チャールズ新国王、環境活動家としても知られる

記事のポイント
①新国王に即位したチャールズ3世は、環境活動家としても知られている
②50年以上にわたって環境問題のキャンペーンを行い、早くから気候変動対策の提唱や政治家への働きかけも行ってきた
③新国王が「気候対策王」(クライメイト・キング)として新時代を導くことを期待する報道も見られる

エリザベス女王の死去に伴い、新国王に即位したチャールズ国王は、環境活動家としても知られている。50年以上にわたって環境問題のキャンペーンを行い、早くから気候変動対策の提唱や政治家への働きかけも行ってきた。海外メディアの中には、新国王が「気候対策王」(クライメイト・キング)として新時代を導くことを期待する報道も見られる。(北村佳代子)

チャールズ国王は、パリ協定が採択されたCOP21(2015年)にも出席していた

Climate Home News誌によると、チャールズ国王の元アドバイザーを務めた英国の環境保護主義者トニー・ジュニパー氏は、「チャールズ国王の知識の深さと興味の幅は、実に驚くべきもの」だと言う。「国王は、今、本当に必要とされることを意識させ、注目を促すなど、誰よりも多くのことをされてきた。なかでも最も重要なのは、人々が一緒になってその解決策を考えるよう仕向けてきたことだ」。

ジュニパー氏は、国王を動かしているものは何かとの問いに対し、こう答えた。「熱帯雨林の原住民との共通利害を見出したり、イギリスの洪水被害者を訪ねたり、魚資源の枯渇で生計が脅かされているコミュニティを助けたりと、さまざまな活動をされてきた。これらすべてからわかるのは、国王が人々、いや、人類の幸福とウェルビーイングに関わることに注力されていることだ。」

エリザベス女王が政治的な問題に関する意見表明を厳格に避けていたのに対し、チャールズ新国王は、皇太子時代から、環境問題を含めたさまざまな問題について、英国政府の閣僚に働きかけていたことが2015年にガーディアン紙によって明らかにされた。

2005年には、当時のトニー・ブレア英国首相に「気候変動という深刻な課題」についての書簡を送り、エネルギー効率の促進や厳格な排出権取引制度の導入を促した。また同じ時期には、ラム肉や牛肉、酪農家への補助金の増額をブレア首相に働きかけ、ブレア首相に「牛肉の供給不足」を伝えた。今では家畜の牛が、羊に次いで大量の温室効果ガスを排出することはよく知られている。

■1970年代から公害の問題を啓発

チャールズ新国王は、環境問題について公式の場でもキャンペーンを展開してきた。1970年、仏ストラスブールで開催された人間と自然を公害から守るための国際会議で、当時のエディンバラ公フィリップ殿下が「手遅れになる前に、今すぐ公害に対する行動が求められる」と演説したが、その10日後、チャールズ皇太子(当時)は、人口過剰、プラスチック製廃棄物、石油による海洋汚染、そして「自動車や飛行機から無限に排出されるガス」による公害の拡大を警告した。

気候変動が社会的な課題として取り上げられるようになると、チャールズ新国王は早くから気候変動への行動を一貫して提唱してきた。2010年には、自然との調和などを謳う著書『ハーモニー』(原著「Harmony: A New Way of Looking at Our World」)を著し、定期的に、気候変動に関する会議での基調講演も行ってきた。

Climate Home News誌によると、気候コンサルタントのニック・ブルックス氏は、王室儀礼のしきたりはあるものの、チャールズ新国王が国家元首としての影響力を今後発揮しうる可能性があると見ている。

「チャールズ国王の、非常によく練られたメッセージを通じて、これまでかなり保守的だった人たちも、その対策に向けて動くかもしれない」とブルックス氏は語る。

「チャールズ新国王はエリザベス女王ほどの人気はないかもしれない。しかし、気候変動に関する発信に最も抵抗する層は、ヒエラルキーに基づくシステムを最も好む傾向があり、その点でいうと君主制ほど階層的なものはない。チャールズ国王が就任した以上、支持するように変わる可能性もある」。

気候危機に向け「戦時体制」が必要

2021年11月に英・グラスゴーで開催されたCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)の首脳級会合では、議長国としてチャールズ皇太子(当時)は気候危機に向け「戦時体制」が必要だと演説している。

その一方で、グラスゴーに限らず、コペンハーゲンやパリで開催された気候変動会議での基調講演の中に、気候変動ファイナンスへの言及は見当たらない。気候変動ファイナンスの原則には、気候変動を不当に引き起こした豊かな国々が、気候変動で不当に苦しむ貧しい国々のために、その対策・適応に向けた資金を提供することがある。

チャールズ国王の環境への関心は、息子のウィリアム王子やその孫たちにも受け継がれている。2021年に公開されたドキュメンタリー「COP26:In Your Hands」では、現在9歳になるジョージ王子について、「気候変動がいかに、世界中で起こっているモンスーンや洪水、干ばつ、森林火災、食糧不足の原因になっているかを学んでいる」とチャールズ国王は明かしていた。

一方で、ワシントン・ポスト紙は、9月13日に掲載した「クライメイト・キングとしてのチャールズ国王の数々のパラドックス」という記事の中で、「チャールズ国王の環境に対する見方は複雑だ。自然や木々、野生動物を愛する古典的な環境保護主義者であると同時に、自分の土地での風力発電に反対し、プライベートジェットで世界中を飛び回り、かつて発展途上国の人口増加について批判をした伝統主義者でもある」と評している。

女王の死去で、今は失意の中にあるチャールズ新国王だが、海外メディアが報じているように、新国王が「気候対策王」(クライメイト・キング)として新時代を導くことを期待したい。

北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

オルタナ副編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部。

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キーワード: #気候変動

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