「30年46%減ではパリ協定は達成できない」と専門家

記事のポイント


  1. パリ協定の目標はこのままでは達成できないと指摘する専門家が相次ぐ
  2. パリ協定は世界の平均気温の上昇を1.5℃に抑えることを長期目標に掲げる
  3. ドイツの研究機関は日本は30年までに62%減(13年度比)を目指すべきと主張

「このままでは日本はパリ協定の目標を達成できない」と指摘する専門家が増えている。2015年に国連で採択したパリ協定は、世界の平均気温の上昇を1.5℃に抑えることを長期目標に掲げる。日本はこの国際目標に整合した削減目標として2030年に温室効果ガス46%減(2013年度比)を定めたが、海外の研究機関は30年までに最低62%減(13年度比)にするべきと主張する。(オルタナS編集長=池田 真隆)

米ニューヨークの国連本部

ドイツに拠点を置く研究機関「クライメート・アクション・トラッカー(CAT)」は2021年3月、報告書を発表した。同研究機関は気候変動に関する国際的な研究組織IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の調査にも参加する団体だ。

主な活動は気候変動対策の監視だ。世界の排出量の8割を占める32カ国を対象にパリ協定に整合した取り組みを行っているか調べている。

報告書ではパリ協定が定めた1.5℃目標を達成するために各国の温室効果ガス(GHG)の削減目標を検証した。

「現状の各国の目標では、非常に不十分だ」と強調し、仮に現在の政策を進めると2100年には世界の平均気温は2.5〜2.9℃上昇するという見通しを立てた。日本に対しては、2030年までに2013年度比で62%のGHGを削減するように求めた。

「IPCCのレポートでは未実証の技術に頼っている」

そもそも日本の目標(46%減、2013年度比)はIPCCのレポート「1.5℃特別報告書」を参考にして作った。同レポートでは、2030年時点で、世界全体でCO2の正味排出量を45%削減(2010年比)すべきとまとめた。

この数値を参考に日本は削減目標を決めたが、クライメート・アクション・トラッカーが62%を求める理由は主に3つある。

一つ目は、将来の人口増加率と経済成長率だ。発展途上国に比べて先進国の今後の人口増加率と経済成長率は低い。ましてや日本は今後人口が減っていく。そのため、削減目標を大きくすることができると主張する。

二つ目は、未実証の技術に頼って削減目標を達成しようとしている点だ。IPCCのレポートでは実用化に向けて開発中のCO2除去・削減技術などの活用が盛り込まれている。しかし、実用可能性が未確定の部分が大きい。

最後は、削減目標の公平性だ。日本のこれまでの排出量を考えると、世界平均の水準に合わせるのは「不公平」と指摘した。

■「日本はNDCの更新はしない」

11月6日からエジプトでCOP27(第27回気候変動枠組条約締約国会議)が開かれる。前回のCOP26では参加国に対して、1.5℃目標を達成するために削減目標の実行とさらなる見直しを求めた。

さらなる見直しとは、「NDC」の更新を指す。パリ協定参加国には、1.5℃目標を達成するために削減目標の進捗などを報告することを求めた。これがNDCである。途中で目標数値を引き上げることもできる。

COP27まで1カ月を切ったが、日本は更新しない予定だ。環境省地球環境局脱炭素社会移行推進室の小福田大輔室長補佐は、「現時点ではNDCに関して議論をしていない。削減目標の数値を引き上げる考えはない」と言い切る。

一方、国際環境NGO 350.org Japanの伊与田昌慶コミュニケーション・コーディネーターは、「30年46%減の現状の政策が1.5℃の長期目標と本当に整合するのか。科学的に証明できていない」と疑問を呈した。

「前回のCOP26では参加国に対して、1.5℃目標に整合するようにNDCを見直すことを求めた。気候変動対策に真摯に向き合うなら引き上げるべき。これまでに排出してきた排出責任や人口が減る状況から考えて、今の目標にとどまってはいけない」と話した。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナS編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナS編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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