アニマルウェルフェアウォッシュに気をつけよう

記事のポイント


  1. SBTiは、企業のネットゼロ目標の科学的根拠を認定する国際イニシアティブだ
  2. SBTiは今月、カーボン・クレジットの使用を認めるルール緩和を発表した
  3. しかしスタッフらの猛反発で、「これまでの方針に変更なし」と発表した

【連載】アニマルウェルフェアのリスクとチャンス(18)

鶏舎内には「汚れも埃もありません」。アニマルウェルフェアや畜産動物の飼育についての知識が非常に浅い日本では、こんな説明をする大手企業がいまだにある。動物を飼育する中で、「汚れも埃もない」なんてことはありえないのだ。(認定NPO法人アニマルライツセンター代表理事=岡田 千尋)

日本では「アニマルウェルフェアウォッシュ」が相次ぐ

驚きなのは、この説明が数万〜数百万の鶏が閉じ込められるケージ鶏舎について言及している点だ。

実際とは異なる、または「良さそうに見せる」ための形容詞を使い、畜産動物のアニマルウェルフェアを売り文句にすることは、市民を裏切る行為だ。いわゆる「ウォッシュ」に当たる。

アニマルウェルフェアを担保するためには、客観的な指標が必要だ。だが、多くの日本企業がこの客観的指標を明示することなく、主観的な言葉を使っている。あいまいな形容詞で飼育の実態を覆い隠しているのだ。

例えば下記の文言事例を見てほしい。アニマルウェルフェアにとって特に意味のない言葉なのだが、当たり前のように使われている。典型的なアニマルウェルフェアウォッシュだ。

■鶏肉は「平飼い」
鶏肉のほとんどはケージ飼育をしておらず、卵の生産で批判の多いケージ飼育を意識して使われる。鶏肉が平飼いであることはアニマルウェルフェアが高いことを意味しない。

■各国の法令を遵守
密室状態にある畜産場の飼育、殺処分、輸送、と畜の過程で動物愛護管理法に違反しないことは難しいだろう。動物愛護管理法を守っているかどうかを畜産物を調達する企業が把握することは至難の業だ。

2019年の動物愛護管理法の改正における付帯決議では、動物愛護管理法やその規則の周知と遵守の徹底を促すべしとする内容が含まれた。たが、畜産動物が動物愛護管理法の範疇に入っていることを認知さえされていなかったり、守られていない事例が散見されたために含まれたのだ。どのような調査をして、または認証を経て、法律を守っていると断言するのかを考える必要がある。

■「自然豊かな環境」などの放牧を想起させる言葉
実際には違うのだが、放牧を想起させる言葉も散見される。「昔ながらの」「自然な」「のびのびと」などの言葉や写真やイラストだ。放牧、放し飼いと書かれていなければ、基本的には動物は屋外には出されていない。

■良好な環境で飼育、ストレスフリーな飼育など
このような表現をする企業や生産者は非常に多い。しかし、客観的な指標なしに、単純に良いと表現をすることは虚偽にもなり得る。

良好な環境とは何を指すのか、なぜストレスフリーになり得るのかを説明する必要がある。

客観的な指標は何を指すのか。例えば、鶏がケージに閉じ込められていないことや、飼育密度が明らかにされているか。または何種類のエンリッチメントを提供しているか、死亡率は何%下がったのか、怪我をしている動物の割合は何%改善されたかなどを明確に開示しなければいけない。

海外の先進企業のアニマルウェルフェアの開示情報を見ると、これらのことが開示されている。しかし日本では客観的な指標が開示されていることは現状ない。

企業との話し合いを行っている中で、企業自体があえてこのようなあやふやな形容詞を使っていることもある。また、生産者のあやふやな情報だけで判断して仕入れをしている場合もある。

アニマルウェルフェアの状況は客観的な指標で判断することが重要であり、またそれが可能だ。

大量の動物を飼育する畜産において、完璧はない。だからこそ、客観的な指標とそれを開示することを日本企業も意識し始めてもいい頃だと思う。

chihirookada

岡田 千尋(NPO法人アニマルライツセンター代表理事/オルタナ客員論説委員)

NPO法人アニマルライツセンター代表理事・日本エシカル推進協議会理事。2001年からアニマルライツセンターで調査、戦略立案などを担い、2003年から代表理事を務める。主に畜産動物のアニマルウェルフェア向上や動物性の食品や動物性の衣類素材の削減、ヴィーガンやエシカル消費の普及に取り組んでいる。【連載】アニマルウェルフェアのリスクとチャンス

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