米銀大手6行、FRBの気候変動プログラムに参加へ

記事のポイント


  1. 米銀大手6行はFRB主導の試験的な気候変動プログラムに参加する
  2. 気候変動によって直面するリスクの特定や管理の強化が期待される
  3. 米国の銀行規制当局は、気候変動関連リスクの考慮の必要性を強調した

米大手銀行6行は米連邦準備制度理事会(FRB)が主導する試験的な気候変動プログラムに参加することを発表した。今回の動きは、銀行に対してより厳しい資本要件や監督要件を発動するものではない。気候変動によって金融セクターが直面しうるリスクの特定ならびにリスク管理の強化につながることが期待される。(北村 佳代子)

気候変動リスクへのレジリエンスを評価する(画像はイメージ)

このプログラムは、複数の気候シナリオの仮定の下で、異常気象などの気候変動が金融機関の事業戦略やポートフォリオにどのような影響をもたらすか計測する。各行の気候変動リスクに対するレジリエンスを評価する。

参加する銀行はシティグループ、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックス・グループ、バンク・オブ・アメリカ、JPモルガン・チェース、ウェルズ・ファーゴの6行だ。

FRBは、「シナリオ分析を通じて、将来起こりうるさまざまな気候の経路とそれに関連する経済・金融への影響を考慮することで、企業や監督当局が、気候関連の金融リスクがどのように出現し、また過去の経験とはどのように異なるかを理解するのに役立つ」とした。

2023年にプログラム開始後、年末までに終了する予定だという。開始にあたっては、FRBがシナリオに用いられる気候、経済、金融などの変数を公表する。試験導入の終了時には、個別企業の情報は公表せずに、プログラムから得られた総合的な結果を発表するとしている。

ニューヨーク・タイムズ紙は、英国のイングランド銀行ではすでに同様の取り組みが行われていることを紹介し、「気候関連リスクに関する諸施策に関して、世界の他の中央銀行に後れをとってきた我が国の中央銀行にとって重要な動きだ」と記した。

日本でも8月に、金融庁と日本銀行が、メガバンクや大手損保と実施した「気候関連リスクに係る共通シナリオに基づくシナリオ分析の試行的取り組み」を公表している。

金融業界団体のフィナンシャル・サービス・フォーラムの広報担当者は会員6行がFRBに協力することを歓迎する。

米ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、「会員各行は、気候関連財務リスクに対するエクスポージャーを健全に管理する必要性を認識しており、これまでも数年間、リスク管理の枠組みに気候関連リスクを組み込んできた」と述べたという

実際に、多くの大手銀行は何年も前から気候リスクを考慮し、そのシナリオ分析には比較的単純な定性分析からより高度な定量分析まで、さまざまな手法が用いられてきた。

米ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、企業向けESGアドバイザリー業務を手掛けるロープス・アンド・グレー法律事務所のパートナー、マイケル・リッテンバーグ氏は次のように述べる。「気候リスクは非常に複雑な分野で、正解は一つではない。FRBが大手銀行と共同でこの課題に取り組むことは正しい」。

また、銀行の化石燃料への融資に警鐘を鳴らしてきた自然保護団体のシエラクラブも、今回のプログラムを「有望なスタート」と評価していると、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は紹介する。

米国の銀行規制当局は、金融機関が直面する従来型のリスクの中でも、気候変動関連リスクの考慮の必要性を、より強調するようになってきた。2021年12月には、米通貨監督庁(OCC)が、大手銀行が気候変動関連リスクにどのように対処すべきか、ガイダンスの草案を発表した。

またOCCは9月初め、ニューヨークの金融規制当局や大手銀行で経験を積んだリスク専門家のユエ・チェン氏をCCRO(チーフ気候リスクオフィサー)に任命した。 大手銀行側も、気候変動関連リスクへの検討を進めており、今年1月には、19の銀行とリスクマネジメント協会が、気候変動関連リスクに共同で対処するためのコンソーシアムを結成している。

北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

オルタナ副編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部。

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キーワード: #気候変動

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