おしゃれなバッグ型コンポスト、小田急が無償貸し出し

■記事のポイント
①食品ロス対策として「コンポスト」に取り組む人が増加している
②神奈川県座間市と小田急電鉄が生ごみ堆肥化普及プロジェクトを始めた
③環境負荷低減やコミュニティづくりに寄与、自治体の後押しが不可欠に

誰でもできる食品ロス対策の一つとして、「コンポスト」に取り組む人が増えてきた。なかでも、スタイリッシュなトートバッグ型の「LFCコンポスト」が人気だ。神奈川県座間市と小田急電鉄は2022年7月、このLFCコンポストを約300世帯の市民に無償で貸し出し、生ごみ堆肥化の普及を図るプロジェクトを始動した。(北村佳代子)

LFCコンポストの「初めてのコンポスト講座」(「Café & Meal MUJI新宿店」にて開催)

■生ごみを燃やさない選択肢「コンポスト」

食べ残しを減らす、買いすぎない、といったフードロスの削減に取り組んでいても、日々食事をしていれば、野菜や果物の皮、卵の殻、種などの調理くずや、コーヒーかす、茶殻など、毎日なにかしらの生ごみは出てしまう。

そうした生ごみを「燃えるごみ」として捨てるのではなく、「コンポスト」に入れ、目に見えない微生物の力で堆肥に変えて、草花や野菜を育てるのに使う。そんな食の循環が今、都心を含めたさまざまな地域で広がりつつある。

生ごみは、日本では「燃えるごみ」として焼却処分に回すのが一般化している。燃やすとなると、当然そこにはCO2が排出される。

そもそも生ごみは8、9割が水分だ。安易に「燃えるごみ」として燃やすのが適切なのだろうか。キャンプファイヤーで湿った薪が燃えにくいように、生ごみを燃やすために、余計な火力まで使っている。

海外では生ごみを燃やさずに埋め立てる国もある。しかし、この方法も、土中からメタンという温室効果ガスを発生させてしまう。

この生ごみを、目に見えない微生物の力を使って適切な処置を施すことで、堆肥に変身させるのが「コンポスト」だ。

米カリフォルニア州は2022年1月、家庭や事業所で出る生ごみの堆肥(コンポスト)化を法律で義務付けた。国内では、まだ法制度化の動きは見られないが、「コンポスト」に取り組む人は増えている。

■電力不要、おしゃれなバッグ型が人気

トートバッグ型で使いやすいLFCコンポスト
(写真提供:ローカルフードサイクリング株式会社)

段ボールコンポストや、生ごみを投入して発酵促進剤をかけるだけの密閉容器、設置型コンポスト、電動生ごみ処理機(乾燥式・バイオ式)、さらには消滅型生ごみ処理器「キエーロ」など、さまざまなタイプのコンポストがある。

なかでも、電力不要のおしゃれなバッグ型として人気を集めているのが「LFCコンポスト」だ。

「LFCコンポスト」は、福岡発のベンチャー企業ローカルフードサイクリング(LFC、福岡市)が、20年超のNPO活動を通じて開発した。

ペットボトルをリサイクルして作った専用バッグには、虫と水の侵入を防ぐために特注ファスナーが付く。生ごみと一緒に混ぜる独自の配合基材がにおいを抑えながら、微生物でごみの分解を促進する。

バッグは基材を入れても約2キロと軽い。そこに約2カ月間、総量約20キロまで生ごみを投入できる。微生物による分解が進み熟成期間を経ると約2キロの堆肥に生まれ変わる。微生物パワーのすごさと同時に、生ごみの大半は水分であることを実感する瞬間だ。

できた堆肥を使ってベランダ菜園を楽しんだり、LFCの提携農家に堆肥を送り後日、野菜をもらったり、あるいはLFCの堆肥回収会に持ち込んで引き取ってもらうこともできる。

利用者がコンポストを継続できるよう、サポート体制も充実している。オンラインや対面で実施する「初めてのコンポスト講座」で利用者の不安や疑問に答えるほか、コンポストに関する悩みや相談をLINEで送ればスタッフが丁寧に対応する。

こうした総合的な使い勝手の良さが、「これならできるかも」とコンポストへのハードルを下げ、近くに農地のない都会の人やマンション暮らしの人にも利用が進んでいる。

■小田急が座間市民に無償で貸し出し

「地球からもらったら地球にもどそう」(座間市のごみ収集車「ROT号」)
(写真提供:小田急電鉄株式会社)

神奈川県座間市と小田急電鉄は2022年7月、LFCコンポストを約300世帯の座間市民に無償で貸し出し、生ごみ堆肥化の普及を図る「WOOMS Activation フードサイクルプロジェクト」を始めた。

できた堆肥は座間市が資源・廃棄物収集業務として「資源ごみの日」に回収する。その上で、第三者機関で堆肥の品質調査を行い、座間市内の農家に提供して農作物の栽培に活用してもらう。

コンポストを実践できても、できた堆肥を使う機会と場所がなくて悩む人も多い。また堆肥の中身の成分や安全性が確認できなければ、農家の人たちの積極的な利用にはつながらない。

小田急電鉄が進めるWOOMS(ウェイストマネジメント事業)では、こうした課題を見据え、農林水産省や座間市農政課の協力の下、早くから地域農家の開拓を進めてきた。

小田急電鉄がLFCコンポストを選定したのには、使い勝手の良さや充実したサポート体制に加え、LFCの目指す世界観「半径2キロ単位での食の循環」への共感も大きい。

小田急電鉄でWOOMS事業に携わる米山麗氏は「廃棄物処理にかかわる課題は、地域の自治体を疲弊させている。当社は地域インフラとして、この解決に取り組み、ごみを出さない街づくりを追求していく。ごみという概念をひっくり返して、全部資源ととらえられる世界を目指したい」と意気込む。

■コンポストで食の循環を地域に広げていく

日本の年間ごみ総排出量は年間4167万トン(東京ドーム115杯分)で、ごみの処理事業経費は年間2.1兆円に上る。国民1人当たり換算では、毎日901グラムのごみを出し、1年でごみ処理に1.6万円超の費用をかけていることになる。

焼却ゴミの4割は生ごみだ。この生ごみを燃やさずにコンポストを活用するだけで、フードロス・CO2排出量・ごみ焼却コストの削減と、豊かな土壌づくり、さらには活気あるコミュニティづくりにもつながる。

自分で作った堆肥で育てた野菜は格段と美味しい。堆肥を受け入れてくれた農家さんとの顔の見える関係が嬉しい。

楽しみながらコンポストを続け、もはや生ごみが、ごみには見えなくなった人たちは、「どうして生ごみを燃やしてしまうのだろう」と口をそろえる。

その一方で、「生ごみは燃えるごみに無料で出せるのに、どうしてわざわざお金をかけて、面倒くさそうなコンポストをするのか」と考える人もいる。

自治体によってはコンポストに助成金を出しているところもある。しかし、たいていは容器や機械の初回購入費が対象で、定期的に購入が必要な基材まで助成の対象としている自治体は現状ほとんどない。

日本のあちらこちらで、コンポストを活用して食の循環を楽しむ人の輪が広がりつつあるが、本格的な普及には自治体の後押しが不可欠だ。ローカルルールの見直しも進めながら、今後、コンポスト利用者がさらに増えていくことを期待したい。

北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

オルタナ副編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部。

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キーワード: #SDGs#フードロス

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