カンヌに見るSDGsコミュニケーションの新潮流③

カンヌに見るSDGsコミュニケーションの未来

記事のポイント


  1. カンヌ受賞作品は社会課題の解決を切り口にした作品が多い
  2. 海外の作品には政府も動かすほどのインパクトを与えたものも
  3. 受賞作品から活用できそうなアイデアを専門家が紹介

世界3大広告賞の一つである「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル(通称:カンヌライオンズ)」では、今年もSDGsコミュニケーションの今後を示唆する作品が多く誕生した。海外の作品には政府も動かすような運動や、壮大なスケールで展開されている施策も多く、自分とは縁遠いと感じてしまう人も少なくないだろう。そこで本稿では、受賞作品の中から施策のスケール感に関わらず、活用できそうなアイデアをピックアップしていこうと思う。(伊藤 恵・サステナビリティ・プランナー)

■捨ててからも役に立つ「The Killer Pack

インドの殺虫剤ブランドMaxx Flashがおこなった施策。インドでは、年間4億人がデング熱にかかっているといわれ、その原因となる蚊の発生を抑制することは、命を守ることに直結している。

そこで、Maxx Flashは販売している蚊取り線香のパッケージに殺虫成分を染み込ませ、ゴミ箱や野外など捨てられたパッケージ自体が蚊の発生源を抑えるしくみを構築した。

製品の蚊取り線香だけでなく、パッケージでも蚊の発生を抑える。しかもそのしくみを実現するために、消費者は「いつものように」パッケージを捨てるだけ。消費者へ態度変容を促すことなく、効果を最大限に発揮できるとてもクレバーな施策だ。

■フードロスと食糧不足を同時に解決「GOODIE BOX」

フードロスをなくすために、食べきれなかったものを持ち帰るボックスを用意している飲食店は増えてきている一方、利用する人は増えていかない。

利用したいとは思っていても、実際に行動に踏み出せている人は国内でわずか5%だった。たくさんの人が持ち帰りボックスを利用し、フードロスを削減していく。

それと同時に貧困層への食料支援もおこなえるスキームをうみだしたのが「GOODIE BOX」だ。

レストランなどで提供する持ち帰りボックスに、食料支援のための寄付がその場でできるQRコードがついている。

これにより持ち帰りをためらっていた人が食事を持ち帰るようになり、利用率は5%から90%と飛躍的に上昇。また寄付による食事を増やすことにも成功した。

持ち帰りボックスにQRコードをつけるというちょっとした工夫で、フードロスと同時に食事を食べられない人が存在するという矛盾を一気に解決したアイデアだ。

本来捨てられるだけだった商品のパッケージも活用する。QRコードをつけることで、人々のためらう気持ちを後押しする。

紹介した2つはいずれも大規模な展開をせずとも、商品やパッケージを工夫するアイデアで突破した事例だ。

カンヌを受賞した作品の中には、壮大なスケールのものだけではなく、このようにちょっとした工夫で人々を動かした事例も数多く存在する。SDGsコミュニケーションに関わる中で、カンヌなどの海外賞の事例から解決の糸口がみつけられるかもしれない。

itomegumi

伊藤 恵(サステナビリティ・プランナー)

東急エージェンシー SDGsプランニング・ユニットPOZI サステナビリティ・プランナー/コピーライター 広告会社で企業のブランディングや広告制作に携わるとともに、サステナビリティ・プランナーとしてSDGsのソリューションを企業に提案。TCC新人賞、ACC賞、日経SDGsアイデアコンペティション supported by Cannes Lionsブロンズ受賞。執筆記事一覧

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キーワード: #フードロス

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