孤児支援に30年、社会課題に向き合い気付いたこと

記事のポイント


  1. 約30年に渡り、フィリピンで孤児支援活動を行う横田宗さん
  2. 貧富の格差が大きい同国で社会課題に向き合うことの難しさを語った
  3. Z世代だけでなく、あらゆる世代に「働く」とは何かを問う

NPO法人ACTIONは約30年、フィリピンのストリートチルドレンや貧困層の支援を行う活動を展開しています。立ち上げたのは、学生時代から国際協力活動に関わってきた横田宗さん。「社会貢献」を仕事にする横田さんに「働く」とは何か聞きました。(那須りな・リジョブ)

筆者が働く株式会社リジョブは、創業13年目・平均年齢30歳というソーシャルベンチャー。45歳の広報担当として、思いきり平均年齢を引き上げています。

1976年生まれのこの世代は「X世代」「ナナロク世代」と言われ、バブル崩壊後の就職氷河期を経験しました。

当時、大学生の間では「市場価値を高め、給与の高い商社や金融系の大手企業に就職し、恵まれた環境下で働くこと」が就活の王道のように思われていました。

1998年に「NPO法(特定非営利活動法)」が制定されたといえど、NPO法人やベンチャー企業で働こうと考える学生は、ごく僅かでした。まして自ら社会起業家を志す学生など、ほとんどいない時代でした。

リジョブのソーシャルプロジェクトを通して出会ったのが、横田 宗さんです。筆者と同じ1976年生まれながら、学生時代に国際支援団体を設立し、以降フィリピンのストリートチルドレンや貧困層支援に携わってきました。

内閣府の調査によれば、日本国内で1994年以前に設立されたNPO法人はわずか7.8%。国外で30年近く活動を続けている横田さんは、とても稀有な存在です。

時代がX世代からY世代、そしてZ世代へと移り変わり、仕事を通して「社会貢献性」を体現することが当たり前になってきた昨今。ベンチャー企業やNPOへの就職を考える新卒学生も増えているといいます。

そういった時代背景を追い風に、横田さんの生き方を通して「社会課題に向き合う活動を続けるために大切なこと」を考えていきます。

NPO法人ACTION代表の横田宗さん

横田 宗(よこた はじめ) NPO法人ACTION代表
八王子市出身。高校3年時にピナトゥボ火山の噴火で被災した孤児院の存在を知り、修復作業に従事。帰国後にACTIONを設立し、孤児院支援を続ける。大学4年の秋に日本事務局とフィリピン事務局を開設し、以降現地を拠点に全事業を統括。子どもたちの生きる力を育む「チカラプロジェクト(職業訓練・教育・ケア活動)」運営をはじめ、小学校や孤児院支援、政府と連携したハウスペアレント研修の制度化、貧困層への金融教育など、その取り組みは現地に広がりしっかりと根付いている。株式会社リジョブとは、チカラプロジェクトの一環で貧困層の方々の自立をサポートするソーシャルプロジェクト「イヤシノチカラ」を協働で推進。現地でセラピスト養成無料講座を運営し、卒業生はのべ600名を超えている。

■はじまりは「好奇心」

「社会貢献活動に長年携わる人」といって多くの人がイメージするのは、我欲のない、博愛精神に満ちた人物像でしょうか。ただ、ソーシャルな活動に「自己犠牲を伴うボランティア精神」が求められることには違和感もあります。

はじまりは「自分の知らない世界を知りたい」といった純粋な好奇心でも、社会課題に実際に触れることで、価値観が変わることは多々あります。

フィリピンで28年間、孤児や貧困層の方々の支援に携わってきた横田さん自身、「高校1年時の障がい者施設ボランティアを通して、自殺未遂者などこれまでに無い価値観に触れたことが、今の活動につながる原体験になりました」といいます。

この体験が起点となり、横田さんは高校3年時に、フィリピンの火山噴火で被災した孤児院の復興作業に参加します。

そこで「海外で被災した方々は、どのような価値観で日々生きているのだろう?」という当初のきっかけが、現地の方々にお世話になったことで「いつかこの恩返しをしたい」との想いに昇華されて、大学在学中のACTION立ち上げに至ったそうです。

SNSなどで人と人が簡単につながれる時代だからこそ、ビジネスでもプライベートでも「リアルにその世界に触れて、何かを感じる機会」はとても貴重だと思います。

ACTIONではストリートチルドレンに寄り添ったり、海外支援に携わる現地体験プログラムを企画運営したりしています。

のべ3,000人以上の日本人が参加し、その後ACTION事務局のインターン生になったり、別の場所で国際協力に関わるようになったりと、ガラリと人生観が変わった人が多くいるそうです。

