濃度は45000Bq/kgから500Bq/kg以下まで大きなばらつきがある。

6. ロシア軍の軍事行動によって立入禁止区域に蓄積された放射性物質が攪拌され、大気中の放射性核種の増加につながる可能性がある。

7. 専用の無人航空機(ドローン)を使って地上100メートルの高さで測定したところ、南側の広い範囲でより高い放射線量が観測された。

8. ロシア軍キャンプの上空では約200cps(毎秒カウント)が計測されたのに対し、南側600〜700メートル地点では約8000cpsと40倍も高い放射能が計測された。

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国際環境NGOグリーンピース・ジャパン

グリーンピースは、世界規模の環境問題に取り組む国際環境NGOです。問題意識を共有し、社会を共に変えるため、政府や企業から資金援助を受けずに独立したキャンペーン活動を展開しています。本部はオランダにあり、世界55カ以上の国と地域で活動し、国内だけでは解決が難しい地球規模で起こる環境問題に、グローバルで連携して取り組んでいます。執筆記事一覧

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