「カミングアウト」巡るSNS投稿が炎上、何が問題なのか

10月11日の「国際カミングアウトデー」に合わせ、花王や宅配寿司チェーン「銀のさら」がSNSに投稿した内容が物議をかもしている。「カミングアウト」を打ち明け話ととらえ、カミングアウトの重みを軽視するような投稿に批判が集まったが、改めて何が問題だったのか。(オルタナ副編集長=吉田広子)

LGBTQの社会運動を象徴する6色のレインボーフラッグ ©️Daniel James – unsplash

「クローゼットから出て来る」の意味も

「国際カミングアウトデー」(National Coming Out Day)は、LGBTQ当事者たちを祝福し、カミングアウトを前向きに応援しようという目的で1988年に制定された。ただし、カミングアウトを強制するものではない。

1987年10月11日に「レズビアンとゲイの権利のためのワシントンマーチ」が行われたことから、10月11日を記念日とした。現在は、ロビイング活動や政策提言などを行う米NGOヒューマン・ライツ・キャンペーン(HRC)が事務局を務める。

米国では、バイデン大統領が記念日に合わせ、LGBTQ支援を約束する声明を出すなど、全国的なムーブメントになっている。

そもそも「カミングアウト」とはどういう意味か。

LGBTQ情報サイト「PRIDE JAPAN」によると、「カミングアウト(またはカムアウト)」は、自らの性的指向や性自認を自身の意志で他者に伝えることを意味する。ゲイの間で用いられていた「クローゼットの中から出て来る(coming out of the closet)」というスラングがLGBTQコミュニティに浸透し、世界中に広まったようだ。

「クローゼットから出て来る」という言葉が示すように、秘めていたことを公言するというのは、覚悟と勇気がいる行為だ。

LGBTQ当事者であることを明かす、アイルランド出身の日本コカ・コーラ人事本部長パトリック・ジョーダンさんも、10代で自殺を考えるほど悩み、25歳でカミングアウトを決意してから、実際に打ち明けるまで8年もの月日を要したことを本誌取材で明かしている(参考記事:LGBTQ当事者の日本コカ人事部長が明かす葛藤と希望)。

■花王と「銀のさら」がツイッターで炎上

花王と「銀のさら」の公式ツイッターアカウントは10月11日、この国際カミングアウトデーに関連した内容を投稿した。花王は同社製品のメリットがノンシリコンシャンプーであること、銀のさらはサンドイッチから事業が始まったことを「カミングアウト」した。

自衛隊大阪地方協力本部も、マスコットキャラクター「まもるくん」の発言として、ほふく前進が得意だとツイッターで「カミングアウト」した。

ところが、こうした内容に「カミングアウトの意味を理解していない」「宣伝に利用した」として批判が集まり、各者は謝罪することになった。

一般社団法人fair代表理事の松岡宗嗣さんは、ラジオ型トーク番組Radio Dialogueに出演し、今回のSNS投稿に関して「カミングアウトをちょっとした打ち明け話として使ってしまったことが問題だった。カミングアウトという言葉の重みや歴史を軽視したり、矮小化や無化してしまったりすることにつながる」と指摘した。

そのうえで「思慮に欠けた発言自体は問題だが、真摯に受け止めて反省している点は責められるべきではない。考えを変えていくことが何よりも重要。本来、考えるべきは、なぜカミングアウトという言葉が必要になるのか、その背景にある、マイノリティをクローゼットに追いやっている多数派の責任について考えることが大切だ」と続ける。

「企業には、反省を生かして、マイノリティが生きやすい社会の実現に向けて、具体的なアクションに生かしてほしい」(松岡さん)

LGBTQの割合は、日本人口の8.9%に上る(出典:「電通LGBTQ+調査2020」)。つまり、日本に約1100万人の当事者がいる計算になる。

積極的にLGBTQを理解し、サポートする人を「ally(アライ)」と呼ぶが、日本社会全体がアライになっていくことが必要だ。

yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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キーワード: #ジェンダー/DE&I

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