「自分たちがきっかけを提供することで、ひとりひとりに新しい価値観やアクションが生まれていく。その変化を見られる喜びは、30年近く現地支援に携わる大きな理由のひとつです」と、横田さんは話してくれました。

フィリピンでの現地体験プログラム

■「ボランティア精神」より、フラットな「お互いさま」

「ボランティア精神」は素晴らしいことですが、「してあげる側」「してもらう側」に分断されたり、「してあげる側」に活動が委ねられている状況は、何かしっくりきません。そこで、無理なく関係性を持続できる「お互いさま精神」が今、見直されています。

たとえば、ビジネスであれば社会課題を解決するサービスや商品を世の中に広め、正当な対価をいただくことが持続可能性につながります。NPOによるソーシャルな活動であれば、寄付などの活動原資をどう社会に還元するかという、経済性以外の価値創造が持続可能性につながると考えられます。

「お互いさま」の関係性を考えるうえで、私たちがACTIONとパートナーシップを結ぶ後押しとなった横田さんの言葉です。

「例えばフィリピンのストリートチルドレンは、生まれた環境によってほぼ人生が決まってしまうのが現実ですが、その子たち自身の能力や可能性、責任とは無関係ですよね。そこに対して『してあげる』という、上からの立場で向き合うことに違和感がありました」

「これはACTIONの活動に共感し、寄付をしてくれる企業や、助成金を出してくれる自治体に対しても同様です。『寄付をいただく』ことへの感謝はもちろん大切ですが、『いただく側』が必要以上にへりくだる関係性では、長く続かないだろうと」

「お金や技術、人、ノウハウなどを提供してくれる企業と、それを用いて実際に支援活動に携わるACTION。役割は違いますが、相手と自分たちがパートナーのような、志で結ばれた関係でいたいと思っています」

ACTIONの事務所前

■異なる価値観を受け止め、行動を起こし続ける

国内NPOの中で、国際協力活動を主として活動する団体割合はわずか3.4%(内閣府調べ)。これは、宗教・文化・生活習慣から社会構造までが異なる他国と関係を築き、支援活動を継続することの厳しさを伺わせる数値だと思います。

横田さんが拠点を置くフィリピンは、島国である・地震が多発・主食が米・家族を大切にするなど日本と共通点が多いです。一方、約2人に1人が貧困に苦しむいびつな社会構造を抱え「生まれた環境でその子の人生が決まる」と言われています。ストリートチルドレンから財閥富裕層まで経済格差は日本以上に大きく、その価値観も実に様々です。

「極端に言えば、人身売買をする側・される側にもそれぞれの考え方があり、原因が社会の構造にあるなら、そこから変えていかなきゃならない。そこで無力感に陥らず、自分のできる範囲を把握したうえで、範囲を広げ行動を起こし続けられる人がタフだと思いますし、ACTIONはそういう団体でありたいです」(横田さん)。

異なる価値観をまず受け止め、自分が当たり前と思ってきた価値観をアップデートできること。そのうえで、誰かのために行動し続けられること。

個人はもちろん、企業やNPOがこういったタフさを持つことが出来れば途上国の課題だけでなく、日本が抱える介護業界の人材不足や過疎地の活性化といった、業界や地域が抱える社会課題解決にも、よりスピード感をもって対処できるのではないでしょうか。

ストリートチルドレン、フィリピンでは約2人に1人が貧困に苦しむ

■フィリピン発「チカラプロジェクト」の可能性

おたがいさまの精神や、社会課題の根本解決につながる企画推進など、ACTIONが運営を担う「チカラプロジェクト」の考え方に共感し、リジョブはACTIONと2015年から協働しています。「イヤシノチカラ」という、フィリピンの貧困層の方々を対象としたセラピスト養成講座をスタートしました。

乳幼児期に最も大切なのは、自分が「生きている価値があるんだ」と感じられる自己肯定感を育むことと言われます。ですが、孤児院で育ったり、虐待を受けてきた子どもたちは日々を生き抜くのに精一杯です。

その子たちに「楽しい」「やればできる」といった自己肯定感をもつ機会を設けます。孤児院退所後に自分のチカラで生き抜くためのスキルとモチベーションを提供する活動が「チカラプロジェクト」です。

このプロジェクトで育む力は大きく2つあります。ひとつめは「夢中になれることを見つけ、心身を強くするためのチカラ」です。

フィリピン中部の13の孤児院の子どもを対象に、ダンス・空手・フットサルを通じて、自主性や協調性、責任感、連帯感を育むプログラムを実施しています。横田さん自身も空手の指導にあたり、「クーヤ ハジメ!(宗お兄さん!)」と皆に親しみをもって呼ばれています。

協調性や連帯感を育む「ダンスノチカラ」
横田さんも指導者として加わる「カラテノチカラ」

もう一つは、「手に職をつけ、自立をするためのチカラ」です。2013年からはヘアカット技術を学ぶ「ハサミノチカラ」を、2015年からはセラピストを養成する「イヤシノチカラ」を、それぞれ日本の美容サロンや企業とのパートナーシップという形で運営しています。

リジョブと協働で行う「イヤシノチカラ」では3か月間受講料無料のセラピスト養成講座を実施します。卒業生は600名超。最近ではセラピストとして活躍した卒業生が、講師として養成講座に戻り次世代を育てるといった、「幸せな循環」が生まれています。

手に職をつけ、自立を目指す「ハサミノチカラ」
セラピストを養成する「イヤシノチカラ」

■「自分だから出来る役割」「今だから出来ること」を広げ続ける

ACTIONが向き合う「途上国の貧困」は、とてつもなく大きな社会課題です。「長い活動の中で、果てしなさを感じることはありませんでしたか」という問いかけに横田さんはこう返しました。

「僕たちの根底にあるのは『出来ることを、出来る範囲で行いながら、その範囲を大きくする』という考え方です。結果、それが長続きするコツだと思いますし、義務感ではなく『活動自体が好きだから・誰かの役に立つのが嬉しいから』という想いで社会課題に向き合うプロジェクトに参加する人が増えたら、世の中はもっと生きやすく、楽しく、あたたかくなりますよね」

この言葉には、活動を続けてきたからこその重みが感じられます。加えて「今だから出来ること」という視点を大切に、先のチカラプロジェクトで言えば、コロナ禍で対面支援活動が難しい時期にはオンライン教材の開発を行ったり、イヤシノチカラ卒業生の就業につながるスパ開業準備を行うなど、平時に手が回らなかったことをひとつひとつ形にしています。

もうひとつ、横田さんが語る「自分たちだからできる役割を」という視点も、社会活動を深める上で重要だと感じました。

例えばフィリピンに「スパ協会」という業界団体設立の動きがある中で、公平性や中立性から外国人かつNPO代表の自身が取りまとめ役を担う方が上手くいくと思えばその役割を担ったり、子ども支援に関するNPOの地域まとめ役を任されたり。

もちろん横田さんが責任ある役割を任される背景には、28年にわたり支援に携わってきた圧倒的経験値とつながりがあります。ですが、それよりも「目の前の困っている人を、お互いさま精神で助けていく」ことの積み重ねが、気が付けばフィリピンで頼られ愛されるACTIONになったのだと思います。

あとがき:

「自分とはかけ離れた世界や価値観を知りたい」という興味関心をきっかけに、フィリピン支援に携わってきた横田さん。

ACTIONは現地の人々にとって「なくてはならない存在」となり、自治体や政府との協働プロジェクトも増えています。最近開発した子どもの心理ケアプログラムはフィリピン全土で採択され、2023年には日本に「逆輸入」する予定です。

その活動は、人とのご縁つながりでここまで広がりました。

話を伺って、孤児であれ政府高官であれ、常にフラットな目線で相手と向き合ってきた横田さんの持つ「人への興味と好奇心・愛情」が、30年近く現地活動に心を燃やし続ける原動力なのだと思いました。そして「お互いさま」の想いで、目の前で困っている人のために行動し続けることの重みを感じました。

大きな社会課題に対峙するとき、義務感や正しさだけでは息切れすることもある中、「できる事を、できる範囲で」という言葉はあきらめではなく、前向きな「支援する側とされる側、双方の持続可能性」という希望が含まれたキーワードではないでしょうか。

1994年、誰もNPOや社会貢献に目を向けなかったあの時代に横田さんがACTIONを立ち上げ、種を蒔いてくれたことが実を結んで、フィリピンの子ども達や社会を支えています。

そして今20~30代の方が社会貢献に目を向けた時に、ACTIONが活躍土台の選択肢のひとつとなって、そこでの体験や学びがまた次の世代へと、バトンがつながれていくことが楽しみです。

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CSV推進「咲くらプロジェクト」
内閣府「特定非営利活動法人に関する実態調査」報告書

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那須 りな(リジョブ 広報)

早稲田大学社会科学部 および 大原医療福祉保育専門学校卒。大学卒業後、PR会社を経て専門学校で保育を学び、音楽療法や障がい児療育に携わった後、ソーシャルベンチャー「リジョブ」の広報担当に。「事業を通した社会課題の解決」に若いメンバーと共に挑む、時短広報ワーキングマザー。オルタナでは、不定期で“社会性”に縁あるコラムを執筆。

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キーワード: #教育

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